第70回:トヨタ・クラウン エステート(後編) ―影が薄いのは計算済み? 4車種展開にみるトヨタのスゴ味―
2025.05.21 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
「エステート」の登場でついにラインナップが完成した「トヨタ・クラウン」シリーズ。しかし、こんなにたくさん車種があって本当に大丈夫? そもそもエステートって、なんか印象が薄くないか!? 話題の新車にみるトヨタの狙いを、カーデザインの識者と考える。
(前編に戻る)
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複雑なモチーフをすんなり見せる力量
清水草一(以下、清水):クラウン エステートは、なんかこう、語ることがあんまり出てこないんですよ。うまくまとってるなっていう印象なんですけど。渕野さん、どうですか?
渕野健太郎(以下、渕野):いや、むしろそれがトヨタの狙いなんじゃないかと。リアクオーターの写真を見ても、かなりボリュームは強いけどシンプルじゃないですか。やっぱりまとまりがいいんです、ほかのクラウンに比べても。前回も話しましたけど、普通高級車ではやらないようなデザインモチーフを、こんなにすんなりまとめてるのがスゴい。
清水:そうなんでしょうけど……。2年前のプレス試乗会で、4車種のクラウンが並んでたんですよ。そのときはエステートにいちばん注目してたんで、食いつくように見てたんですけど、意外と存在感が薄くて拍子抜けだったんですよね。
渕野:それは、顔まわりが原因じゃないですか?(笑)
webCGほった(以下、ほった):顔しか見てない清水さん(笑)。
清水:いや、顔まわりを含めて全部。これだけ大きいのに、あんまり迫力を感じなかった。正直、エステートで『カーデザイン曼荼羅』を前後編2回やるのは、大変だなと思ってました。(全員笑)
渕野:エステートの発表でクラウンのラインナップがそろったわけですから、クラウンシリーズを総括する方向でまとめるのもアリですよね。
ほった:前編の段階で、すでにそのような流れになってますしね。今からでもタイトルを変えたいぐらいです(笑)。
ただエステートに関しては、「クラウンっていうブランドのなかのSUV系のモデル」といわれて、いちばん想像に近いクルマだなってのは思うんですよ。「スポーツ」と「クロスオーバー」は、クラウンっていうくくりのなかではかなり異質で、「どちらかっつったら新型『ハリアー』だろ!」みたいな感じでしょ? ワタシもそうですけど、世の皆さんに「クラウンSUV」っていう車種を想像してもらったら、やっぱりこのエステートがいちばん近いんじゃないかな?
すっかりハンサムになっちゃって
清水:まぁいろいろ言っちゃったけど、なんだかんだ言ってもエステートはカッコいいよね。普通にカッコいいよ。昔のクラウン エステートと比べたら……。
ほった:昔のエステートもカッコいいじゃないですか(笑)。
清水:やっぱりほった君はそっち側の人か!!(笑) 同業者の渡辺敏史君が、昔のクラウン エステートをずーっと心のなかで狙ってるって言ってたんだよ。
ほった:11代目クラウンのエステートは名車ですよ。
清水:そういう変態カーマニアって結構いるよね。「あれのどこがいいの!?」って聞くと、「まぁ、ダサいところですかねぇ」って(笑)。カーマニアとして、その気持ちはわかる。わかるけど、それって裏の裏でしょ。イモムシが大好きみたいな。前のクラウン エステートって、ダサさの凝縮みたいな感じで、そこに引かれるタイプだったじゃない。それが四半世紀を経て、まさかこんなにカッコよく生まれ変わるなんて。
渕野:いやー。前のエステートを引きずってる人は、それこそカーマニアのなかですらごく一部で(全員笑)、名前以外、今度の新型とは全然リンクしてないと思いますけど。
清水:まったく別世界ですよね(笑)。前のエステートはヤンキー趣味だったのかな? 日本のなかのダサいアメ車みたいな。
ほった:ド偏見もいいところですね(笑)。
渕野:自分も、1990年代当時に出たときはダサいなと思っていたセダン、例えば「トヨタ・プログレ」とかは、今見ると逆にカッコいいと思っちゃいますが(笑)、あそこらへんのジャンルに属する雰囲気はありますよね。で、新型はやっぱり、それとはまったくカテゴリーが変わってる。
清水:そのあたりのクルマって、完全に昭和レトロ博物館の収蔵物ですから。コタツでブラウン管テレビ見ながらミカンを食べるみたいな。そういうところに引き込まれたんですよ。
ほった:でももう、そういう時代じゃないでしょ。
清水:そりゃそうだよ、だって博物館モノなんだから!
渕野:ただ普通に考えると、今のクラウン セダンをベースにエステートにするっていうのが、これまでのやり方ですよね。それはそれで、クルマとして成立しそうな気はしますよ。ただ、今の流れだとステーションワゴンよりSUVだし、SUVに近い形のほうがいいだろうっていうことで、新型エステートが出てきたと。
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商品の細分化にみるトヨタのスゴ味
渕野:それにしても、こうして全ラインナップを並べてみると、清水さんの言われる、「エステートは、ちょっと個性が弱いんじゃない?」っていうのもわかりますね。前回も言いましたけど、もうちょっと車種を整理したほうがよかったんじゃないかと(笑)。というか、それが普通のやり方でしょう。
ほった:そうですよねぇ。
渕野:ただ面白いのは、この4車種にしても、トヨタはお客さんをちゃんと分析してクルマを送り出したんだろうってことなんですよ。ほかのメーカーよりもお客を細分化して、おのおのにピンポイントで商品をあてていく戦略だとすると、やっぱりスゴい。そんなこと、ほかのメーカーじゃできないですよ。
清水:豊田章男さんが、「いいのができたから、全部売っちゃおう!」みたいな感じだったんじゃないの?
ほった:それもありそうですけど(笑)。でも結局、「クラウン セダン」ですら月に700台とか800台とか売れてるわけじゃないですか。このご時世に大したもんですよ。セダン不遇の時代に、それだけの需要をきっちりとらえてるんだから。
清水:そうだよね、月800台はすごいっちゃすごい。「レクサスLS」なんて100台だもん。
ほった:「ホンダ・アコード」も「日産スカイライン」も、そんなもんでしょうしねぇ。
ほった:まぁ商品の細分化に関しては、クラウンをブランドとして独立させたかったって理由のほうが強いんじゃないですか? なにせクルマにも、フロントにドカンと“王冠マーク”ですから。
渕野:そうそう。ブランディングもすごくて、もともと1車種の車名だったものを、ブランドに格上げしてるんですよね。「ランドクルーザー」もそんな風に展開していますし。さすが商売上手というか、みんなに浸透してる名前を最大限活用してる。
三車三様の選ばれる理由と、選ばれない一台
ほった:とはいえですよ、さすがにエステートが出ちゃって、これでクロスオーバーにはトドメが刺されるというか、引導を渡すことになっちゃうんじゃないのかな。
清水:クロスオーバーには、タクシー/パトカー用として生きる道がある……。
ほった:いずれは「スズキ・キザシ」のような扱いになってしまうのかも。
……という感じでですね、エステートの話をしようとしても、いつの間にかほかに脱線してしまうぐらい、とりたてて語る熱量が引き出されないクルマではあるんですよねぇ、クラウン エステート。やっぱ、ワタシみたいなのは露骨にターゲットからはじかれてるんで、議論にも身が入らないのかな。メディア関係者としてよくないことですが。
清水:そうだねぇ。渕野さんが買うとしたら、この4車種ではどれがいいですか?
渕野:エステートもいいと思いますが、自分はオーソドックスな人間なんで、まだセダンかな(その1、その2)。ただ前も言いましたけど、Cピラーがファストバック的に流れてるのはあまり好きじゃないんで、そこは普通の、ノッチバックのセダンっぽくあってほしかった。ホフマイスターキンクのBMWみたいに、ピラーの流れがちゃんとタイヤに乗っかってるようなデザインだったらよかったんですけど。
清水:僕はスポーツですね、断然。
ほった:あら、セダンじゃないんですね(参照)。ワタシは……そもそもクラウンを買うなんて富士山が爆発しても起こりそうにないですが、それでも買えってなったら、今はエステート一択だなぁ。
清水:そして誰にも選ばれないクロスオーバー(笑)。
渕野:……あれ。でも清水さん、「クラウン スポーツは、ぼよっとしてたり溶けちゃったみたいな造形で、好きじゃない」って言ってましたよね。
清水:そ、そうでしたっけ……。
ほった:苦手な「GRスープラ」みたいな造形だって言ってましたよ(笑)、確かに。証拠もあります(参照)。
清水:すいません、そうだったかも……。でもそれはあくまで第一印象で、実際に街を走ってるのを斜め後ろから見て、あのポヨッとしたお尻にホれ直したんですよ。
渕野:スポーツを街なかで見ると、ハッとさせられますからね。
清水:なんかすごいのが走ってるっていう。
渕野:すごいよくできてると思いますよ。ほんとに。
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次の展開はSUVか、スポーツカーか
清水:続いて、ほった君がエステートを選んだ理由を。
ほった:今回はエステートが主役ですから、花を持たせて差し上げたんですヨ(笑)。あとはやっぱり、このラインナップではいちばん伸びやかで豊かさが感じられるからかなぁ。皆さんご存じのとおり、ワタシはアメ車が好きなんです。だもんで、欧州車的に凝縮されてて攻撃的なクラウン スポーツって、やんちゃすぎてアカンのですよ。その点エステートは、ジープの「グランドチェロキーL」……って言ったらかなりほめすぎですけど、そういう感じの落ち着きや豊かさがあるなと。
清水:アメリカの風景の中では、エステートがいちばん映えるかもね。
ほった:アメちゃんにはこれがいちばん喜ばれるんじゃないですか? まぁ向こうでは、そもそもエステートとクロスオーバーしか売ってないんですけどね。
清水:とにかく北米ではエステートがメインだね。
ほった:需要のど真ん中に、いちばん近い車形ですからね。
渕野:とはいえ、いずれにしろアメリカでもニッチなクルマではあると思うんですよ。これをエステートっていってるのは国内だけでしょうけど、確かにちょっとワゴンライクなところもあって、実際、寸法的にはSUVとワゴンの中間じゃないですか。清水さんのいう個性の弱さの原因には、「何者なのかわかりづらい」っていうのもあるのかなと思うんですよね。クラウン クロスオーバーもそうなんですけど、どういうクルマなのかって聞かれたときに、うまく説明しづらい。
ほった:結局、今回のクラウンのラインナップのなかには、王道のSUVってないんですよね。
渕野:いや、次で準備してるかもしれませんよ。クラウンの次のモデルは本格SUVかもしれないし、逆にスポーツカーかもしれない。
ほった:クラウン クーペは見てみたいな。昔の「ソアラ」みたなやつを。
渕野:いろんな展開があり得るんじゃないですか、今後も。そう予感させます。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、向後一宏、郡大二郎、ステランティス、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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