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新型「ホンダ・フリード」vs.「トヨタ・シエンタ」 そのバトルの行方は?

2024.05.09 デイリーコラム 佐野 弘宗
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再びトップを目指す「フリード」

8年ぶりにフルモデルチェンジした新型「フリード」の姿を、2024年6月の発売を前に先行公開したホンダ。その開発責任者である本田技研工業の安積 悟(あづみ さとる)さんに「トヨタの『シエンタ』をどれくらい意識していますか?」とずばり聞いてみた。

というのも、全長4.2~4.3mで3列シートをもつ、いわゆるコンパクトミニバンというジャンルでは、“シエンタvs.フリード”という一騎打ちの構図が長らく続いているからだ。ここ数年の販売台数の推移を見ても、この2台が、いかに激しいつばぜり合いを繰り広げているかがうかがえる。

たとえば、2019年度(同年4月から翌年3月、以下同様)の販売台数は、シエンタが約11万台(国内登録車販売ランキング3位、以下同様)だったのに対して、フリードは約8万4000台(7位)だった。しかし、コロナ禍のうえにシエンタがモデル末期にさしかかった2020年度は逆転して、フリードが約7万3000台(8位)、シエンタが約6万8000台(11位)。この構図は2021年度も大きくは変わらず、約7万4000台(8位)のフリードが、約5万台のシエンタ(14位)をおさえた。

続く2022年8月、トヨタはプラットフォームからすべてを刷新するシエンタのフルモデルチェンジを実施した。その効果が如実に出た2022年度は、約9万3000台(5位)のシエンタが約8万台(6位)のフリードを再逆転する。新しいシエンタは屈指の大ヒット商品となり、翌2023年度は販売台数を12万台以上まで伸ばして、国内登録車ランキングでも3位を獲得。対するフリードはモデル末期というハンディもあって、約7万5000台の10位。これまでにない大差をつけられた。

というわけで、新型フリードは再びの逆転を期しているはずである。実際、1.5リッターのハイブリッドシステムを「フィット」や「ヴェゼル」に続き「e:HEV」に切り替えたり、「エアー」と「クロスター」というデザインを明確に差別化した2系統のシリーズを用意したり……と、いくつかの新機軸を打ち出す。

8年ぶりにフルモデルチェンジを行い、3代目に進化した「ホンダ・フリード」が間もなく正式発売される。開発のグランドコンセプトは「“Smile”Just Right Mover~こころによゆう 笑顔の毎日」とされている。
8年ぶりにフルモデルチェンジを行い、3代目に進化した「ホンダ・フリード」が間もなく正式発売される。開発のグランドコンセプトは「“Smile”Just Right Mover~こころによゆう 笑顔の毎日」とされている。拡大
2連のデイタイムランニングランプ/ターンシグナルランプが目を引く新型「フリード」のフロントマスク。最新のハイブリッドユニット「e:HEV」を搭載するために、フロントオーバーハングは40mm長くなっている。
2連のデイタイムランニングランプ/ターンシグナルランプが目を引く新型「フリード」のフロントマスク。最新のハイブリッドユニット「e:HEV」を搭載するために、フロントオーバーハングは40mm長くなっている。拡大
プラットフォームは先代型の進化版。Aピラーの角度も変わっていない。エクステリアデザインでは、「年代や性別を問わず、すべての人がどんなシーンでも安心して快適に過ごせることを目指した」という。
プラットフォームは先代型の進化版。Aピラーの角度も変わっていない。エクステリアデザインでは、「年代や性別を問わず、すべての人がどんなシーンでも安心して快適に過ごせることを目指した」という。拡大
3代目「フリード」では、上質で洗練されたデザインの「エアー」と、力強く遊び心にあふれる「クロスター」(写真)の2種類をラインナップ。クロスターは前後フェンダーにクラッディングが追加され、全幅が1720mmとなる。
3代目「フリード」では、上質で洗練されたデザインの「エアー」と、力強く遊び心にあふれる「クロスター」(写真)の2種類をラインナップ。クロスターは前後フェンダーにクラッディングが追加され、全幅が1720mmとなる。拡大
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ずばり! シエンタを意識している?

しかし、新型フリードもクルマそのものは明確なキープコンセプトで、骨格設計となるプラットフォーム(車台)にしても、現行型で完全刷新されたシエンタとは異なり、フリードのそれは従来改良型である。まあ、フリードの車台は先代で刷新されており、同じ車台を少なくとも2世代くらい使うのは定石だ。シエンタもたまたま現行型で車台が刷新されたが、フルモデルチェンジごとに必ずしも新開発されるわけではない。

しかも、フリードの場合、車台設計で最大のキモとなるフロントセクション(エンジンルーム配置や衝突安全性を決定づける)こそフィットやヴェゼルと共有するが、後半部分はほぼ専用設計となっている。「センタータンクレイアウト」をうたうフィットやヴェゼルでは燃料タンクが置かれるフロントシート下も、フリードではハイブリッド制御ユニットのスペースとなっており、燃料タンクはセカンドシート付近の床下に配されている。

「新型も先代とほぼ同様にシンガポールや香港に少量輸出する予定はありますが、基本的には日本のためにつくっています」と開発責任者の安積さんも語るフリードは、実質的にはほぼ日本専用モデルといっていい。今どきの日本市場の規模では、下まわりをバンバン切り替えるのはコスト的にもむずかしい……のは、フリード以外の例を見ても分かる。ただ、新型フリードは車台だけでなく、基本プロポーションを決定づけるAピラーの角度も先代から変わっていないのだ。

というわけで、話は冒頭に戻る。いろんな事情があるとしても、いまだに勢いが衰えないシエンタに対して、新型フリードはちょっとインパクトに欠けるのではないか……という意味で、素直に安積さんに聞いてみたわけだ。

安積さんは、「クルマづくりでいえば“シエンタさん”はあまり意識していません。シエンタさんとフリードでは、戦いかたといいますか、想定するお客さまや価値観が、そもそもちがっています」という。

3代目「フリード」の開発責任者を務めた本田技研工業 電動事業開発本部 BEV開発センターの安積 悟(あづみ さとる)さんに「トヨタの『シエンタ』をどれくらい意識していますか?」とずばり聞いてみた。
3代目「フリード」の開発責任者を務めた本田技研工業 電動事業開発本部 BEV開発センターの安積 悟(あづみ さとる)さんに「トヨタの『シエンタ』をどれくらい意識していますか?」とずばり聞いてみた。拡大
取り出しやすさを追求したトレーをダッシュボード下部に配置。バイザーレスのメーターナセルを組み込んだ水平基調のインストゥルメントパネルや、現行型「フィット」と同様の2本スポークのステアリングホイールも、新型「フリード」における特徴になっている。
取り出しやすさを追求したトレーをダッシュボード下部に配置。バイザーレスのメーターナセルを組み込んだ水平基調のインストゥルメントパネルや、現行型「フィット」と同様の2本スポークのステアリングホイールも、新型「フリード」における特徴になっている。拡大
リビングライクな素材コーディネートを採用したと紹介される「フリード エアーEX」のインテリア。シートの表皮には、はっ水・はつ油機能のある「FABTECT(ファブテクト)」が用いられている。
リビングライクな素材コーディネートを採用したと紹介される「フリード エアーEX」のインテリア。シートの表皮には、はっ水・はつ油機能のある「FABTECT(ファブテクト)」が用いられている。拡大
3人掛けのセカンドシートは「フリード エアー」にのみ設定される。ベンチタイプのシートは、オムツ替えなどのためにフラットな空間がほしいという人に選ばれているという。センタータンクレイアウトの「フィット」や「ヴェゼル」とは異なり、このセカンドシート付近の床下に燃料タンクが配置されている。
3人掛けのセカンドシートは「フリード エアー」にのみ設定される。ベンチタイプのシートは、オムツ替えなどのためにフラットな空間がほしいという人に選ばれているという。センタータンクレイアウトの「フィット」や「ヴェゼル」とは異なり、このセカンドシート付近の床下に燃料タンクが配置されている。拡大

新型フリードの機先を制するシエンタの商品改良

さらに、「われわれから見ると、シエンタさんは基本的に5人乗りのクルマで、2列目より後ろは、あくまで荷室としての機能を優先されているように見えます。実際、われわれの調査でも、シエンタさんはリーズナブルな売価が最大の価値になっています」と、安積さん。

なるほど、そうきますか……。もっとも2024年4月末時点で、シエンタの車両本体価格は1.5リッター純エンジン車(FFのみ)で195万円~256万円、ハイブリッド車で238万円~310万8000円となっている。対して、すでに旧型となったフリードは、同じ1.5リッター純エンジン車で233万0900円~280万9400円。シエンタと同じFFにかぎっても、最高価格は272万0300円に達する。で、ハイブリッドは268万8400円~321万5300円。たしかに、フリードの価格帯のほうが高めではある。

「ホンダにとっては3列シートをしっかり備えているのがミニバン最大の価値であり、コンパクトサイズで本当に“ミニバン”といえるのはフリードだけだと思っています。現実の販売現場でもシエンタさんと比較されることは少なく、フリードは、どうしても必要なお客さまにしっかり買っていただいているという結果が出ています」と安積さんは続けた。

とはいえ、新型フリードの機先を制するかのように、トヨタがシエンタの商品改良を予定しているとのウワサも聞こえてきている。トヨタはフリードに対するライバル意識を隠していない。シエンタの価格も少し上昇しそうだが、同じく価格上昇が見込まれる新型フリードより低めの価格帯を想定していることは想像にかたくない。

「そうはいっても、フリードもシエンタさんも、スライドドアとサードシートをもったコンパクトなクルマです。お客さまからすれば同じカテゴリーに見られることも多く、意識していないといえばウソになりますけどね」と本音を明かしてくれた安積さんは、やはり正直な人だ。

(文=佐野弘宗/写真=webCG/編集=櫻井健一)

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新型「フリード」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4310×1695×1755mm、ホイールベース=2740mm。従来型比で全長が45mm延ばされている。
新型「フリード」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4310×1695×1755mm、ホイールベース=2740mm。従来型比で全長が45mm延ばされている。拡大
液晶ディスプレイの左右にインジケーターを配置する「フィット」と同タイプのメーターパネルを採用。先代モデルがインパネの上部に設置するオンダッシュボードタイプであったのに対して、新型「フリード」では一般的なステアリングホイールの奥に配置されるタイプに変更された。
液晶ディスプレイの左右にインジケーターを配置する「フィット」と同タイプのメーターパネルを採用。先代モデルがインパネの上部に設置するオンダッシュボードタイプであったのに対して、新型「フリード」では一般的なステアリングホイールの奥に配置されるタイプに変更された。拡大
2人掛けとなる「フリード エアー」のサードシート。左右のトリムにドリンクホルダーが備わる。リアクオーターウィンドウの面積を拡大し、明るく開放的な空間演出を行っている。
2人掛けとなる「フリード エアー」のサードシート。左右のトリムにドリンクホルダーが備わる。リアクオーターウィンドウの面積を拡大し、明るく開放的な空間演出を行っている。拡大
セカンド/サードシートを折りたたんだ7人乗り仕様の荷室。新開発のサードシートは、跳ね上げ機構の刷新と前代モデルよりも左右それぞれ1.3kg軽量化されたことにより、収納・固定がより簡単に行えるようになった。
セカンド/サードシートを折りたたんだ7人乗り仕様の荷室。新開発のサードシートは、跳ね上げ機構の刷新と前代モデルよりも左右それぞれ1.3kg軽量化されたことにより、収納・固定がより簡単に行えるようになった。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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