第285回:2000万円の護送車
2024.06.03 カーマニア人間国宝への道カラオケルーム風の個室
「今度、『レクサスLM』にお乗りになりますか」
担当サクライ君からのメールに、いつのもように「乗る乗る~」と返信し、正座して当日を待った。
今や日本の最高級車は、実質的には「トヨタ・アルファード」だ。しかしアルファードには、「センチュリー」のような華族感はない。
思えばセンチュリーはすごかった。先代のV12エンジンは、スムーズすぎるうえにパワーがあんまりなかったので存在感ゼロ。その謙譲精神は、フェラーリ12気筒やジャガー12気筒に匹敵する個性だった。現行センチュリーはV8ハイブリッドになったが、乗り心地の素晴らしさは「ロールスロイス・ファントム」を超えていた。
アルファードは現在、センチュリーに取って代わる存在となったが、さすがに世界の名車に肩を並べるほどの部分はない。レクサスLMなら、それがあるかもしれない。
当日午後8時、サクライ君がやってきた。始めて見る実物の「レクサスLM500h“エグゼクティブ”」は、写真同様、顔がイカみたいだった。
オレ:せっかくだからまず後席から乗っていい?
サクライ:どうぞどうぞ。こちらが2000万円のエグゼクティブルームです。
スライドドアが開いた。そこにあったのは黄金の茶室……ではなく、カラオケルーム風の小さな個室だった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
パーティションの窓は閉めないで!
オレ:へ~、あんまりゴージャスじゃないんだね。
サクライ:そうですか? モニターつけてみましょうか?
サクライ君が後席の巨大モニターのスイッチを入れた。すると巨大なピカチュウが2匹並んで映った。
オレ:うわ! なにこれ!
サクライ:これはテレビですね。地デジのどこかのチャンネルみたいです。
後席モニターの巨大さは「BMW i7」を圧倒している。さすがレクサス。しかしピカチュウがよく似合って見えたのも事実である。さすが動くカラオケルーム。
走りだしてすぐ、私は目まいを感じた。近い距離に大きなモニターが2台並んでテレビ番組を映しているので目が回る。モニターが巨大なぶん、前席との間にあるパーティションの窓の上下幅は小さく、護送車に閉じ込められたようだ。こりゃたまらん。私はモニターを消して運転席のサクライ君に叫んだ。
オレ:窓が小さいね!
サクライ:ですか? こうもできますよ。
パーティションの窓が閉まり、曇りガラスに変身した。ひいいいいい! これはもう完全に護送車だ。頼むから透明に戻してけろ~!
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
後席より運転席のほうがカイテキ?
LMはいつものように首都高に乗り入れ、快調にコーナーをクリアしたが、私のクルマ酔いは徐々にひどくなり、目をつぶって耐えた。辰巳PAに到着して外に出たときはフラフラだった。
オレ:このクルマ、ダメだわ……。気持ち悪くなっちゃった。
サクライ:そうですか。残念です。
オレ:交代して体験してみてよ! 護送車に乗せられた気分だから!
サクライ:了解です。
LMのステアリングを握って首都高を走り始めると、私のクルマ酔いはピタリと収まった。速いし操縦性がいいっ! ついコーナーを攻めたくなる! そういえばサクライ君もかなりコーナーを攻めていた。おかげで気持ち悪くなったが、とにかく後席より運転席のほうがぜんぜんカイテキである。
「アルファード エグゼクティブラウンジ」の後席は、もっとステキだった。パーティションがないので前がよく見え、開放感があった。対するレクサスLM500h“エグゼクティブ”の後席は、狭いカラオケルームでしかない。ならばシャンデリアやミラーボールをつけて、もうちょっと派手に盛り上げてもらいたい。
レクサスのオフィシャルウェブサイトによると、LM500h“エグゼクティブ”の納期は2.5カ月~3カ月となっている。驚くべき短さだ。LMの購入を検討した富裕層も、パーティションで気持ち悪くなったのかもしれない。
ちなみにサクライ君は「とても快適でした」。さすが庶民は頑丈だぜウフフフフ~。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第334回:親でもここまではしてくれまい 2026.4.27 清水草一の話題の連載。先日試乗した「トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ」はすごかった。MTと縦引きパーキングブレーキの組み合わせを用意してくれるトヨタは、カーマニアにとってもはや神である。
-
第333回:毛が生えようが、ハゲようが 2026.4.13 清水草一の話題の連載。「ジープ・アベンジャー」に追加設定された4WDモデル「アベンジャー4xeハイブリッド」で夜の首都高に出撃した。ステランティスで広く使われるマイルドハイブリッドパワートレインと4WDの組み合わせやいかに。
-
第332回:クルマ地味自慢 2026.3.30 清水草一の話題の連載。最近、年齢とともに地味なモデルが大好きになった。そんななか、人気の「フォレスター」や「クロストレック」の陰にひっそりと隠れたスバルを代表する地味モデル「インプレッサ」に試乗。果たしてその印象は?
-
第331回:デカいぞ「ルークス」 2026.3.16 清水草一の話題の連載。首都高で新型「日産ルークス」の自然吸気モデルに試乗した。今、新車で購入される軽ハイトワゴンの8割はターボじゃないほうだと聞く。同じターボなしの愛車「ダイハツ・タント」と比較しつつ、カーマニア目線でチェックした。
-
第330回:「マカン」のことは忘れましょう 2026.3.2 清水草一の話題の連載。JAIA(日本自動車輸入組合)主催の報道関係者向け試乗会に参加し、「T-ハイブリッド」システムを搭載する「911タルガ4 GTS」とBEV「マカン ターボ」のステアリングを握った。電動化が進む最新ポルシェの走りやいかに。
-
NEW
ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド アップランド(4WD/6AT)【試乗記】
2026.5.6試乗記ジープのなかでも最も小柄な「アベンジャー」に、4WDのマイルドハイブリッド車「4xe」が登場。頼りになるリアモーターと高度なマルチリンク式リアサスペンションを備えた新顔は、いかなる走りを見せるのか? 悪路以外でも感じられる、その恩恵を報告する。 -
NEW
第111回:新型BMW i3(後編) ―BMWの挑戦が浮き彫りにした、BEVセダンのデザイン的課題―
2026.5.6カーデザイン曼荼羅BMWが発表した新型「i3」は、スポーツセダンの世界的ベンチマーク「3シリーズ」の電気自動車(BEV)版ともいうべきモデルだ。彼らが思い描く、BEV時代のセダンの在り方とは? そこから浮かび上がる、未来のセダンの課題とは? カーデザインの識者と考えた。 -
NEW
バンコクモーターショー訪問記 「ランドクルーザー“FJ”」目当てに出かけた先で起きた大事件
2026.5.6デイリーコラム年に2度開催され、毎回盛況のバンコクモーターショーをライターの工藤貴宏が訪問。お目当てはついに正式発表&発売の「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だったのだが、現地では数十年ぶりとなる大事件が起きていた。会場の様子とともにリポートする。 -
アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ プレミアム(FWD)【試乗記】
2026.5.5試乗記アルファ・ロメオのコンパクトSUV「ジュニア」にラインナップする電気自動車「ジュニア エレットリカ プレミアム」に試乗。1973年型の「GT1600ジュニア」を所有していたかつてのアルフィスタは、最新のフル電動アルファに触れ、何を感じたのか。 -
“ウインカーのカチカチ音”は、どんな理由で決められているのか?
2026.5.5あの多田哲哉のクルマQ&Aウインカー(方向指示器)を使う際の作動音は、どんなクルマでも耳にする一方、よく聞くとブランドや車種によって差異がある。一体どんな根拠で選定されているのか、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタGRヤリス/GRカローラ/GRヤリスMORIZO RR プロトタイプ【試乗記】
2026.5.4試乗記進化を続ける「トヨタGRヤリス」と「GRカローラ」の、最新バージョンに試乗。硬派な4WDスポーツならではの、サスペンションチューニングの難しさを知るとともに、100台の限定モデル「GRヤリスMORIZO RR」に、そのひとつの回答を見いだすことができた。









































