ホンダ・ヴェゼルe:HEV Z(FF)/ヴェゼルe:HEV X HuNTパッケージ(4WD)/ヴェゼルG(4WD/CVT)
シンプルに 上質に 2024.06.14 試乗記 マイナーチェンジしたホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に試乗。パワートレインは従来型の踏襲で内外装のデザイン変更も最小限だが、上級移行を狙った走りの質感アップと静粛性の向上がセリングポイントだという。その進化やいかに。見た目よりも実用性を優先
最近のホンダの国内ベストセラーといえば「N-BOX」と「フリード」、そしてこのヴェゼルが定位置である。つまり、現行ヴェゼルも人気は上々……ということもあってか、現行型発売からちょうど3年が経過したルーティンワークともいえる今回のマイナーチェンジでも、デザイン的に大きな変化はない。
エクステリアの大物部品で変わったのは、フロントバンパーとセンターグリル、リアコンビランプ。現行ヴェゼルはもともと、1本のショルダーラインがクルマをぐるりと囲むラップアラウンドデザインが特徴である。新しいヴェゼルではヘッドランプ間のガーニッシュがより目立つようになって、前後ランプの水平基調も強められたことで、そのラップアラウンド感がさらに明確になった。また、台形だったフロントセンターグリルは長方形に近くなり、フロントバンパーもシンプルになったことで、「アコード」や「WR-V」、N-BOXなどの最新ホンダ顔との近似性も増している。
インテリアも大きな変更は1点のみ。従来は助手席側に壁があるドライバー優先デザインだったシフトセレクター周辺が、左右対称の2段トレイにあらためられた。この部分はもともと、クーペSUVをうたうヴェゼルのインテリアで最大のハイライトだったはずが、正直、使い勝手はほめられたものではなかった。案の定、この部分には市場からの指摘も多かったのか、今回は“花より団子”というか、見た目より実用性優先の改善である。
今回のマイチェンでは、こうしたデザインのアップデートに加えて、ラインナップがいろいろと見直されたことも大きい。そのひとつは、200万円台前半の価格帯をカバーしていた1.5リッター純ガソリンエンジン(のFF)車が廃止されたことだ。それで生まれる空白は、2023年末に導入されたWR-Vがピタリと埋めるが、WR-Vに用意がない純エンジンの4WDだけは今回も残された。
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よりわかりやすいラインナップに
ラインナップにおけるもうひとつのアップデートは、2つのパッケージグレードの新設だ。従来は独立グレードだった「PLaY」を、上級「Z」グレード専用のパッケージオプションに変更するとともに、中間グレードの「X」には、最近のハヤリであるタフ系キャラをもたせた「HuNT」パッケージを用意した。
前者のPLaYは従来、2トーン外板色やグレージュの明るい内装色、そして鮮やかな朱色のアクセントをキモとするグレードだった。しかし、同時に大面積のガラスパノラマルーフが標準化されたこともあって、事実上の最上級グレードと受け取られた。で、新車の発売直後にありがちな現象として、発売直後には注文が集中。その結果、コロナ禍での半導体不足に部品不足(この場合はガラス不足)の追い打ちがかかってしまったPLaYは、一時的に受注停止するまでに追い込まれた。
また、PLaYの本体価格はたしかに最高額だったが、くだんのパノラマルーフのコストを相殺するために、それ以外の装備では、それより少し安いZグレードから省略されていた部分もあった。そんなPLaYは販売の現場から「売りにくい」「わかりにくい」といった声もあったという。
そこで今回のマイチェンでは、あらためてZを最上級グレードと位置づけて、PLaYをパッケージオプション化。さらに、パノラマルーフは「待ってでもほしい人のための特別品」として、PLaY専用メーカーオプションにスピンアウトさせた。とはいえ、部品不足もあらかた解消された現在では、PLaYのパノラマルーフ仕様も、さほど待たされることはないそうだ。
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WR-Vの登場が及ぼした影響
今回の取材は、ヴェゼルのマイチェンモデルを対象としたメディア向け試乗会だったので、試乗自体は短時間だったが、かわりに立て続けに3台の最新ヴェゼルを味わえた。
ヴェゼルのマイチェンにおけるメカニズム上のもっとも大きな改良は、1.5リッターハイブリッド(ホンダでいうe:HEV)での静粛性へこだわりだ。従来のヴェゼルも売れ筋は圧倒的にe:HEVだったが、純エンジンのFFが廃止されたことで、新しいヴェゼルは、いよいよ「e:HEVのクルマ」というイメージを強めている。
ヴェゼルのe:HEVはこれまでも十分に静かなクルマだったと思うが、その後に「シビック」や「ZR-V」、アコードなどの2リッターe:HEVが次々と登場したことで、それとのギャップが際立ってしまった……というのが、ヴェゼル担当者の認識だ。また、WR-Vの登場で、より明確な上級移行が必要という判断も、今回の静粛対策にはあったと思われる。
ステッチも入れると3色仕立ての内装が印象的なHuNTパッケージの4WDでもその効果は明らかで、静粛性の進化は、乗り出した瞬間にわかる。随所に防音材が追加されたことでエンジン音やロードノイズ自体も小さくなっているのだが、それ以上に、走行中のエンジンのオンオフがステルス化(?)したことが体感的に大きい。
この新しい1.5リッターe:HEVではリチウムイオン電池の使用範囲拡大(=実質的な容量アップ)によって電気走行(EV走行)の領域を拡大したという。ただ、単純にEV走行の時間が増えたというより、エンジンの“出入り”の頻度が減少したのが、実効果としては大きいようだ。実際、街なかではエンジンのオン/オフ回数を減らすともに、エンジンの作動タイミングもロードノイズの高まり(=速度)に合わせることで、音や振動を認識しづらくしている。また(エンジン直結モードがいちばん効率的な)高速時には、逆にエンジンを止めすぎないことで、わずらわしさを低減しているという。そのほうが、頻繁にエンジンを止めるより、人間は静かに感じられるのだそうだ。
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完成度の高いハイブリッドのFF車
ヴェゼルではもっとも安価な純ガソリンエンジン車「G」の試乗もできた。駆動方式は当然4WD。ヴェゼル共通のデザイン変更とシフトパドルや本革ステアリングホイールの追加に加え、メーターパネルもe:HEVと共通化されて、質感が上がっている。
e:HEVのような静粛性アップは図られていないこともあり、こういう場面での乗り味は従来型から変化はない。e:HEVよりは明らかに騒がしいが、このクラスのSUVとして格別うるさいわけではなく、乗り心地や操縦安定性はハイレベル。4WDシステムはe:HEVともどもブレーキLSDの制御変更で、滑りやすい路面でのスリップが明らかに減少しているというが、今回のような初夏のドライ路面で試すことはかなわなかった。
しかし試乗した3台のうち、最大の驚きは「Z」のFFだった。じつはこのマイチェンではe:HEVのFFのみ、パワステ制御やダンパー減衰力に熟成の手が入っているとか。
そんな新シャシーと18インチタイヤの組み合わせはお見事。乗り心地は快適かつフラットなフワピタ系、ステアリングフィールは一貫して滑らかで反応も正確そのもの。さらに、シンプルなFFということもあってか、e:HEVの静粛性も4WDより好印象だった。少なくとも快適性と操縦性のバランスという点では、このクラスでもピカイチの完成度と申し上げたい。
思い返せば、現行ヴェゼルの発売時はWR-VもZR-Vも存在せず、「CR-V」も日本市場では出たり入ったりの状態。ただでさえ、異様に幅広い客層を取り込まなければならないのに、コロナ禍による供給難も重なったヴェゼルの苦労は察するにあまりある……みたいなお話をさせていただくと、担当者も「いや、本当に」としみじみと苦笑していた。
ヴェゼルを取り巻いていたホンダ内の環境も今では一変。WR-VとZR-Vの中間に位置する“上級コンパクトSUV”として吹っ切れたわかりやすさは、すでに今回のマイチェンでも随所に感じられた。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ホンダ・ヴェゼルe:HEV Z
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4340×1790×1590mm
ホイールベース:2610mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:131PS(96kW)/4000-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3500rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ブリヂストン・アレンザH/L33)
燃費:25.3km/リッター(WLTCモード)
価格:319万8800円/テスト車=371万9100円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムサンライトホワイト・パール>(6万0500円)/Honda CONNECTディスプレイ+ETC2.0車載器+ワイヤレス充電器&マルチビューカメラシステム+プレミアムオーディオ(34万7600円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット プレミアム(4万5100円)/ドライブレコーダー3カメラセット(6万7100円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1198km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ホンダ・ヴェゼルe:HEV X HuNTパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4340×1790×1580mm
ホイールベース:2610mm
車重:1430kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:131PS(96kW)/4000-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3500rpm
タイヤ:(前)215/60R16 95H/(後)215/60R16 95H(ハンコック・キナジー エコ2)
燃費:21.5km/リッター(WLTCモード)
価格:321万8600円/テスト車=365万9700円
オプション装備:ボディーカラー<シーベットブルー・パール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ETC2.0車載器(1万9800円)/ETC2.0車載器取り付けアタッチメント(7700円)/フロアカーペットマット プレミアム(4万5100円)/ドライブレコーダー3カメラセット(6万7100円)/9インチプレミアムインターナビ<Honda CONNECT対応>(20万9000円)/ナビ取り付けアタッチメント(4400円)/ナビフェイスパネルキット(5500円)/ナビ変換ハーネス(4400円)/リアカメラde安心プラス4(3万5200円)/リアカメラde安心プラス4アタッチメント(4400円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1250km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ホンダ・ヴェゼルG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4340×1790×1580mm
ホイールベース:2610mm
車重:1320kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:118PS(87kW)/6600rpm
最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/4300rpm
タイヤ:(前)215/60R16 95H/(後)215/60R16 95H(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:15.0km/リッター(WLTCモード)
価格:264万8800円/テスト車=305万0300円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイト・パール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ETC2.0車載器(1万9800円)/ETC2.0車載器取り付けアタッチメント(7700円)/フロアカーペットマット プレミアム(4万5100円)/ドライブレコーダー3カメラセット(6万7100円)/9インチプレミアムインターナビ<Honda CONNECT対応>(20万9000円)/ナビ取り付けアタッチメント(4400円)/ナビフェイスパネルキット(5500円)/ナビ変換ハーネス(4400円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1081km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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