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第868回:「フィアット・グランデパンダ」ついに発表! イタリア人はどう受け止めた?

2024.07.18 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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EV版は2万5000ユーロ以下

フィアットは2024年7月11日、イタリア・トリノで新型クロスオーバー「グランデパンダ」を発表した。パンダの名を冠するモデルとしては、2011年の3代目以降、13年ぶりのニューモデルとなる。

プラットフォームには、2023年秋に発表された4代目「シトロエンC3」と同一の「スマートカー(Smart Car)」を採用。電気自動車(EV)、ハイブリッド車、完全内燃機関車のいずれにも対応できる設計で、今後もステランティス製小型車に順次採用される。

外観は、1980年にジョルジェット・ジウジアーロがデザインした初代パンダから着想を得ている。ボディーサイズは全長×全幅×全高=3990×1760×1570mmで、姉妹車のシトロエンC3を含めて全長4mを超えるBセグメント車が多い昨今、それ以下にとどめている。縦列駐車の機会や、全長で料金が変わるフェリー利用ユーザーが少なくない欧州で、大きなセリングポイントとなろう。

欧州仕様のパワートレインはEVとハイブリッドの2種が用意される。EV版は容量44kWhのバッテリーを搭載。モーター出力は83kW(113HP)で、満充電からの航続可能距離は320kmである。100kW急速充電器を使用した場合、20%から80%へのチャージは26分と発表されている。特筆すべきは、最大7kWのAC電源に対応したスパイラル(らせん状)ケーブルが前部から引き出せるようになっていることだ。荷室スペースをケーブルで占領したり、ユーザーの手を汚したりすることを避けられる名案である。

いっぽうのハイブリッドは、48Vハイブリッドシステム+1.2リッター3気筒エンジン(100HP)で、6段ATが組み合わされる。

インテリアのディスプレイはメーター用が10インチ、インフォテインメント用が10.25インチだ。それらを囲む楕円(だえん)フレームは、今回の発表会場となった複合商業施設であり、元はフィアットの歴史的工場だったリンゴットの屋上テストコースをかたどったものである。その楕円はATセレクターを包括するセンターコンソールにも反復されている。助手席前には、フタに竹繊維を用いたグローブボックスが設けられている。

生産はセルビアのクラグイェヴァツ工場で行われる。販売は2024年秋に、まずはイタリアおよびフランスで開始される。価格は、EV版で2万5000ユーロ(約430万円)以下を目指す。これはイタリア国内価格で比較すると、「500e」よりも5000ユーロ近く安い。またハイブリッド版は約1万9000ユーロ(約327万円)からと発表されている。ステランティスは発表してないが、イタリア市場では「アルファ・ロメオ・ジュリア」、同「トナーレ」と同様、警察車需要も見込んでいると思われる。

「フィアット・グランデパンダ」はBセグメントのクロスオーバー。トリノ・リンゴットでフィアットの創立125周年記念に合わせて公開された。
「フィアット・グランデパンダ」はBセグメントのクロスオーバー。トリノ・リンゴットでフィアットの創立125周年記念に合わせて公開された。拡大
初代「パンダ」の面影は、このリアクオータービューから最も感じる。EV版とハイブリッド版が用意される。ホイールは17インチ。
初代「パンダ」の面影は、このリアクオータービューから最も感じる。EV版とハイブリッド版が用意される。ホイールは17インチ。拡大
トリノのローマ通りを背景にした公式フォト。全長は4m以下に収められた。ドアハンドルはパンダ史上初めてグリップタイプが採用されている。
トリノのローマ通りを背景にした公式フォト。全長は4m以下に収められた。ドアハンドルはパンダ史上初めてグリップタイプが採用されている。拡大
「シトロエンC3」のEV版「ë-C3」。「フィアット・グランデパンダ」とドアミラー、ドアハンドル、そして一部のガラスが共通であることがわかる。
「シトロエンC3」のEV版「ë-C3」。「フィアット・グランデパンダ」とドアミラー、ドアハンドル、そして一部のガラスが共通であることがわかる。拡大
ピクセルデザインのLEDヘッドランプ。
ピクセルデザインのLEDヘッドランプ。拡大
EV仕様の前部には、AC充電用のスパイラルケーブルが内蔵されている。
EV仕様の前部には、AC充電用のスパイラルケーブルが内蔵されている。拡大
テールゲートのブランド名は、初代の4WDモデルに「Panda4×4」とプレスされていたことから着想を得たものだ。
テールゲートのブランド名は、初代の4WDモデルに「Panda4×4」とプレスされていたことから着想を得たものだ。拡大
テールゲート右下には「PANDA」の文字が立体で入る。
テールゲート右下には「PANDA」の文字が立体で入る。拡大
ダッシュボードは、初代の広いラック(棚)が再解釈されている。2つのディスプレイを囲むループは、旧リンゴット工場の屋上テストコース跡を意識している。空調コントロールパネルをディスプレイに依存せず、独立させたところは評価に値する。
ダッシュボードは、初代の広いラック(棚)が再解釈されている。2つのディスプレイを囲むループは、旧リンゴット工場の屋上テストコース跡を意識している。空調コントロールパネルをディスプレイに依存せず、独立させたところは評価に値する。拡大
20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエも絶賛したフィアット・リンゴット工場ビル。屋上のテストコース跡は、リンゴットが複合商業施設となった今も残されている。
20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエも絶賛したフィアット・リンゴット工場ビル。屋上のテストコース跡は、リンゴットが複合商業施設となった今も残されている。拡大
センターディスプレイのループの右下には、初代「パンダ」のミニチュアが添えられている。
センターディスプレイのループの右下には、初代「パンダ」のミニチュアが添えられている。拡大
竹繊維製のフタをもつグローブボックスには、「BAMBOX(バンボックス)」とプリントされている。
竹繊維製のフタをもつグローブボックスには、「BAMBOX(バンボックス)」とプリントされている。拡大

あのブランドのスモール版として?

さてイタリア人たちによる、グランデパンダの第一印象はどうか? 

まずは発表前の2024年6月、イタリア北部で開催されたパンダのファンミーティングでのことだ。会場では初代モデルが多数派を占めていた。先にメーカーから事前公開されていたグランデパンダの写真を見て、「欲しい」と積極的に答えた参加者は、筆者が知る限り皆無であった。「あれはパンダではない」と嫌悪感をあらわにする回答者さえいた。

ところがどうだ。発表直後からイタリアのウェブサイトのコメント欄を見ると、好意的なものが目立つようになった。例を挙げれば「外観・内装双方で、とても美しい」「(姉妹車がシトロエン)C3であることを感じさせない」「オリジナル性が極めて高い」といったものだ。そうした状況は本稿を執筆している2024年7月14日現在も続いている。

筆者が分析するに、従来型ユーザーにとっては、たとえ名前が同じでもマイカー候補の対象外なのである。価格もしかり。イタリアの新車買い換え政策を活用すれば1万ユーロ以下で買えた従来型パンダとは、車格とともに異次元になった、と解釈せざるを得ない。メーカーであるステランティスも、全員が乗り換えるとは到底考えていないことは明らかだ。そもそも初代オーナーたちの場合、自分で大半の修理ができ、どこまでも走ってゆけるタフさが魅力なのである。

なお、従来型である3代目は2027年までイタリア南部ポミリアーノ・ダルコ工場で生産が続けられることが発表されている。これは筆者の予想であるが、ステランティスのAセグメントEVは、近い将来、当連載第861回で記したように中国リープモーター(零跑汽車)によるOEMが代替役を果たすのであろう。

では、グランデパンダはどのような人々に“刺さる”のだろうか。それはずばり、ジープのユーザーであろう。「レネゲード」はイタリアでジープ史上最大の成功作となり、2022年にデビューした「アベンジャー」も、同国内では2024年7月現在最も売れているジープである。SUVファンが小型化を志向する昨今、グランデパンダをジープのスモール版として捉えている顧客は少なくないと考えられる。

センターコンソールにも“リンゴットのループ”は再現されている。
センターコンソールにも“リンゴットのループ”は再現されている。拡大
前席バックレストには「PANDA. MADE WITH LOVE IN FIAT」のプリントが。ヘッドレストも含め、意匠は2007年「フィアット500」のものを想起させる。
前席バックレストには「PANDA. MADE WITH LOVE IN FIAT」のプリントが。ヘッドレストも含め、意匠は2007年「フィアット500」のものを想起させる。拡大
前席同様、スクエアなドットが特徴的なリアシート。
前席同様、スクエアなドットが特徴的なリアシート。拡大
前席バックレストの背面上部には、後席の乗員がスマートフォンを入れられる小さなポケットも。イタリア車にしては細かい気配りである。
前席バックレストの背面上部には、後席の乗員がスマートフォンを入れられる小さなポケットも。イタリア車にしては細かい気配りである。拡大

イタリア人ではわからない「イタリアらしさ」

次にグランデパンダが好印象の理由をデザイン的に分析してみる。

これまでの曲線的なフォルムに慣れ親しんだ人々が、グランデパンダの直線基調のフォルムに新鮮さを感じているのは明らかだ。考えてみてほしい。従来型が発売された時期に生まれたいわゆるジェネレーションZは、物心ついたときから街に丸いクルマがあふれていた。彼らの感覚からしたら、1980年のボクシーな初代パンダは新鮮なのである。

1980年代といえば、それ自体がトレンドだ。ソニー・ウォークマン、任天堂ゲームボーイといった往年のガジェットが、欧州でZ世代から「クール」と捉えられているのはその証左である。

参考までに、イタリアでは発表に合わせ、インターネット上でグランデパンダのプロモーション映像が配信され始めた。CMソングは歌手アルバーノによる「フェリチタ(Felicità:幸せ)」である。実はこの曲、遠く1982年サンレモ音楽祭の参加曲だ。80年代ムードをフィアット自身も意図的に盛り上げている。

過度にエモーショナルなキャラクターラインやフォルムを多用したクルマがあふれてきたなかで、グランデパンダは新たな境地を開いた。それは建築の世界でポスト・モダンが2000年代に終焉(しゅうえん)を迎え、シンプルなミニマリズムに切り替わっていったのと似ている。クルマは20年遅れで、建築の後を追い始めたのである。

もうひとつ注目すべきは、別視点でのイタリアらしさ(イタリアニティー)の追求だ。2021年からフィアットおよびアバルトのデザイン責任者を務めているフランソワ・ルボワン氏は以前、ルノーのアドバンスドデザインスタジオでチーフを務めた人物である。同じく2021年から、彼とともにステランティスの欧州デザインを統括しているジャン・ピエール・プルエ氏は旧グループPSAの出身だ。

ルボワン氏の前任であるロベルト・ジョリート氏は、フィアットが最も輝いていた時代にフィアットのある家庭環境で育ち、1957年の「ヌオーヴァ500」を再解釈して2007年「500」のデザインをディレクションした。いっぽうで、それを引き継いだルボワンとプルエの両氏は、イタリア人以外の視点からでないと引き出せないイタリアニティーを目指したといえる。

ささいではあるが、ダッシュボードに添えられた初代パンダのミニチュアや、開けた人にあいさつするかのごとくテールゲート内側に刻まれた「CIAO!」の文字にも注目したい。これはイタリア人だけではあまり思いつかない、かつ外国ユーザーの心をくすぐるアイデアだ。

ラゲッジスペース容量は361リッター。
ラゲッジスペース容量は361リッター。拡大
テールゲート内側上部には、開けた人にあいさつするかのように「CIAO!」の文字が刻まれている。
テールゲート内側上部には、開けた人にあいさつするかのように「CIAO!」の文字が刻まれている。拡大
初代「フィアット・パンダ」の前期型。発表当日、リンゴットの旧屋上テストコースにて。
初代「フィアット・パンダ」の前期型。発表当日、リンゴットの旧屋上テストコースにて。拡大
3代目「パンダ」は発売13年にもかかわらず、イタリア国内登録台数で首位を独走中。「バンディーナ」(小さなパンダ)という新たなネーミングとともに、少なくとも2027年までイタリア工場で継続生産される。
3代目「パンダ」は発売13年にもかかわらず、イタリア国内登録台数で首位を独走中。「バンディーナ」(小さなパンダ)という新たなネーミングとともに、少なくとも2027年までイタリア工場で継続生産される。拡大
ステランティスでフィアット/アバルトのデザイン責任者を務める、フランソワ・ルボワン氏
ステランティスでフィアット/アバルトのデザイン責任者を務める、フランソワ・ルボワン氏拡大

好敵手は「トヨタ・ヤリス クロス」?

ところで当連載第772回で記したように、2022年の3代目「トヨタ・シエンタ」は3代目パンダに似た「スクアクル(正方形squareと円circleの合成語)」のフォルムを基調としている。しかし、グランデパンダはその先をいってしまったのである。

室内では、3代目でも行われた初代パンダの棚状ダッシュボードが再解釈されているが、今回はより合理的な直線状で好ましい。ただし、こうした意匠は日本の軽トールワゴンが長年実践してきたものだ。こちらに関しては日本に一日の長があったといえまいか。

ちなみに知人のフィアット販売店のセールスパーソンによると、2024年7月下旬にはグランデパンダのオンラインセミナーが開始される予定だという。

2024年上半期のイタリア国内登録台数で、パンダに次ぐ2位にあるのは、かつて前述のルボワン氏がルノー在籍時代にデザインに関与した「ダチア・サンデロ」である。グランデパンダと同じBセグメントだ。また、「トヨタ・ヤリス クロス」は1万9530台を記録し、6位にランキングしている。

筆者個人的には、グランデパンダは、斬新さという点でそれら2台をはるかに上回る好デザインと受け止めている。彼らの牙城をグランデパンダがどこまで切り崩せるかも、ウオッチャーとしてはかなり面白いポイントである。

(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=ステランティス、ルノー、トヨタ自動車/編集=堀田剛資)

ダチア・サンデロ ステップウェイ
ダチア・サンデロ ステップウェイ拡大
トヨタ・ヤリス クロス
トヨタ・ヤリス クロス拡大
建築家レンツォ・ピアノがリンゴットのリニューアル計画で追加したヘリポートを背景に。
建築家レンツォ・ピアノがリンゴットのリニューアル計画で追加したヘリポートを背景に。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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