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具体的にはなにが変わるの? ホンダ、日産、三菱のタッグがもたらす“業界”と“商品”の変化

2024.08.16 デイリーコラム 森口 将之
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日本メーカーは2つのグループに

2024年8月1日、日産自動車と本田技研工業が次世代SDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)プラットフォームの基礎的要素技術の共同研究契約を締結した(参照)。さらに同日には、三菱自動車を含めた3メーカーが戦略的パートナーシップ検討の覚書を締結したというニュースもあった。

日産とホンダについては、同年3月15日に自動車の電動化・知能化に向けて戦略的パートナーシップの検討を開始する旨の覚書を締結している(参照)。今回の発表は、その話が一歩進んだものであり、新たにSDVプラットフォームという具体的な領域が示されたこと、三菱が加わったことがニュースになるだろう。残る日本の乗用車メーカーを見ると、ダイハツはトヨタの完全子会社、スバルの筆頭株主もトヨタで、スズキとマツダもトヨタと資本提携している。日本の乗用車メーカーが2つのグループにまとまったという報道は、ある意味で的を射たものかもしれない。

また、今回の発表では戦略的パートナーシップの枠組みにおいて、「バッテリー領域」「e-Axle領域」「車両の相互補完」「国内のエネルギーサービス、資源循環領域」も具体的な協業領域として定められた。ただ、これら4つと先に触れた次世代SDVプラットフォームの領域では、現時点における踏み込みの度合いが違う。次世代SDVプラットフォームでは共同研究契約を締結しているのに対して、その他の領域は「深化に関する覚書」にとどまっている。

日産自動車の内田 誠社長(写真向かって左)と、本田技研工業の三部敏宏社長(同右)。
日産自動車の内田 誠社長(写真向かって左)と、本田技研工業の三部敏宏社長(同右)。拡大
記者会見ではホンダと日産による戦略的パートナーシップ検討の枠組みに、三菱自動車も加わることも発表された。
記者会見ではホンダと日産による戦略的パートナーシップ検討の枠組みに、三菱自動車も加わることも発表された。拡大
協業の領域としては「次世代SDVプラットフォームに関する基礎的要素技術の共同研究」「バッテリーの補完・供給」「e-Axleの共用」「車両の相互補完」「国内エネルギーサービス、資源循環領域での協業」という5つの分野が示された。現状では特に、共同研究契約が締結されたSDV領域の進捗(しんちょく)が突出している。
協業の領域としては「次世代SDVプラットフォームに関する基礎的要素技術の共同研究」「バッテリーの補完・供給」「e-Axleの共用」「車両の相互補完」「国内エネルギーサービス、資源循環領域での協業」という5つの分野が示された。現状では特に、共同研究契約が締結されたSDV領域の進捗(しんちょく)が突出している。拡大
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5つの協業領域が設定された理由

次世代SDVプラットフォームだけが、いち早く共同研究の合意にこぎ着けたのには、2024年5月に策定された日本政府の「モビリティDX戦略」で、日本のメーカーの連携を促していることが関係しているとみている。

おそらくトヨタ系のメーカーは、トヨタ主導で開発したSDVプラットフォームを使うはずで、日産とホンダがバラバラなままだと、日本標準はトヨタ系で決まってしまう。しかし、日産とホンダで共通のプラットフォームが構築できれば、独占禁止法もあるのでそれ以上の統一はなされず、国内、ひいてはグローバルでも自分たちの実力を出せるというわけだ。

いっぽう、その他の領域での協業については、どちらかといえばホンダ側の事情が感じられた。彼らは少し前までゼネラルモーターズと協業を進めていたものの、量産EV(電気自動車)の開発凍結(参照)、自動運転タクシーの事故による運行停止など、軌道に乗らない分野があった。それが関係しているのではないだろうか。とりわけ量産EVでは、日産が豊富な経験を持っていることは多くの人が認めるところで、SDVプラットフォームの件もあって、手を結んだほうがいいという結論になったのだろう。

そして三菱のパートナーシップ入りは、日産とアライアンスを組み、軽自動車では共同開発・生産を行う現状を考えれば、当然と思う人がほとんどだろう。

ホンダとゼネラルモーターズはEVの分野で協業しており、2024年3月にはGMのバッテリーユニットを搭載した「ホンダ・プロローグ」も発売されたが、その後に続くはずだった量販価格帯のモデルについては、共同開発の計画が中止となった。
ホンダとゼネラルモーターズはEVの分野で協業しており、2024年3月にはGMのバッテリーユニットを搭載した「ホンダ・プロローグ」も発売されたが、その後に続くはずだった量販価格帯のモデルについては、共同開発の計画が中止となった。拡大
「ジャパンモビリティショー2023」のホンダブースに展示された「クルーズ・オリジン」。ホンダはゼネラルモーターズやその子会社であるGMクルーズと組み、2026年初頭に日本でロボットタクシーの運行を開始するとしていた。しかし、米国でGMクルーズの車両が事故を起こして運行を停止。GMは計画を凍結してしまった。
「ジャパンモビリティショー2023」のホンダブースに展示された「クルーズ・オリジン」。ホンダはゼネラルモーターズやその子会社であるGMクルーズと組み、2026年初頭に日本でロボットタクシーの運行を開始するとしていた。しかし、米国でGMクルーズの車両が事故を起こして運行を停止。GMは計画を凍結してしまった。拡大

協業によって考えられる具体的な変化

ではハードウエアではどんな動きが出るのか? 個人的に予想しているのは、まずは軽商用EVの一本化だ。日本郵便等で使っている「三菱ミニキャブEV」は基本設計が古いのに対し、過日発表された「ホンダN-VAN e:」は新設計。ミニキャブEVの次期型の話は聞かないので、ホンダのOEMに切り替わると思われる。

N-VAN e:には、やはり日本郵便で配達用などに使われている同じホンダの電動バイク「ベンリィe:」が使うモバイルバッテリーパックを使ったプロトタイプもある。これが実用化されれば、二輪と四輪でバッテリーを共用するという、おそらく世界初のマネジメントが実現する。

逆に、現時点では“全車EV化宣言”を撤回していないホンダが、空白のクラスの車種を日産から供給してもらう可能性もある。付け加えれば、ハイブリッドのシステムは3メーカーで近いので(写真キャプション参照)、こちらの共通化も大変ではなさそうだ。

日産とホンダが同じクルマになるの?」と不安を抱く読者がいるかもしれないが、同じプラットフォームやパワートレインを使っても、乗り味の違いはソフトウエアによってある程度表現できる。その点でもSDVプラットフォームの共通化は重要だ。

記者会見の模様は動画で見たが、質疑応答の際、資本提携とかグループ化とかいう考えに固執している人が多くて気になった。日本は合併とか買収とか、はっきりした形にこだわる人が多いのだが、グーグル系で自動運転タクシーを手がけるウェイモは、どこかを傘下に収めているわけではない。今は水平展開でもものづくりは進められるし、そういうつながりのなかでの化学反応に僕は期待している。懸念があるとすればスピード感だが、2024年3月15日の発表から半年以内に具体的な進展を報告できているので、石橋をたたいてばかりという状況ではなさそうだ。

少なくとも1980年代ぐらいまでは、日産とホンダのクルマづくりは対極にある感じだった。それが今や手を組んでやっていくという現実を見て、100年に一度の大変革というフレーズをあらためて実感した。

(文=森口将之/写真=日産自動車、本田技研工業、三菱自動車、webCG/編集=堀田剛資)

電動の軽商用バンとして活躍中の「三菱ミニキャプEV(旧名:ミニキャブ ミーブ)」だが、そのデビューは2011年4月と、実に11年以上も前にさかのぼる。
電動の軽商用バンとして活躍中の「三菱ミニキャプEV(旧名:ミニキャブ ミーブ)」だが、そのデビューは2011年4月と、実に11年以上も前にさかのぼる。拡大
2024年6月に発表された「ホンダN-VAN e:」。同年10月に発売される予定だ。
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ホンダでは汎用(はんよう)の可搬式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:(モバイルパワーパック イー)」を動力源に用いた「N-VAN e:」も計画。ヤマト運輸と実証実験を進めている。
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「日産セレナ」に搭載されるパワーユニットのカット模型。日産の「e-POWER」はシンプルなシリーズハイブリッド、ホンダの「e:HEV」と三菱のプラグインハイブリッドは、シリーズハイブリッドをベースにエンジンの回転を駆動力にも用いるようクラッチ機構を搭載した仕組みとなっている。
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記者会見の質疑応答において、日産の内田 誠社長(写真向かって左)は克服すべき課題について「スピード感の遅さ」と回答していた。3社の協業で、今後の研究開発に拍車がかかることに期待したい。
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森口 将之

森口 将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。

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