マツダCX-80 開発者インタビュー
乗る人すべてに笑顔を 2024.08.22 試乗記 マツダから3列シートの新型クロスオーバー「CX-80」が登場。既存のモデルにはない新しいエッセンスを取り入れつつ、それでいて確かなマツダらしさも感じさせるニューモデルは、いかな挑戦を経て生まれたのか? 開発を主導した3人のエンジニア/デザイナーに聞いた。マツダ
商品開発本部 主査
柴田浩平(しばた こうへい)さん
マツダ
デザイン本部 主査
玉谷 聡(たまたに あきら)さん
マツダ
R&D戦略企画本部
企画設計部 主幹
髙橋達矢(たかはし たつや)さん
目指したのは優雅さと走る喜びの両立
マツダがラージプロダクト/ラージ商品群と呼ぶラインナップのなかで、トリを務めるのがCX-80となる。既出の「CX-60」、海外で展開する「CX-70」「CX-90」に続く、4番目の縦置きエンジン用プラットフォームを用いたSUVである。
発表にさきがけて行われたマツダCX-80の事前撮影会の会場にて、開発の狙いと苦心したポイントをうかがった。答えてくれたのは、商品開発本部主査で開発のとりまとめ役を担った柴田浩平さん、デザイン本部主査の玉谷聡さん、R&D戦略企画本部企画設計部の主幹で、パッケージングを担当した髙橋達矢さんの3人だ。
──開発コンセプトは「Graceful Driving SUV」だとうかがいました。これを聞いた瞬間、優美なドライビングと、きびきびとしたマツダらしさは両立するのかを、疑問に感じました。
柴田浩平さん(以下、柴田):私たちマツダが目指しているのは、クルマを通じて笑顔になったり、生活に広がりを与えたり、前向きに気持ちよく生きていただくということなので、“マツダらしさ”はこのクルマのコンセプトとかけ離れてはいないと思っています。CX-80は、贅沢(ぜいたく)なクルマなんですね。1人で運転するときにはガンガン攻めてクルマとの対話を楽しむこともできるし、荷物をたくさん載せて、6人、7人が幸せな気持ちで移動することもできます。
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最大の難関はパッケージング
──CX-80の開発で、一番苦労した点はどこでしょう。
柴田:ラージプロダクトは、縦置きのエンジンとトランスミッションがあり、電動化に対応するために床下に大きなバッテリーを積み、燃料タンクもあるという骨格です。そこに運転する楽しみを盛り込みつつ、余裕ある空間も必要になってきます。こうしたものをすべて満たして、なおかつ国内のお客さまが使いやすい全長5m以下、全幅1.9m以下のサイズに収めることが、一番難しいチャレンジだったかもしれません。
──日本国内だと、CX-60がCX-80の競合になるというケースも出てくるかと思いますが、すみ分けはどのようにお考えですか。
柴田:CX-60のほうが明らかにコンパクトで、ショートホイールベースです。だからCX-60は、人馬一体の走りを純粋に楽しんでいただくパッケージングです。いっぽうCX-80は2列目、3列目に大切な方を乗せるような使い方、より生活に広がりを与えるようなクルマだと考えています。
──2023年春にCX-60がデビューした際、主に乗り心地についてジャーナリストから辛口の意見が相次ぎました。CX-80のご担当として、柴田さんはどのように受け止めましたか。
柴田:お客さまや皆さまからいただいた声について、真摯(しんし)に向き合わないといけないと考えたことは事実です。先ほどの商品のすみ分けとは別に、ラージ(プロダクト)全体で熟成をさせるということは行っています。そういう意味で、CX-80はCX-60より熟成したかたちでお届けできると思っています。
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ゆとりの車内空間と優雅なデザインの両立
──柴田さんから、パッケージングがキモだったというお話がありましたが、パッケージング担当の髙橋さんとしては、ポイントはどこにあったと思われますか。
髙橋達矢さん(以下、髙橋):日本国内の機械式駐車場だと、まだ全幅1850mmという制約のあるところが多いんですね。ただ、乗員の方に豊かな時間を過ごしていただくことを考えると、どうしても室内の幅がほしい。1850mmだとお客さまに満足していただけるような仕上がりにならなかったので、国内の駐車場のことはしっかり見ていますけれど、1850mmは少し超えることになりました。お客さまに喜んでいただけるかどうかを考えたパッケージングで、でもさすがに1.9mを超えると不便が生じるだろうと、バランスを取りながら進めました。
──ここは自信アリ、というのはどこでしょう。
髙橋:従来型の「CX-8」に比べると、2列目の頭上空間は8mm、3列目だと約30mmも増しています。この高さと幅から生まれた豊かさを体感していただきたいと考えています。
──頭上空間に余裕が生まれた理由のひとつに、ルーフの形状を絞らずに、後ろまで水平に伸ばしたことがあると思います。もっと格好よくしたいというデザイナーと意見が割れたりはしませんでしたか?
髙橋:いやいや(笑)、今回については、外から見てもパッケージングに余裕があるデザインにしようということで、われわれとデザイン陣との間で、しっかりと意思が統一されていました。
──デザインを担当した玉谷さんはいかがでしょう? デザイナーとしてはシュッと絞ってカッコよくしたくなりませんでしたか?
玉谷 聡さん(以下、玉谷):実は「パッケージングの豊かさをエクステリアでも表現したい」というのは、デザイン(部門)のほうからチャレンジしたいと申し出たことなんです。
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参考にしたのはロールス・ロイス
玉谷:ちょっと長くなりますが(笑)、マツダの格好よさって、キャビンはタイトに、ボディーは強い表現にして、4輪のスタンスをしっかり構えてスポーティーに仕立てるというのが公式です。僕はCX-60も担当していましたが、CX-80の計画では、全幅は1890mmで変わらないままホイールベースだけ250mm伸ばすというのが聞こえてきたんです。正直、それはやりたくないなと思いました。だってダックスフントみたいになって、格好よくなる要素はひとつもありませんから。
──モチベーションが湧いたのは、なにかきっかけがあったんでしょうか?
玉谷:競合にならないので具体名を出しますが、モーターショーなどでロールス・ロイスのサルーンを見ると、迫力とゆとりがあって、すごく大人っぽく見えます。この印象はどこから来ているんだろうと観察すると、クルマの全長よりはるかに長さのある面の一部として、サイドをデザインしているんですね。だから船舶のようにおおらかで美しい面が生まれる。いままでのマツダにない、素材をしっかり見せる豊かさみたいなものにチャレンジしようと思って、チームメンバーに僕なりの着眼点を伝えて、いろいろ描いてもらいました。うちが持っていなかった豊かさを骨格レベルで表現できれば、これはデザイナー冥利(みょうり)に尽きるな、と。
──いままでのマツダ車にはない豊かさを表現しつつも、やはりマツダらしさも必要があると思うのですが、いかがでしょう。
玉谷:ちょっと崖を飛び降りてみようと、すごくボクシーなやつも描いてもらったんですが、やっぱりマツダ車はマツダ車じゃなければいけないということにも気づきました。具体的にいうと、SUVであってもワインディングロードを走っている姿は安定していないといけない、コケそうに見える形はダメだ、ということですね。
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もし自分で買うとしたら……
──最後にみなさんにうかがいますが、自分でお金を出してマツダCX-80を買うならこの仕様だ、というのを教えてください。
柴田:まず外観は黒、ブラックで、内装はタンがいいですね。パワートレインは……、ディーゼルはエンジンのよさをダイレクトに味わえるし、ガソリンエンジンのプラグインハイブリッドの走りもいいのですが、ディーゼルのマイルドハイブリッドを選ぶと思います。
髙橋:私もパワートレインはディーゼルのマイルドハイブリッドですね。いまCX-60に乗っていまして、それも同じマイルドハイブリッドです。ボディーカラーは2択で、いずれも新色ですが、「アーティザンレッドプレミアムメタリック」か「メルティングカッパーメタリック」のどちらかを選ぶと思います。特に後者はすごくおしゃれなので、私にはハードルが高いかもしれませんが(笑)。
玉谷:外装色は黒かメルティングカッパーメタリックで、インテリアはあえて黒の革内装を選ぶと思います。黒いボディーに黒い内装だと相当に“黒い”ですが、これがかなり渋くなると踏んでいます。
──本日はありがとうございました。CX-80に試乗する日を楽しみにしています。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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