あのバカ騒ぎはなんだったの? 認証不正問題を総括する
2024.08.23 デイリーコラムよくあるお役所と民間の対立
国土交通省は2024年8月9日、カワサキモータースから型式指定申請における不正行為の有無等に関する調査報告書を受領(不正行為なしという内容)。これにより、一連の認証不正問題の調査が終了した。発端となったダイハツも(参照)、同年7月18日に「ロッキー」と姉妹車「トヨタ・ライズ」のハイブリッドを生産再開し、これにより全現行車種のデリバリーが再開(型式指定を取り消された車種を除く)。トヨタも8月9日に再発防止策を国交省に提出した。長らく続いた騒動も、なんとなく幕を迎えつつある……らしい。
ただ個人的には、この問題には初めからあまり関心がなかった。これはメーカーと国交省の問題で、ユーザーはほぼ無関係だと思っていたからだ。私自身ダイハツ車のユーザーだが、当初からなんとも思っていなかった。この程度のことで「ウチのクルマ、故障するかも?」なんてビビッってたら、30年以上フェラーリに乗り続けられるわけがない。……というのはカーマニア的な遠ぼえだが、やじ馬として俯瞰(ふかん)すると、典型的な“お役所対民間”の対立だったように思える。
国交省側は、現在の日本の認証制度は「国連規則で示されたもので、欧米等のメーカーも同じ規則で認証を受けている」という。いっぽうの自動車メーカー側は、平謝りしながらも、「こういう試験をしましょうということは決められているというんですけれども、やり方が非常にあいまいで、かつ、メーカーによって担当者によって解釈のしかたによってずいぶんやり方が違ってくる場合がございます」(トヨタ自動車・佐藤恒治社長)といった恨み節が聞かれた。
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それぞれに言い分はあるわけで……
私は数年前、中古のBMWを買うために車庫証明の交付を申請した際、現地確認に来た担当警察官から驚くべき対応をされたことがある。「この駐車場は寸法が足りないかもしれないので、本当にそのクルマが入るかどうか、同じ型式のクルマを実際に入庫させた状態を見せてください」というのである。まだ買ってないクルマを借りてきて、入れて見せろと言うのだ。信じられない無理難題である。それまで50台くらいクルマを買ってきたが、そんな要求は初めてだった。
その担当官が異常にきちょうめんなのか、意地悪が趣味なのか、とにかく「官」にはそういう人もたまにいるらしい。めんどくさいので正面対決は避け、借りていたほかの駐車場で車庫証明を取ることにしたが、この件に関して担当官は「正当な法執行」だと主張するだろうし、私は「住民いじめ」と感じた。
2024年7月、トヨタ自動車の豊田章男会長は、不正認証問題に関連して「(自動車業界が)日本から出ていけば、大変になる。ただ、今の日本はがんばろうという気になれない」と発言したが、つまり「そんなにいじめるなら、ほかの駐車場で車庫証明取ろうかな」ということだろう。例えが極小サイズでスイマセン。
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メディアの手のひら返しに一言
もうひとつ気になったのは、この件に関するメディア側の反応の変化だ。
当初、ダイハツだけが“犯人”だったときは、各メディアともダイハツを袋だたきにしていた。「ダイハツは何ということをしてしまったのだろう……」と、頭を抱えんばかりに嘆いた自動車ライターもいた。私がダイハツユーザーとして「全然気にしてない」旨を書いたところ、あるメディア(『webCG』ではありません)からは、「一応、認証不正は許されない行為だと付け加えてください。読者から抗議が来るかもしれないので」と言われた。
ところがそこにホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ、そして日本を支えるトヨタまでもが犯人に加わった瞬間、手のひらを返すように「トヨタが手を染めるくらいだから、認証にムリがあるんじゃないか」みたいな空気になり、積極的にトヨタを擁護する人が増え、メディアの「認証不正は許されない行為」というただし書きシバリも雲散霧消した。長いものに巻かれろというのが、日本の風土なのですね……。
いや、そんなことはどうでもよろしい。それより今回の騒動である。官は官の理論として、たまに悪者を血祭りに上げて自らの存在感を高めたい。その功績で担当官が部内で認められ、出世することもあるだろう。民は民で、なんとか抜け道を探すのが常だ。今回の認証不正問題もそんな例のひとつで、こうした騒動は官と民が存在する以上、ある程度避けられないことかもしれない。……なーんてあきらめちゃいけないですね。官と民はお互いリスペクトし合って、スポーツマンシップでいきましょう。夢が人生をつくるんだ(by大谷翔平)。
(文=清水草一/写真=ダイハツ工業、トヨタ自動車、池之平昌信/編集=堀田剛資)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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