シトロエン・ベルランゴMAX BlueHDi(FF/8AT)
この顔にピンときたら 2024.10.04 試乗記 「……誰だっけ?」「僕ですよ、僕!」。そんなやりとりが必要なくらいにデザインが一変した「シトロエン・ベルランゴ」が日本にやってきた。もちろん変わったのは顔だけではなく、各部の機能もきちんとアップデートを果たしている。ロングドライブで進化のほどを確かめた。最新世代のデザインモチーフを導入
ベルランゴのマイナーチェンジは、2018年春に欧州で、翌2019年秋に日本でデビューした現行型としては、今回が初となる。そのメダマは、ご覧のとおり、フロントまわりを中心としたデザインのアップデートだ。
これまでのベルランゴのデザインは、いわば、2014年に本国デビューした「C4カクタス」に端を発するエアバンプ世代。シトロエンのデザインはその後、X字フェイスに移行。「C4」に「C5 X」、そして「C3エアクロス」や「C5エアクロス」などのマイチェンモデルがそれにあたる。今回のベルランゴのマイナーチェンジは、さらにその次の最新世代のデザインモチーフを取り入れた。
最新世代のシトロエンデザインは、新型の「C3」やC3エアクロス(どちらも日本未導入)から導入されたものだ。垂直気味のフェイスに、目頭と上下まつ毛部分に直線的なLEDアクセントを仕込んだ特徴的なヘッドランプ、さらにシェブロン=V字模様が刻まれたセンターグリルがキーモチーフとなり、その中心にある新世代の“楕円ダブルシェブロン”も目を引く。前衛的なX字フェイスから、より目鼻立ちがクッキリしたハンサムフェイスになった……とでもいえばいいか。
そんな最新デザインに合わせて、フロントバンパーやサイドプロテクターにあったエアバンプのモチーフも省略された。さらに、リアゲートのダブルシェブロンエンブレムが省かれているが、それは新世代デザインの一環というより、今回のベルランゴや同じく世代交代した新しい「プジョー・リフター」に特有の手直しである。
車体のスリーサイズも基本的に変わりないはずだが、今回の試乗グレードは全高だけが先代より20mmほど小さくなっている。……と思ったら、2023年9月に限定販売された「エディションサーブル」と同じ、ロータイプのルーフレールがその理由のようだ。
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機能装備も最新世代にアップデート
マイナーチェンジ直前には都合3種類用意されていたグレードは、今回はひとまず、標準、ロングともに「MAX(マックス)」の一択となった。これまでの同グレード同様に、特徴的な「モデュトップ」や天井収納などは標準装備だ。そして、アウトドア風味を増量した上級モデルの「XTR」は「ローンチエディション」という特別仕様車あつかいとなる。本体価格はどれも20万円前後の値上げとなる。
インテリアは従来デザインをベースとしながら、各部がアップデートされた。目立つのは新世代となったステアリングホイールとシフトセレクター、フル液晶化されたメーターパネル、そして10インチに拡大(従来は8インチ)されたセンタータッチディスプレイといったところだ。
また、これまでのベルランゴでは、さらりとした手ざわりのダッシュボードや、助手席前リッドにあしらわれたベルト加飾が印象的だった。しかし、今回試乗したMAXでは、それらが省かれて、フィアット版の「ドブロ」のそれに似た、よくも悪くもビジネスライクな黒いシボ仕上げとなってしまった。この部分の仕立ては本国の同名グレードとも異なるようで、円安下での日本仕様づくりの苦労がうかがえなくもない。
今後のシトロエンが順次採用するはずの新しいステアリングホイールの形状は、上下がフラット化されて、スポーク部分も航空機の操縦かんを思わせるデザインだ。もっとも、従来もボトム部分はフラットだったし、全体のサイズに大きな変化はないので、操作性に大きな変化は感じられなかった。
シフトセレクターは昨今のプジョーやシトロエンでおなじみのツマミ式となり、その横にドライブモードのセレクターもならぶ。ただし、モードの選択肢は「ノーマル」と「エコ」のみなので、機能的には従来モデルにあったエコボタンと変わりない。
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シャシーとパワートレインの絶妙なバランス感
日本仕様のパワートレインはこれまで同様の1.5リッターディーゼル+8段ATで、最高出力や最大トルク、カタログ燃費にも変化はない。また、シャシーまわりの改良についても、公式なアナウンスはとくにない。
今回の試乗でも、乗り味はよくも悪くもベルランゴそのものだった。リフターやドブロなども含めたシリーズのなかでは、シトロエンの調律はベーシックともいえる内容だ。宿敵「ルノー・カングー」と比較すると、走行中のロールや上下動は大きめ・多めなのだが、そのぶんすみやかに荷重移動してくれるので接地感も濃厚、動きそのものは正確である。
ステアリングレスポンスは良くいえばマイルド、悪くいうと鈍めである。しかし、上屋の動きが絶対的に大きいベルランゴなのに、けっして不安な所作におちいらないのには、このおっとり系のステアリングによるところも大きい。しかも、反応はゆったりスローだが、操作と動きにラグがあるわけでもない。
エンジンもしかり。このサイズに1.5リッターだが、必要十分プラスアルファのパワフルさだ。感心するのは、エンジン単体ではそれなりにハイチューンなのに、アクセルレスポンスにラグが感じ取れないことである。ベルランゴはシャシーやパワートレインがすべて絶妙にバランスしているのだ。
そのうえで、2020年1月にwebCGで試乗させていただいた初期の「デビューエディション」と比較しても、随所が熟成されている感がなくもない。といって、どこかが明確に硬くなった、あるいは柔らかくなった……みたいなちがいはない。前記のとおりロールや上下動はそれなりに目立つが、ロールスピードは少しだけ遅くなり、上下動のチェックも当時より行き届くようになった。ロードノイズはわずかに減少しているように思えるし、タイヤもより滑らかに転がるようになっている。
新デザインが受け入れられるか?
この熟成感は、ダンパーなどの未発表の微妙な設定変更によるものかもしれないし、本国デビューから6年以上が経過したことによる生産ラインの習熟のおかげかもしれない。あるいは個体差かもしれないが、本当のところは取材できなかった。ただ、実車を観察して、明らかに変わっていたところがひとつある。
それはタイヤだ。これまでに筆者が試乗したベルランゴはすべてミシュラン製で、「エナジーセイバー+」もしくは「プライマシー4」だった。対して、今回の試乗車のそれは、もちろんサイズは変わりないものの、ネクセンの「N'FERA(エヌフィラ)プリムス」を履いていた。
ネクセンは韓国のタイヤメーカーで、2018年に欧州と北米に研究所を新築して、2019年にチェコ工場の操業を開始してからは、欧米メーカー車の標準装着タイヤメーカーとして頭角をあらわしている。少なくとも今回のロードノイズ改善や滑らかな路面感覚は、タイヤのおかげも大きいように感じられた。それはミシュランとネクセンがどうこうというより、タイヤ設計が新しいことが大きいと思われる。
今回のマイナーチェンジでは先進運転支援システムのアップデートも実施。アダプティブクルーズコントロールやレーンポジションアシストの機能が向上しているというが、乗っていてなにより実利が大きいのは、その操作スイッチが、C4やC5 Xに続いて、ついにステアリングホイールに移されたことだ。
ステランティス系のマルチパーパスビークルのなかでも、日本ではベルランゴの人気がとくに高かったのは、最初に上陸したことに加えて、やはりかわいい系のファニーフェイスによるところも大きかったと想像される。とにかく日本人はかわいいのが好きだ。新しいベルランゴは機能的に従来の美点をなんら損ねていないし、一部は確実に進化している。とにもかくにも、新しいハンサムフェイスが日本人ウケするかどうか……が勝負か?
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
シトロエン・ベルランゴMAX BlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1850×1830mm
ホイールベース:2785mm
車重:1600kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/3750rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H XL/(後)205/60R16 96H XL(ネクセンN'FERAプリムス)
燃費:18.1km/リッター
価格:439万円/テスト車=455万8775円
オプション装備:メタリックペイント<ブルーキアマ>(6万0500円)/ETC(1万8425円)/ドライブレコーダー(5万9950円)/フロアマット(2万9900円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1586km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:329.0km
使用燃料:27.3リッター(軽油)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/12.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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