ホンダCR-V e:FCEV(FWD)
ここからが勝負 2024.10.05 試乗記 2022年末で国内販売が終了した「ホンダCR-V」が早くも復活……したのだが、6代目となる新型は水素燃料電池車(FCEV)の「e:FCEV」のみが導入される。なんともマニアックなポジションになってのカムバックだが、果たしてその仕上がりは?燃料電池システムはGMとの共同開発
ホンダとゼネラルモーターズ(GM)が燃料電池分野での協業を発表したのは2013年のこと。すでに11年の月日がたっている。その間、電気自動車(BEV)や自動運転の分野などにも協業の幅を広げていったのはご存じのとおりだ。うちBEVの側は「アルティウム」バッテリーを用いたGMのプラットフォームを基に開発された「プロローグ/ZDX」でその成果が具体的に見え始めてきたところだが、ようやくFCEVの側にも具体的な動きが表れている。電動パワートレインという視点で見れば、2024年はホンダにとって新たな挑戦の始まりということになるのかもしれない。
そんなわけでホンダにとっては2016年に発売した「クラリティ フューエルセル」以来のFCEVとなる「CR-V e:FCEV」は、GMと共同開発の燃料電池システムを搭載。その生産はミシガン州に合弁で設立したFuel Cell System Manufacturing LLC=FCSMが担当、アッセンブリーはオハイオ州にあるパフォーマンスマニュファクチュアリングセンター(PMC)が担うことになる。PMCという名に覚えのある方もいるかと思うが、ここは直近まで「NSX」の生産を担っていた。手作業の工程に最適化されており、流動的な生産量にも柔軟に対応できることで白羽の矢が立ったのだろう。
プラグインハイブリッド車としても使える
燃料電池システムの技術的な特徴は、Cセグメント級SUVであるCR-VのボンネットにFCスタックが収まっているところに表れている。つまりクラリティ譲りの小型化をさらに推し進めただけでなく、中庸なクルマに搭載できるほどの低コスト化を果たしたということだ。ホンダのデータによれば、クラリティに対してシステムのコストを3分の1以下に圧縮したという。
一方で耐久性は2倍以上に引き上げ、燃料電池が苦手な、例えば-30℃のような低温環境下での始動時間も著しく短縮している。ロバストネスの大きな進化を達成した背景は、ホンダとGMがこの燃料電池システムを乗用車の車載専用とは考えていないからだ。多連装化によるトラックや重機などのパワートレイン置換や定置システムへの対応など、FCスタックの多様な活用を前提にモジュール的な発想で外販にも応え、数を出せるものとしてスケールメリットを向上させたいという狙いがある。
そしてCR-V e:FCEV独自のポイントとして挙げられるのは、床下に搭載する駆動用バッテリーだ。その容量は実に17.7kWhと、「トヨタ・ミライ」の約14倍となる。これを用いてCR-V e:FCEVはプラグインハイブリッド車としての運用も可能だ。ホンダの社内測定値ではその一充電走行距離は61km。家での充電で近距離移動を賄ったり、万一の際に水素ステーションへとたどり着くための命綱としてバッテリーを充電しておいたりと、用途はいろいろと考えられる。ともあれ水素が切れたら文鎮というストレスから少しでも開放されるという点はこのクルマの売りだろう。ちなみにVtoHにも対応しており最大1500Wの電力を取り出すことが可能。水素も駆動用バッテリーも満タン状態であれば、一般的な家庭の消費電力で4日相当分を賄えるという。ちなみに航続可能距離は水素とバッテリーが満タンの状態から数えてホンダの社内計測値で621km。こちらはミライには及ばない。
そもそもシャシーの素性がいい
米国製とはいえハンドル位置は右、そしてインフォテインメントも日本に準拠したものになっており、水素ステーションの稼働状況や航続距離をリアルタイムで反映したルート案内などが使える。加えてスマホの専用アプリを介して水素や電気の残量確認、充電時のSOC設定や時間帯選択、エアコンの稼働などのリモートコントロールが可能だ。さすがに地元だけあってローカライズについてはきめ細かい。
6代目CR-Vの初体験がFCEVになろうとは思いがけないことだったが、走り始めてまず感じられたのがクルマ本体の素性のよさだ。転がり感の雑みの少なさ、細かな凹凸のいなしのきれいさ、バネ下やステアリングまわりの軸ブレ的な振動の小ささと、動くことのあらかたがスキッと仕上がっている。もちろんベースモデルに対して11mm低いという重心高や、結果的に適正化された重量配分、ほぼ2tという車重もそこに寄与しているだろう。が、そこはかとなく伝わる剛性感と柔軟性とのバランスポイントの高さは「シビック」とも相通じている。まあ日本には「ZR-V」があるとはいえ、CR-Vの存在意義を再び問うてみるのも悪くないのではないかと思ったのは正直なところだ。
燃料電池システムの仕上がりは想像以上にこなれていた。コンバーターやインバーターなどの電子機器はもちろん、水素を循環させるポンプや排水などのメカ音も含め、あらゆる音源が丁寧にコントロールされていて、耳障りなところが一切ない。劇的なまでの静音性というよりは、走行音や風切り音も含めて、ノイズレベルや周波数、音源の位置などが全体最適化されていて、長時間乗っていても全然苦痛にならない空間に仕上がっているという印象だ。開発陣によれば走行実感のためにも音はある程度聞かせる方針でつくり込んでいくうえで、特別な遮音は施す必要がなかったということだから、これもCR-Vの素性のよさが一因ではあるだろう。
全量リース販売に感じるホンダの良心
動力性能は十分以上だしハンドリングもリーズナブルにまとめられているし……というなかで気になった数少ないポイントは、ブレーキのタッチが事務的で踏量に対してのリニアさに欠けるところだった。もう少し足先で締め込むようなフィーリングが出せればとも思うが、これは回生とメカニカルという2系統の制動を協調する電動車にありがちなネガなので、改善が十分に期待できるところだと思う。
CR-V e:FCEVの価格は約809万円だが、買い切りはできない。個人・法人を問わず全量がリース販売となる。それをもって普及に消極的だという向きもあるだろう。でも、現状の2次販売価格や廃車・解体時の面倒、水素普及へのハードルなどに鑑みれば、ユーザーファーストの施策とも捉えられる。強大な既得権益からの圧力もあるだろう。新エネの普及とは筋書きどおりにはいかないものだ。
一方で、資源なき日本にとって水素は大きな鉱脈にもなり得る。この先、同業種・他業種の垣根なく、いかに協調領域を広げていけるか、日本は水素での先行をさらに広げられるかどうかの岐路にあるのではないだろうか。少なくともハードの側はそれを使う準備は整っている。CR-V e:FCEVはそのくらいの安堵(あんど)と期待をみせてくれた。
(文=渡辺敏史/写真=本田技研工業/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダCR-V e:FCEV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1865×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:2010kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:177PS(130kW)
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)
タイヤ:(前)235/60R18 103H/(後)235/60R18 103H(ハンコック・キナジーGT)
燃費:129.0km/kg(WLTCモードに基づくホンダ測定値)
一充填走行距離:約621km(WLTCモードに基づくホンダ測定値)
一充電走行距離:約61km(WLTCモードに基づくホンダ測定値)
価格:809万4900円/テスト車=809万4900円
オプション装備:なし
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--kg(圧縮水素)
参考燃費:--km/kg

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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