オールシーズンタイヤって、ぶっちゃけどうなの?

2024.11.05 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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ノーマルタイヤに近いドライ性能がありながら、急な降雪にも安心といわれるオールシーズンタイヤ。オールマイティーな最良のタイヤ商品のように聞こえますが、実際のところどうでしょうか? 車両開発者の評価を聞いてみたいです。

私は、車両全体の取りまとめを担当する前、ABSやトラクションコントロールの開発にたずさわり、冬季試験のために日本だけでなく海外のさまざまな降雪地帯に赴きました。北米の雪深い地域や、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーといった北欧の国にも頻繁に足を運び、冬の道路事情を研究していたのです。

そこで気がついたのは、海外では日本よりもはるかにオールシーズンタイヤが身近な存在だということ。降雪のある国のなかで、日本ほどオールシーズンタイヤが普及していない国はないという事実です。

むしろ日本は「雪が降ることはあっても年に数回だけ」というロケーション、つまりオールシーズンタイヤにぴったりな地域が広いのに、製品自体があまり認識されていません。最近ようやく認知が高まってきたのか、私自身、友人から「本当のところ、使えるの?」と聞かれることが増えてきたので、今回取り上げるのはいい機会かと思います。

さて、冬専用のスタッドレスタイヤとオールシーズンタイヤを比べるなら、もちろん絶対的な雪上・氷上性能には差があります。ただ、それは純粋に“性能”という意味でです。

例えば、東京以南の「雪の日が年に何回あるかわからない」という地域では、スタッドレスタイヤにしても雪上・氷上で履き続けられるわけではない。せっかく装着したところで「今年は使わなかった。次の年は一度だけ雪を踏む日もあった」という程度だったり。スタッドレスタイヤでほとんどドライな道ばかり走り続けているというのは、タイヤのためにはよくありません。

このタイヤは表面のシャープなエッジこそがグリップの要であり、それがすり減ってしまっては、オールシーズンとの性能差も縮まるというものです。専門メディアの試走リポートなどは新品のスタッドレスタイヤをしかるべき場所で試しているわけですが、実際の使われ方は、雪国以外はスタッドレスタイヤにとってかなり厳しい状況になっている。その点オールシーズンタイヤは、ドライ路面での劣化度合いがスタッドレスより緩いといえます。

そして「面倒くさくない」というのが、オールシーズンタイヤのメリットとして極めて大きい。例えばアメリカのユーザーは、タイヤ交換に大いに抵抗があるようで、その手間を非常に嫌います。

トヨタが「86」をかの地で売り出す際、アメリカの販売サイドから「オールシーズンタイヤを標準タイヤにしてほしい」という強力なリクエストがきて、当然こちらは「スポーツカーなのに? あり得ないでしょう!?」と難色を示し、大問題になったことがありました。彼らは、「ポルシェのような高性能車ならともかく、86ごときでいちいちタイヤなんか換える人はいない。断固オールシーズンだ」とゆずらない(苦笑)。結局、アメリカとカナダの国境付近で86×オールシーズンタイヤのテストを長時間かけて行うことになったのです。

そこでわかったのは、たしかに、雪道において“飛ばす”ことはできないけれど、走らせるぶんには、気をつけて運転すればオールシーズンで全く問題ないということでした。日本はブラックアイスと呼ばれる黒光りしたアイスバーンの発生頻度が高いのでオールシーズンタイヤはダメなんだと言う意見もありますが、想定外の道でそれに出会う頻度は低いし、ドライバーの意識・注意次第でという面もある。

最近は、水分や温度などの外的要因でゴムの質が変わるという驚くべき製品も出ています。オールシーズンタイヤはなかなかポテンシャルの高いアイテムですから、今後も注目してみてください。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。