マセラティ・グランカブリオ トロフェオ(4WD/8AT)
至高のトライデント 2024.11.08 試乗記 日本に上陸したマセラティのオープントップモデル「グランカブリオ トロフェオ」に試乗。優雅でスポーティーなフォルムと、最高出力550PSを誇る3リッターV6ツインターボ「ネットゥーノ」が織りなすオープンエアドライブの世界を報告する。F1由来のテクノロジー
クルマは2種類に分けられる。オープンか、それ以外かだ。駆動方式とかエンジン排気量は、クルマにとってささいな要素である。……極論なのは認めよう。風を受けながら走る楽しみは何物にも代えがたいと言いたいのだ。オープンカーには小型のスポーツカーからセダンの屋根を切り落としたものまで、さまざまな種類がある。マセラティ・グランカブリオ トロフェオはグランドツアラー的な性格を持ち、内外装はリッチでゴージャスだ。このジャンルのなかで、ルックスも性能もトップに位置することは誰もが認めるだろう。
ベースとなっているのは、すでに発売されている2ドアクーペの「グラントゥーリズモ」だ。今回の報道関係者向け試乗イベントの会場にはこの2台が並べられていて、フロントから見ると同じ顔をしている。サイドにまわってみると、ボディーが繊細につくり変えられていることに気づく。ソフトトップを閉めた状態ではクーペと同じ印象を持たせながら、オープンにしたときには異なるフォルムでエレガンスを表現しなければならない。コストダウンのためにボディーパネルを共通化するなんてケチくさいことは考えず、新たに細部を仕立てている。
ルーフを取り去れば剛性は低下するので、ボディーに補強が入れられている。グラントゥーリズモに比べるとちょうど100kg車重が増加した。それでも2t以下に抑えられたのは、ボディーの65%にアルミニウムを用いていることが大きいはずだ。
もっとも、グランカブリオには重量増などものともしない強力なパワーユニットが搭載されている。「ネットゥーノ」と名づけられた3リッターV6ツインターボエンジンだ。スーパースポーツカー「MC20」に初めて搭載された新開発のエンジンで、F1由来のテクノロジーを用いている。マセラティは2028年までに全ラインナップをフルEV化すると発表しているが、エンジンにも手を抜いてはいない。
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タッチパネルで車高を調整
ネットゥーノに採用されているのは、「プレチャンバー燃焼システム」と呼ばれる機構である。副燃焼室で点火してメイン燃焼室に強力な火炎を送り込み、スーパーリーンバーンを実現するという。副燃焼室というアイデアはホンダが初代「シビック」で採用したCVCCエンジンと同じだが、はるかに進んだ制御が行われている。低速域から高速域まで広い範囲で効率的な燃焼を可能にしたのだ。
ちなみに、ネットゥーノという名前はローマ神話における海の神ネプトゥーヌスのイタリア語読みだ。英語ではネプチューンで、ギリシャ神話のポセイドンと同一視されている。ポセイドンはマセラティのエンブレムになっているトライデントを武器としていて、最高神ゼウスに次ぐパワーを持つ。トライデントの3つの槍(やり)先がエレガンス、ラグジュアリー、ハイパフォーマンスを示し、それがマセラティのクルマづくりを貫くドクトリン(基本原則)なのだという。
ネットゥーノにはさまざまな仕様があり、グランカブリオに搭載されるのは最高出力550PS、最大トルク650N・mのユニット。8段ATが組み合わされ、駆動方式は4WDのみだ。エンジンを始動して試乗に向かうが、まず車高を調整するように指示された。グラントゥーリズモより最低地上高が10mm高められているものの、見るからに低い。公道に出るまでに急坂を下らなければならず、フロントスポイラーの下部をこすらないように念のため車高を上げておいた。センターに設けられたタッチパネルで操作する。
走りだしてスピードが上がれば、自動的に車高が下がる。エアサスペンションの設定がグラントゥーリズモよりもマイルドになっているのは、クルマのキャラクターが反映されているからだ。スポーティーなグラントゥーリズモに対し、グランカブリオはラグジュアリー性が重視されている。
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真冬でも優雅にドライブ
ソフトトップの開閉も、タッチパネルで行う。走行中でも50km/hまでなら作動するというが、運転しながらパネルの表面を指先で微妙に操作する自信がなかったのでやめておいた。オープン/クローズのいずれも作動に要する時間は14秒。サイドウィンドウの上げ下げを含めても18秒で完了する。フルオープンでも風の巻き込みは少ないが、サイドウィンドウを上げるとさらに快適だ。
日本では折りたたみ式のウインドディフレクターが標準装備されているが、特に必要とは感じなかった。ウインドディフレクターを装着したら後席は使えないし、組み立てるのは面倒だ。ネットゥーノエンジンのパワーを全面的に解放して走る際には効果があるのだろうが、日本の道では現実的ではない。
代わりに役に立ちそうなのが、ネックウォーマーである。フロントシートのヘッドレスト下部から温風が吹き出し、首まわりを温めるようになっている。温度調整は3段階で、真冬にも対応している。オープンカーは夏の暑さには弱いが、こんな装備があれば真冬でも快適だろう。北風が吹くなかでも優雅にオープンエアドライブを決め込むのが、グランカブリオにふさわしい振る舞いだ。
ドライブモードは「コンフォート」「GT」「スポーツ」「コルサ」の4種類。ステアリングホイールの右スポークに配されたダイヤルで操作する。瞬時に切り替えるためには、物理スイッチのほうが使い勝手がいい。デフォルトはGTで、日常の走行ならこのモードでカバーできるはずだ。コルサはESCが解除されてしまうので公道での使用は推奨できないが、ワインディングロードではスポーツを選ぶのがいいだろう。エンジン音が高まってレスポンスは向上するものの、過剰な演出はない。節度を保つのが、マセラティの流儀なのだ。
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パワーを覆い隠すエレガンス
デザインを見ても、節度と抑制が感じられる。派手な空力パーツで飾り立てるような下品なことはせず、風格を失わない。端正なプロポーションがもたらすのは、典雅なたたずまいである。見た目で圧倒的なパワーをアピールするのは、マセラティのプリンシプルに反するのだ。
先に触れたように、トライデントはエレガンス、ラグジュアリー、ハイパフォーマンスの象徴である。ありあまるパワーを包んで覆い隠すのが、エレガンスとラグジュアリーという衣なのだ。内装も最高品質の素材を使いながら、ギラギラと飾り立てることはしない。スポーティーでありつつ、クラシカルな美を併せ持つ。ダッシュボードのセンターには、伝統の時計が鎮座している。液晶表示に変わったが、エレガンスは健在だ。
試乗の途中で雨が降ってきたので、ソフトトップを閉めることにした。それだけで、クルマのキャラクターが一変する。静粛性が格段に高まり堅牢(けんろう)なボディーの安心感が浮かび上がってきた。使い分ければ2台持ちと同じことになるからお得だな、と思ってしまったが、このクルマのオーナーがそんなみみっちい発想を持つわけがないことに気づいた。
エレガンス、ラグジュアリー、ハイパフォーマンスを兼ね備えているうえに、実用性も担保されている。グランカブリオは、2シーターのようなスタイリッシュなフォルムでありながら4座なのだ。後席は大人が乗るのに十分とはいえないにしても、使い勝手は抜群に向上する。余裕を持っていることも、エレガンスの生まれる重要な条件のひとつなのだ。トライデントの3つの槍先が示す理想を見事に調和させた至高のモデルがグランカブリオなのだと思う。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=マセラティ ジャパン)
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テスト車のデータ
マセラティ・グランカブリオ トロフェオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4960×1950×1380mm
ホイールベース:2929mm
車重:1970kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(404kW)/6500rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)265/30ZR20 94Y/(後)295/30ZR21 102Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.6リッター/100km(約9.4km/リッター、欧州複合モード)
価格:3120万円/テスト車=3294万円
オプション装備:ブルーブレーキキャリパー(7万円)/パワーソフトトップ<ブルーマリン>(10万円)/ヘッドレストトライデントステッチ(12万円)/ハイグロスカーボンファイバーツイル(34万円)/スポーツデザインパッケージ<軽量スポーツペダル、アルミフットレスト、スチール製イルミネートサイドシル>(19万円)/Sonus Faberハイプレミアムサウンドシステム(59万円)/ヘッドアップディスプレイ(33万円)
テスト車の年式:2024年型
テスト車の走行距離:2476km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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