「右ハンドルの輸入車」は今でもダメですか?

2024.12.03 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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かつては、本国で左ハンドル仕様の輸入車については、「右ハンドル仕様はポジションが不自然でダメだ」などとささやかれたものです。今でもそうなのでしょうか? そもそも、不自然感が出る理由は何でしょうか。

今、本国仕様が左ハンドルのクルマで「右ハンドルになるとダメ」なんてことは全くないと思います。ほとんどのメーカーが各国の市場向けに右ハンドル/左ハンドルのクルマをつくっていますから。両方設定されているならば、好みに合わせて選べばいいと思います。一般論としては、その国の道路環境に合った位置を選ぶのがベターでしょうね。

なかには「GRスープラ」のように「右ハンドルなのにウインカーレバーの位置は逆(コラムの左側にある)」という車種もありますが、それもすぐに慣れるでしょう。慣れといえば、私は1993年から3年間、ドイツのテストラボに駐在して頻繁にイギリスに出張していた――つまり、運転するクルマのハンドル位置がころころと入れ替わったわけですが、それで違和感を覚えたこともなければ、怖い思いをしたということもありませんでした。

そもそもの話ですが、かつては欧州車といえどクルマの基本性能自体が低く、ペダル類がオフセットしてレイアウトされているなど、ドライビングポジションの煮詰めが甘い時代があったのです。

運転する際の違和感はハンドルとシート、ペダルの位置関係から生じるわけですが、ハンドル位置が反対になると、もともと違和感があるところに逆になるものですから、ますます気になってしまうという面があるでしょう。

ただ、それも1990年代に入ると解消されるようになりました。現在のクルマは、ハンドル・シート・ペダルが一直線で違和感がありませんから、ハンドル位置が逆になったところでどうということはありません。冒頭で述べたとおり、そもそも両側をつくるように設計されています。どちらかに違和感が出るようであれば、図面の段階でNGなのです。

昔はそのメーカーの母国など主戦場となる市場に合わせて基本設計していたわけで、ハンドル位置が反対の仕様をつくる必要性が出たときには、極力手間をかけず単純にハンドル位置をひっくり返して売っていた、という現実もあります。

また、入れ替えに際してブレーキのブースターが邪魔になり、これがドライビングポジションに悪影響をおよぼすこともあったようです。今はほとんどが油圧ブレーキなので、ブースターも無用ですが。「技術の進歩でレイアウトの自由度が高まったために、ハンドル位置による違和感はなくなった」ともいえますね。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。