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F1 2024プレイバック! “カスタマー”マクラーレンは、なぜ“ワークス”メルセデスを倒しチャンピオンになれたのか?

2024.12.16 デイリーコラム 柄谷 悠人
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過去最長、26年ぶりのタイトルの意味

24戦で争われたF1の2024年シーズンは、開幕からの10戦で7勝したレッドブル&マックス・フェルスタッペンによる独走劇から一転、中盤以降はマクラーレンとフェラーリというF1史上最も成功してきた“かつての王者たち”の復活で混戦の様相を呈した。

ドライバーズチャンピオンはフェルスタッペンが4連覇を達成したものの、チームズタイトル決定は最終戦にまでもつれこみ、結果マクラーレンが1998年以来となる栄冠を勝ち取った。実に26年ぶりのチャンピオン返り咲きは、過去最長のギャップなのだという。

1998年といえばふた昔以上前の話。マクラーレンがミカ・ハッキネン、フェラーリはミハエル・シューマッハーを擁し激戦を繰り広げたシーズンだった。当時は3リッター自然吸気エンジンでレース中の給油が許され、溝付きの「グルーブドタイヤ」装着が義務づけられるなど、今とは全く状況が異なっていた。

そしてあれから四半世紀のうちに、トップチームの顔ぶれも、それぞれの組織も激変した。今世紀に入ってからの24シーズンのコンストラクターズチャンピオンを見ると、メルセデスやレッドブルといった新勢力の台頭が見て取れる。

【コンストラクターズタイトル(2001~2024年)】

  • メルセデス 8回(2014~2021年)
  • フェラーリ 6回(2001~2004年、2007~2008年)
  • レッドブル 6回(2010~2013年、2022~2023年)
  • ルノー 2回(2005~2006年)
  • ブラウン 1回(2009年)
  • マクラーレン 1回(2024年)

コンストラクターズチャンピオンが設立された1958年からの記録となると、最多はフェラーリで16回、ウィリアムズとマクラーレンが9回ずつ、メルセデス8回、ロータス7回、レッドブル6回と続く。21世紀におけるF1では、主役の交代が起きていた。

今季のマクラーレンの華麗なる復活は、時代の転換を予感させるものとなった。

2024年の最終戦アブダビGPでランド・ノリス(写真左から2番目)が今季4勝目を飾ったことで、マクラーレンが1998年以来となるコンストラクターズチャンピオンに輝いた。惜しくもランキング2位に終わったフェラーリは、最後のレースでカルロス・サインツJr.(同左端)が2位、シャルル・ルクレール(同右端)は3位。トップ2チームのポイント差は24戦してわずか14点と接戦だった。(Photo=Ferrari)
2024年の最終戦アブダビGPでランド・ノリス(写真左から2番目)が今季4勝目を飾ったことで、マクラーレンが1998年以来となるコンストラクターズチャンピオンに輝いた。惜しくもランキング2位に終わったフェラーリは、最後のレースでカルロス・サインツJr.(同左端)が2位、シャルル・ルクレール(同右端)は3位。トップ2チームのポイント差は24戦してわずか14点と接戦だった。(Photo=Ferrari)拡大
史上最多24レースで争われた今シーズンは、4チームから7人のウィナーが誕生。勝利数が最も多かったのはレッドブルのマックス・フェルスタッペンで9勝。マクラーレンはランド・ノリス4勝、オスカー・ピアストリ2勝の計6勝で、2人とも自身初優勝を今年記録している。フェラーリはシャルル・ルクレール3勝、カルロス・サインツJr.2勝の計5勝。そしてメルセデスはジョージ・ラッセル、ルイス・ハミルトンとも2勝ずつだった。ちなみに2023年はフェルスタッペンとペレスのレッドブル勢以外はサインツJr.しか勝っておらず、22戦のうちフェルスタッペンが19勝したシーズンだった。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)
 
史上最多24レースで争われた今シーズンは、4チームから7人のウィナーが誕生。勝利数が最も多かったのはレッドブルのマックス・フェルスタッペンで9勝。マクラーレンはランド・ノリス4勝、オスカー・ピアストリ2勝の計6勝で、2人とも自身初優勝を今年記録している。フェラーリはシャルル・ルクレール3勝、カルロス・サインツJr.2勝の計5勝。そしてメルセデスはジョージ・ラッセル、ルイス・ハミルトンとも2勝ずつだった。ちなみに2023年はフェルスタッペンとペレスのレッドブル勢以外はサインツJr.しか勝っておらず、22戦のうちフェルスタッペンが19勝したシーズンだった。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)
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“ワークスであること”はマストではない

この四半世紀のうちに、マクラーレンでもさまざまなことが起きた。

エイドリアン・ニューウェイが移籍してきたのは1997年のこと。彼の手がけたマシンは40を超える勝利をチームにもたらしたものの、コンストラクターズタイトルは1998年のみで、天才デザイナーは2005年に退任しレッドブルへと移った。さらにチームの秘蔵っ子として2007年にデビューしたルイス・ハミルトンは翌年チャンピオンに輝くも、2013年にはメルセデスへと巣立っていった。

なかでも大きな出来事は、ホンダと再びタッグを組んだこと。1980年代後半からマクラーレン・ホンダとして合計8タイトルを獲得した黄金コンビの復活は、ご存じのとおり成果を残すことなく3年で関係解消となったのだが、このことが重要なのではない。ホンダとの再契約の背景にあった「タイトル獲得のためにはワークスエンジンが必須」というマクラーレンの方針にこそ注目すべきである。

ホンダと別れ、ルノーのパワーユニットで3年戦った後、2021年からはメルセデスにスイッチ。マクラーレンは先の方針を転換し、カスタマーに戻った。そして2024年には、本家メルセデスやフェラーリをも凌駕(りょうが)するパフォーマンスでチャンピオンにまでのぼりつめた。

もちろんこれには理由もある。現行のパワーユニットは2022年スペックで2025年まで開発凍結となっており、実績あるメーカーにアドバンテージがあること。アルピーヌの成績が中位なのはルノーのパワーユニットが足を引っ張っているからというのは暗黙の了解である。

そして“ワークスチューン”のようなことはルールとして認められておらず、同じパワーユニットなら基本的に同じ仕様であること。もはやワークスが絶対条件ではないのだ。

第6戦マイアミGPに持ち込んだマシンアップグレードからマクラーレンは上り調子。一方レッドブルは戦闘力を落としつつもフェルスタッペン(写真奥)がなんとか踏ん張りを見せ、度々ノリス(同手前)と丁々発止とやり合あうことに。第11戦オーストリアGPで2人が接触、第19戦アメリカGPではノリスがフェルスタッペンを追い抜く際にコース外に押し出してマクラーレンがペナルティーを受け、また第20戦メキシコシティGPでは逆にフェルスタッペンがノリスをコース外に追い込みペナルティーで順位を落とした。マクラーレンのマシンは強くなり、ノリスも勝利の味を覚えてきたようだが、この王者を倒すのは容易ではない。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)
第6戦マイアミGPに持ち込んだマシンアップグレードからマクラーレンは上り調子。一方レッドブルは戦闘力を落としつつもフェルスタッペン(写真奥)がなんとか踏ん張りを見せ、度々ノリス(同手前)と丁々発止とやり合あうことに。第11戦オーストリアGPで2人が接触、第19戦アメリカGPではノリスがフェルスタッペンを追い抜く際にコース外に押し出してマクラーレンがペナルティーを受け、また第20戦メキシコシティGPでは逆にフェルスタッペンがノリスをコース外に追い込みペナルティーで順位を落とした。マクラーレンのマシンは強くなり、ノリスも勝利の味を覚えてきたようだが、この王者を倒すのは容易ではない。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)拡大

失敗からの躍進

そしてホンダとの失敗が、結果的に勝てるチームへの道を開いた。マクラーレンを強豪に育て上げたロン・デニスが、2016年にグループの会長兼CEOを辞しチームを去ると、マーケティング畑を歩いてきたザック・ブラウンをトップに据え、デニス時代のクールで洗練されたイメージから、パパイヤオレンジも鮮やかな若々しいチームへと変貌を遂げた。

新たなリーダーシップのもと、2023年からはアンドレア・ステラを代表に据え、勝てる体制を築いてきた。今季の「マクラーレンMCL38」は、第6戦マイアミGPでのアップグレードが奏功し、フロントランナーとして申し分のない仕上がりを見せた。ランド・ノリスとオスカー・ピアストリ、2人の有望な若手ドライバーによりコンスタントにポイントを稼ぎ、年間6勝。9月のアゼルバイジャンGPでコンストラクターズランキングで首位にまでのぼりつめ、そのまま逃げ切った。

マクラーレンにとっての目下の課題は、勝ち続けるための戦略、勝負勘、したたかさといった経験値。ノリスはフェルスタッペンと同じシーズン最多8回のポールポジションを獲得しながら4勝と、王者の9勝に大きな差をつけられた。レッドブル&フェルスタッペンを倒し、真の覇者となるまでには、いっそう高い壁を越えなければならない。

マクラーレン復活の立役者、マクラーレン・レーシングのザック・ブラウンCEO(写真中央)。2016年11月にマクラーレン・テクノロジーグループのエグゼクティブ・ディレクターに就任、2018年4月から現職。マクラーレンに来た頃、チームはホンダのパワーユニットとともに絶不調で、組織としても多くの問題を抱えていた。彼はまず2017年でホンダとの関係を終わらせ、ルノーのパワーユニットで3年戦った後に、再びメルセデスとのパートナーシップを締結。2023年にはアンドレア・ステラを代表に据え、勝てるチームを築き上げた。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)
マクラーレン復活の立役者、マクラーレン・レーシングのザック・ブラウンCEO(写真中央)。2016年11月にマクラーレン・テクノロジーグループのエグゼクティブ・ディレクターに就任、2018年4月から現職。マクラーレンに来た頃、チームはホンダのパワーユニットとともに絶不調で、組織としても多くの問題を抱えていた。彼はまず2017年でホンダとの関係を終わらせ、ルノーのパワーユニットで3年戦った後に、再びメルセデスとのパートナーシップを締結。2023年にはアンドレア・ステラを代表に据え、勝てるチームを築き上げた。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)拡大

3位終了のレッドブルは“損して得取れ”?

今年コンストラクターズ3連覇を目指したレッドブルは、マクラーレンに加えフェラーリにも先を越されランキング3位に終わった。年間9勝したフェルスタッペンですら「シーズンの70%は最速マシンではなかった」と語るぐらい、今季のレッドブルが「RB20」の開発と調整に手こずったことは事実だが、レッドブル最大の敗因は、セルジオ・ペレスの深刻な不振にあっただろう。

ペレスは第5戦中国GPまでで表彰台4回と好調な滑り出しを見せたものの、マシンの戦闘力が落ち始めると昨季同様のスランプに陥った。特に予選成績は芳しくなく、Q1敗退は年6回。また終盤にはレース中に集中を切らしているようなシーンもあった。第6戦マイアミGP以降の獲得ポイントはたったの49点で、トップ4チームの誰よりも少なく、アルピーヌで善戦したピエール・ガスリーの42点と大差はなかった。チームが不調の際、フェルスタッペンは「勝てずとも大きく負けない」ことで踏ん張ったが、ペレスにはそれができなかった。

しかし、3位という成績も悪いことばかりではない。「空力テスト制限(ATR)」でライバルより有利にマシン開発ができるからだ。

ATRとは、風洞施設の使用回数や時間、コンピューターで流体の動きをシミュレーションする「CFD」の稼働量などを決めたルール。これが選手権順位の上位に厳しく、下位はより多くのテストができるようになっており、1位は基準値の70%、2位は75%、3位は80%の範囲でテストが許される。

このATRは年に2回リセットされ、1月1日から6月末日までと、7月1日から12月末日までの順位が次の期間に適用される。つまり3位となったレッドブルは、2025年1月からマクラーレンよりも多くの空力テストが可能になる。

そして2025年1月には大きな意味がある。マシンやパワーユニットの大幅なルール改定がある2026年型マシンの開発は2025年1月から許可されており、今後を見据えたアドバンテージにもなるのだ。順位が下がればF1からの分配金も減ることになり手放しでは喜べないものの、“損して得取れ”と考えて再出発するしかない。

フェルスタッペンがシーズン終盤に2勝し、復調の兆しを見せ始めていたレッドブル。「転んでもただでは起きるな」で再起に期待したいところだ。

(文=柄谷悠人)

フレデリック・バスール代表による2年目、フェラーリは着実に競争力を増しランキング2位でシーズン終了。今季型「SF-24」は、速さはあってもレースで順位を落とした昨季型から大きく改善した。今シーズン5勝のうち第3戦オーストラリアGP、第8戦モナコGPは市街地コースであり、1ストップ作戦という奇策で勝った第16戦イタリアGPは超ハイスピードの特殊なサーキットだったが、第19戦アメリカGP(写真)、続くメキシコシティGPと、終盤によりコンベンショナルなコースで2連勝したことで、一時迷いかけたマシン開発の方向性が正しいものだったことが示された。(Photo=Ferrari)
フレデリック・バスール代表による2年目、フェラーリは着実に競争力を増しランキング2位でシーズン終了。今季型「SF-24」は、速さはあってもレースで順位を落とした昨季型から大きく改善した。今シーズン5勝のうち第3戦オーストラリアGP、第8戦モナコGPは市街地コースであり、1ストップ作戦という奇策で勝った第16戦イタリアGPは超ハイスピードの特殊なサーキットだったが、第19戦アメリカGP(写真)、続くメキシコシティGPと、終盤によりコンベンショナルなコースで2連勝したことで、一時迷いかけたマシン開発の方向性が正しいものだったことが示された。(Photo=Ferrari)拡大
開幕戦バーレーンGP(写真)で1-2フィニッシュを決め、幸先良いスタートを切ったレッドブル勢。フェルスタッペンは今季誰よりも多い年間9勝をマークしたものの、このうち7勝は前半10戦で記録しており、この期間で築いた大量リードを貯金に大負けしないことで4連覇を達成した。一方でチームメイトのセルジオ・ペレスは、2025年の残留契約を締結した直後から調子を崩し始めた。総ポイントはフェルスタッペンが437点だったのに対し、ペレスは152点しか獲得できずランキング8位。コンストラクターズランキングも首位から転落し3位で終えることとなった。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)
開幕戦バーレーンGP(写真)で1-2フィニッシュを決め、幸先良いスタートを切ったレッドブル勢。フェルスタッペンは今季誰よりも多い年間9勝をマークしたものの、このうち7勝は前半10戦で記録しており、この期間で築いた大量リードを貯金に大負けしないことで4連覇を達成した。一方でチームメイトのセルジオ・ペレスは、2025年の残留契約を締結した直後から調子を崩し始めた。総ポイントはフェルスタッペンが437点だったのに対し、ペレスは152点しか獲得できずランキング8位。コンストラクターズランキングも首位から転落し3位で終えることとなった。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)拡大
いかにレッドブルが戦闘力を落としても、フェルスタッペンは負けなかった。第10戦スペインGP以降は10戦も勝利に見放されたが、苦しみながらもこの間に4回の表彰台を獲得し、平均4位と健闘。そして第21戦サンパウロGP(写真)では、雨で大荒れとなったレースで17番グリッドから圧巻の勝利を飾り、チャンピオンの格を見せつけることに。第23戦カタールGPでも優勝し今季9勝。シーズン終盤に調子を戻してきたのはさすがである。また6回行われたスプリントでは4勝しており、取りこぼしも少なかった。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)
いかにレッドブルが戦闘力を落としても、フェルスタッペンは負けなかった。第10戦スペインGP以降は10戦も勝利に見放されたが、苦しみながらもこの間に4回の表彰台を獲得し、平均4位と健闘。そして第21戦サンパウロGP(写真)では、雨で大荒れとなったレースで17番グリッドから圧巻の勝利を飾り、チャンピオンの格を見せつけることに。第23戦カタールGPでも優勝し今季9勝。シーズン終盤に調子を戻してきたのはさすがである。また6回行われたスプリントでは4勝しており、取りこぼしも少なかった。(Photo=Getty Images / Red Bull Content Pool)拡大
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