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カワサキ・メグロS1(6MT)

本家の手になるネオレトロ 2025.02.01 試乗記 青木 禎之 軽二輪の気軽さと、クラシックな装いが魅力の「カワサキ・メグロS1」。日本のバイク史を彩る名門の名を冠した一台は、それに恥じぬ仕上がりとなっているのか? “メグロ”のブランドを今日に受け継ぐ本家カワサキが世に問うた、レトロスポーツの魅力に触れた。
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徹底的に懐古調

撮影場所に向かうため、夜明け前にメグロ S1のシートにまたがってキーをひねると……オオッ! ヘッドライトが明るい!! 「オーセンティックなレトロスタイル」を標榜(ひょうぼう)する古典的な姿ながら、なるほど中身は令和のニューモデル。丸型ヘッドランプにはLEDがおごられている。暗い夜道では素直にありがたい。

メグロS1は、「K3」に続く新生メグロの第2弾。2024年11月に、姉妹モデル「W230」とともにリリースされた(参照)。いずれもセミダブルクレードルのフレームに、「KLX230」由来の232cc空冷単気筒を搭載。6段のギアボックスが組み合わされる。価格は、W230が64万3500円、ぜいたくな外装のS1は7万7000円高の72万0500円。両者に機関面の違いはない。

正直に言いましょう。初めてS1の実車を前にした感想は、「うーむ、オッサンくさい」。「お前に言われる筋合いはない」とS1も思っているだろうが、それはともかく、かつての「カワサキ250メグロSG」に範を取ったとするエクステリアは懐古調が徹底している。

ダブルショックのリアサスペンションに、前18/後ろ17インチの大径ワイヤーホイール。惜しげもなく使われたメッキパーツ。ステンレススチールのエキゾーストパイプとサイレンサーは、バフがけされて光り輝く。凝りに凝ったメグロの立体エンブレムやW230との差別化を図ったレトロな2連メーターと、細部まで手抜きがない。さらにエンジンの冷却フィンまで違和感ないようカタチを整えたとのこと。脱帽でございます。

注意深く観察するなら、前述のLEDヘッドランプとリアのディスクブレーキが、わずかに令和を感じさせる部分かもしれない(言うまでもなくブレーキはABS付きだ)。

さすがに最初期の「エストレヤ」で懲りたか、シートはセパレートではなく前後一体のロングタイプだが、クッションには丁寧なパイピングが施される。シート高は740mmと、足の長さに不満を持つライダー(←ワタシです)にも優しい。

ライディングポジションは想像どおり上体を起こしたアップライトなもの。浅学にして本来のクラシックバイクの乗車姿勢は存じませんが、“気持ち的には”胸を張って背筋を伸ばして乗りたい。ただ、ヒップポイントとステップ位置が近いせいか、ヒザは思ったより強めに折ることになる。大柄だったり足の長さをもてあましたりするような御仁は、やや窮屈かもしれない。

2024年11月に発売された「カワサキ・メグロS1」。排気量232ccの空冷単気筒エンジンを搭載した軽二輪のモデルで、「カワサキW230」とは意匠違いの姉妹モデルにあたる。
2024年11月に発売された「カワサキ・メグロS1」。排気量232ccの空冷単気筒エンジンを搭載した軽二輪のモデルで、「カワサキW230」とは意匠違いの姉妹モデルにあたる。拡大
国産バイクの黎明期に名をはせ、1964年に惜しまれながら姿を消した名門、メグロ(目黒製作所)。「メグロS1」が発売された2024年は、同社の創業100周年にあたる。
国産バイクの黎明期に名をはせ、1964年に惜しまれながら姿を消した名門、メグロ(目黒製作所)。「メグロS1」が発売された2024年は、同社の創業100周年にあたる。拡大
デザインはクラシックだが装備はモダンな「メグロS1」。ヘッドランプはLEDで、ブレーキは前後ともにディスク式でABSも採用。今日の交通事情のなかでも、痛痒(つうよう)なく走らせることができる。
デザインはクラシックだが装備はモダンな「メグロS1」。ヘッドランプはLEDで、ブレーキは前後ともにディスク式でABSも採用。今日の交通事情のなかでも、痛痒(つうよう)なく走らせることができる。拡大
今となっては懐かしい、2眼式のメーター。速度計の下部には小さなインフォメーションディスプレイが装備されているが、燃料計などの機能は備わっていない。
今となっては懐かしい、2眼式のメーター。速度計の下部には小さなインフォメーションディスプレイが装備されているが、燃料計などの機能は備わっていない。拡大
シート高さは740mmと低めで、車体もスリムなので足つき性は良好。車重も143kgと軽量で、街なかでも遠慮なく乗り回せる。この取り回しのしやすさは、軽二輪ならではだ。
シート高さは740mmと低めで、車体もスリムなので足つき性は良好。車重も143kgと軽量で、街なかでも遠慮なく乗り回せる。この取り回しのしやすさは、軽二輪ならではだ。拡大
そのスタイリングは1964年発売のロードスポーツモデル「カワサキ250 メグロSG」をモチーフにしたもの。カラーリングは「エボニー」のみだ。
そのスタイリングは1964年発売のロードスポーツモデル「カワサキ250 メグロSG」をモチーフにしたもの。カラーリングは「エボニー」のみだ。拡大
空冷単気筒SOHCエンジンは、十分な低速トルクとクランクシャフトの大きな慣性モーメントが特徴。エキゾーストサウンドも、往年のモデルをモチーフにつくり込まれている。
空冷単気筒SOHCエンジンは、十分な低速トルクとクランクシャフトの大きな慣性モーメントが特徴。エキゾーストサウンドも、往年のモデルをモチーフにつくり込まれている。拡大
試乗車のタイヤはiRCの「GS-19」。クラシックな見た目ながら、スポーツタイヤ系のコンパウンドを混ぜることでグリップ性能を担保したオンロードバイアスタイヤだ。
試乗車のタイヤはiRCの「GS-19」。クラシックな見た目ながら、スポーツタイヤ系のコンパウンドを混ぜることでグリップ性能を担保したオンロードバイアスタイヤだ。拡大
メッキとブラック塗装のコントラストが美しい燃料タンク。容量は11リッターで、カタログ上の燃費値を参考にすれば、400km強の走行距離を実現している。
メッキとブラック塗装のコントラストが美しい燃料タンク。容量は11リッターで、カタログ上の燃費値を参考にすれば、400km強の走行距離を実現している。拡大

気負いなく乗れるクラシック

KLX系のSOHCユニットは若干低中回転寄りにファインチューニングされ、232ccの排気量から18PS/7000rpmの最高出力と18N・m/5800rpmの最大トルクを発生する。かつてのエストレヤと比較すると、排気量は縮小されたが、車重が10kgほど軽い143kgなので動力面での懸念はあたらない。とはいえ、2次減速比がKLXよりロングになっていることもあってか、ありていに言ってエンジンキャパシティーなりの加速力。ライダーが目をむくような速さはない。

いっぽうで「単気筒」としてのアピールは強烈で、小気味いいビートで、振動で、排気音で、スロットルをひねるたびに乗り手の気持ちをアゲてくれる。「ちょっとやり過ぎなんじゃないのォ」とニヤニヤが止まらない。どこか殺気立った早朝の通勤グランプリにもまれながら、「できるだけパワーバンドを維持しながら走ってみようか」と、ひとりでその気になったりするのが楽しい。少し頑張らなきゃいけないところが、この手のバイクのだいご味だ。

最近の軽二輪は名実ともにすっかり高くなったので、安易に若者、ビギナー向けと言うのははばかられるが、カワサキのホームページで見られるように、「実年齢オッサン」より、ヤングの皆さまが一種のコスプレ感覚(!?)で乗るのが、令和のメグロらしいのかもしれない。

二輪、四輪とも、趣味としてはまり始めたころに、一定数の人が「クラシック」や「古めのモデル」に行きがちなもの。ボロボロになったバイクをレストアするのもロマンだが、もっぱら「直す」より「走りたい」ロマンチストにメグロ S1はピッタリ。レトロスポーツとして完成された外観、それでいて構える必要のないハンドリング、そして信頼性が担保された機関類。「メグロ」というブランドを引き継いだカワサキが手がける正統性もいい。ぜひとも7万7000円の壁を乗り越えてゲットしていただきたい。「オッサンくさい」なんて言ってスイマセンでした。

(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=カワサキモータースジャパン)

カワサキ・メグロS1
カワサキ・メグロS1拡大
 
カワサキ・メグロS1(6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2125×800×1090mm
ホイールベース:1415mm
シート高:740mm
重量:143kg
エンジン:232cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:18PS(13kW)/7000rpm
最大トルク:18N・m(1.8kgf・m)/5800rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:40.5km/リッター(WMTCモード)
価格:72万0500円

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青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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