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スズキの新経営計画を深掘り! キモは利益率の改善と「小・少・軽・短・美」のクルマづくり

2025.03.07 デイリーコラム 佐野 弘宗
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販売目標よりも注目すべきポイント

既報のとおり、スズキは2025年2月20日に「新中期経営計画」を発表した。同計画は、この春の2025年度から2030年度を対象としており、2021年2月に発表された「中期経営計画(2021年4月~2026年3月)」の続編というべき位置づけとなる。

そして、それは同時に2023年1月に発表された「2030年度に向けた成長戦略」(その1その2)のアップデート版といってもいい。もっというと、スズキは2024年7月にも「10年先を見据えた技術戦略」(その1その2)を発表しており、今回の新長期経営計画にはその内容も加味されている。

さて、前回の中期経営計画は2026年度までを対象としたものだったので、2025年度をスタートとする今回の新中期経営計画は、もともとの予定より1年前倒しでの発表ということになる。ここで、あえて早めに新経営計画へと移行した理由は、前計画で打ち立てた“四輪で年間370万台、二輪で同じく200万台”という販売台数目標こそ未達なものの(実際の2023年度実績は、四輪が317万台、二輪は191万台)、売上高と利益の目標はすでに達成したことがひとつだ。そしてもうひとつの理由は、電動化≒カーボンニュートラルへの取り組みの重要性の高まりや、スズキにとって生命線であるインド市場でのシェア下落など、市場環境の大きな変化である。

この新中期経営計画の中身だが、まずわれわれ素人にとって、もっとも分かりやすい目標である販売台数では、2030年度に四輪が420万台、二輪が254万台と、2023年度より3割以上の上乗せという成長を目指している。ただ今回は、それ以上に営業利益率やROEといった目標を重視しているようにみえる。

スズキの「新中期経営計画」について説明する、同社の鈴木俊宏社長。
スズキの「新中期経営計画」について説明する、同社の鈴木俊宏社長。拡大
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より“もうかる”企業体質へ

営業利益率とは、早い話がクルマやバイクをつくって売るという本業での利益のことだ。国内乗用車メーカーの2023年度通期決算によると、営業利益率がもっとも高いのはご想像のとおりトヨタで11.9%。それに10.0%のスバルが続き、スズキは8.7%で3番手となる。以降、本田技研工業(ホンダ)と三菱自動車工業が6.8%、マツダが5.2%。昨今話題の(参照)日産の営業利益率は、2023年度決算では4.5%だが、直近の2024年度上期では0.5%まで急降下している。

続いてROEとは“Return On Equity”の略称。日本語では“自己資本利益率”と訳されており、株主が拠出した自己資本を用いて企業がどれだけの利益をあげたかを示す。株主から見ると、ROEが高いほど投資効率のいい企業となり、最近とくに注目されている指標だ。

同じく国内乗用車メーカーの2023年度通期決算でのROEを見ると、三菱が17.1%、スバルは16.5%、トヨタが15.8%、マツダが13.1%で、スズキはこの4社に続く11.7%となっている。さらに、ホンダのそれが9.3%、日産が7.7%だ。

スズキの新長期経営計画では、2030年度通期=2031年3月期の営業利益率で10.0%、ROEで13.0%を目標とする。つまり、単純に台数や規模を追うのではなく、より“もうかる”企業体質に脱皮することがスズキの次なる目標ともいえる。

2030年へ向けた目標として、販売台数のアップに加え、営業利益率とROEの改善を挙げた鈴木俊宏社長。今以上に“もうかる”体質への脱皮が、次なる成長のカギとなるようだ。
2030年へ向けた目標として、販売台数のアップに加え、営業利益率とROEの改善を挙げた鈴木俊宏社長。今以上に“もうかる”体質への脱皮が、次なる成長のカギとなるようだ。拡大

日印に重きを置きつつ、その他のマーケットも重視

知っている向きも多いように、スズキ(の四輪車事業)は早くから、北米と中国という世界の二大自動車市場とあえて距離をとった(=撤退した)のが大きな特徴である。北米からの撤退発表は2012年、中国からの撤退は2019年だった。

北米と中国からは手を引いたスズキだが、それ以外の市場にはまんべんなく取り組んでいる。クルマを取り巻く環境がなにかと厳しい欧州にしても、今後も先進技術を鍛える場として一定の規模を維持する計画だし、スズキが意外に強い中東やアフリカでは、「次なるインドを見つける」ために積極的な攻勢をかけるとしている。そのほか、中南米、アジア、豪州でもスズキは手堅い。意外なところでは、パキスタンではじつに45%というシェアをもつとか。

そんなスズキが、人口減少社会となったわが日本も「スズキにとっては成長市場」と明言し、最大の生命線であるインドに次ぐ安定的収益の柱と位置づけているのは、なんとも心強い。規模という意味での日本市場の縮小は不可避だろうが、高齢化やそれにともなう公共交通インフラの衰退は、スズキが得意とするコンパクトカーや軽自動車≒足グルマの需要には追い風になるとの判断だろう。

また生命線のインド市場については、他社を圧倒する存在感は今も変わりないが、直近のシェアでついに5割を下回ったことにスズキは危機感をいだいている。今後はインド向けの商品ラインナップの拡充で現地シェアの5割復帰を目指すとともに、インドでの生産能力を400万台(2023年度時点では約200万台)まで引き上げて、インドを最大の輸出拠点にしていくという。日本においても、今日の「フロンクス」や「ジムニー ノマド」のようなインド製スズキ車が、今後は日本でもさらに増えていく可能性が高い。

2025年2月25日に稼働したマルチ・スズキ・インディアのカルコダ工場。同工場の開設により、スズキのインドでの生産能力は235万台から260万台にアップした。スズキは今後もインドでの生産増強を目指しており、将来的には年産400万台の体制を築くとしている。
2025年2月25日に稼働したマルチ・スズキ・インディアのカルコダ工場。同工場の開設により、スズキのインドでの生産能力は235万台から260万台にアップした。スズキは今後もインドでの生産増強を目指しており、将来的には年産400万台の体制を築くとしている。拡大

積極的な情報発信に感じる頼もしさ

ここまでがスズキの新中期経営計画のあらましだが、冒頭で触れた「10年先を見据えた技術戦略」を見ても分かるように、これらの中期目標を達成するためのスズキの実弾=商品は、意外なほどシンプルである。

柱となるのは低燃費エンジン車と国内では「スーパーエネチャージ」と呼ばれる予定の48Vマイルドハイブリッド車、そして純粋な電気自動車(BEV)だ。そのうえで、クルマそのものを徹底的に軽量化して効率を稼ぐ。

しかも、車体に使う素材はあくまで伝統的な鉄がメインで、アルミなどの軽合金や複合樹脂のような高価な素材は、ほとんど使わない。BEVにしても、使われ方を徹底的に分析して、電池をできるだけ積まないことで、軽量かつ低コストを実現する。ストロングハイブリッドのような複雑なシステムが必要となる場合は、無理に自社開発はせず、提携先のトヨタの協力を仰ぐ。しかも、近日発売の「eビターラ」のような手間ヒマかけた初の自社開発BEVは、トヨタブランドにもOEM供給して1台でも多く売る予定だ。こうしてムダを徹底的にそぎ落として実利を取るのが、スズキが目指す「小・少・軽・短・美」のクルマづくりである。

冒頭にも書いたが、最近のスズキは経営計画や技術戦略にまつわる発表を積極的におこなっている。こうした姿勢が顕著になったのは、先日なくなられた鈴木 修氏が会長職を退いた2021年以降。……つまり、現在の鈴木俊宏社長を中心とした集団指導体制となってからだ。まあ、これが現代的な企業の典型的なありかたなのだろうが、それが同時に、あのカリスマ経営者なき後のスズキをすごく頼もしく思わせてくれる根拠にもなっている。

(文=佐野弘宗/写真=スズキ、webCG/編集=堀田剛資)

コンパクトSUVタイプのBEV「eビターラ」。2025年春にインドのグジャラートで生産が開始され、同年夏ごろに発売される予定だ。
コンパクトSUVタイプのBEV「eビターラ」。2025年春にインドのグジャラートで生産が開始され、同年夏ごろに発売される予定だ。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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