第904回:返ってきたブーメラン! これがF.ジウジアーロの新ワンオフだ
2025.04.03 マッキナ あらモーダ!半世紀前の前衛を再解釈
54年前に投げたブーメランが返ってきた――イタリアのデザインファーム、GFGスタイルは2025年3月22日、同社初の一品製作モデル「ペラルタS」をメキシコで公開した。
GFGスタイルは、イタリアを代表するカーデザイナーのひとり、ジョルジェット・ジウジアーロ氏(1938年生まれ)と彼の長男ファブリツィオ・ジウジアーロ氏(1965年生まれ)が2015年に設立したデザイン・コンサルティング会社である。トリノ郊外モンカリエリを本拠とし、自動車のほか、関連スタジオでは日立レール(イタリア)の鉄道車両のデザインなども手がけている。
彼らはこれまでも、中国を含めた企業のコンセプトカーを手がけ、ジュネーブモーターショーなどで発表してきた(参照)。しかし、特定顧客を対象にしたオートクチュール的な一品製作、すなわちワンオフは今回が初めてである。依頼主は、メキシコ屈指のスーパーカーコレクター、カルロス・ペラルタ氏と彼の子息ファン・カルロス氏、ニコラス氏である。
ペラルタSは、ファブリツィオ・ジウジアーロ氏によるデザインで、着想源は父ジョルジェット氏がイタルデザイン社在籍時代に手がけた1971年のコンセプトカー「マセラティ・ブーメラン」である。
緊張感あるウエッジシェイプをもちながら均整がとれたフォルムのブーメランは、誕生間もなかったイタルデザインの能力を広めるべくつくられた。しかしそれにとどまらず、自動車デザイン界に大きな衝撃を与えた。ファブリツィオ氏はプレスリリースのなかで「これまでに多くのスポーツカーが、あの(ブーメランの)デザインからインスピレーションを得てきました。真の前衛であり、ジョルジェットが生み出したなかでも、最も成功した作品のひとつと考えています」とコメントしている。
ペラルタSのシャシーおよびミドシップRWDの機構部分には「マセラティMC20」のものが使用されており、基本スペックもそのままだ。製作はマニファットゥーラ・アウトモビリ・トリノ社(MAT)が担当した。参考までに同社は、ピニンファリーナのスペシャルプロジェクト部門での長い勤務経験をもつパオロ・ガレッラ氏によって2014年に設立されたワンオフ製作工房である。
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静と動のコントラストも
車体はフード、ガラス部分、リアセクションの3部分で構成されている。アルミボディーの表面は鏡面仕上げで、ガラス部との限りない一体化が試みられている。いっぽうフロントスポイラー、リアディフューザーそしてサイドシルは、むき出しのカーボンファイバー製である。
フロントが極めてシンプルに見えるのは、すべての灯火類が隠されているためだ。いっぽうサイドビューを観察すると、前部から一筆書きのごとく、ルーフを経てリアまで2本のエッジのみで構成されているのがわかる。
ドーム状キャノピーは、ジウジアーロ父子がイタルデザイン時代からコンセプトカーや少量生産車に好んで試みてきたものだ。形状は違うものの、その起源は遠く1959年にジョルジェット氏がベルトーネ社の就職面接に携えたコンセプトカーのスケッチにまでさかのぼれる。
ペラルタSのキャビンへのアクセスは、ドーム全体を持ち上げる方式を採用している。それとは別にサイドウィンドウはガルウイング式に開閉可能だ。
室内のマテリアルは、1970年代の革新的素材からインスピレーションを得たという。シート、ダッシュボードなどには、光沢クローム色のレザーが用いられている。いっぽうで機能性も重視。ステアリングホイールやセンターコンソールに集約されたスイッチ類が、その象徴である。
静止時には巨大な石塊のように見えるペラルタSだが、エンジンを始動させるとリアスポイラーが上昇するとともに、キャノピー直後のエアインテークも開き、より動的な印象へと変化する。
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カロッツェリア・イタリアーナの妙も
ペラルタSは、メキシコシティの北、メヒコ州で2020年から続く自動車コンクール「パスティへ・アウトモテイヴ・インヴィテショナル」で公開された。
ファブリツィオ氏がペラルタSで模索したのは1970年代の精神だ。「私はこのクルマに、歴史を築いた過去のデザイン要素や形態の引用をちりばめ、それらを現代的な視点で再解釈しました。同時に、ブーメランのボリュームを再構築することで、父へのオマージュを込めました」と解説している。
そのファブリツィオ氏に、さらなる質問を投げかけてみた。それに対して彼は文書で以下のように回答してくれた。
アキオ ロレンツォ(以下AL):このプロジェクトの発端は?
ファブリツィオ・ジウジアーロ(以下FG):2024年、あるイベントで私は今回のクライアントにお会いしました。彼は偉大なコレクターでありながら、「テーラーメイド」のクルマを持っていませんでした。そこで私たちは、彼に一緒にクルマをつくることを提案しました。
AL:ベース車両をマセラティMC20にしたのは、クライアントの要求だったのですか、それともGFGスタイルの選択ですか?
FG:クライアントによるリクエストでした。
AL:その後のプロセスは?
FG:私たちは、数種のデザイン提案を提示しました。その後、顧客はこの方向をとりました。
AL:クライアントからの要求は何でしたか?
FG:コレクションにあるすべてのスーパーカーとは一線を画すユニークなクルマです。本物のワンオフを所望されました。
AL:あなたはイタルデザイン時代から開発期間の短縮を常に模索してきました。ペラルタSの製作には、どの程度の期間を要しましたか?
FG:開発には合計で5カ月も要しませんでした。そして今、ペラルタSを公開するに至ったのです。
中世ルネサンス期のイタリアでは、数々の画家や彫刻家が父子で活躍した。息子たちは偉大な父の技法を継承しながら、独自の解釈で自身の時代の空気を反映させていった。筆者が住むシエナやピサで活躍したニコラ&ジョヴァンニ・ピサーノ、ヴェネツィア派のジョヴァンニ&ヤコポ・ベッリーニ、フィリッポ&フィリッピーノ・リッピ、そしてルカ&アンドレア・ダ・ロッビアといった美術家たちである。
なかでも、ジョルジェット&ファブリツィオの作風は、ピサーノ父子に似る。父ジョヴァンニの造形的特徴は均整が重んじられているのに対し、息子ジョヴァンニの作品はより動的で感情表現が豊か、と定義されている。
カーデザインは美術よりも工芸にルーツをさかのぼるものであることは、ことわっておかなければならない。とはいえ、ジョルジェット氏の仕事が建築を思わせるものであるのに対し、ファブリツィオ氏は過去にたびたび米国車をイメージ源としながら、その大胆さを投影させてきた。自動車という最先端技術の集合体にもかかわらず、世代による対比という点で、歴史的美術との共通点が見いだせる。このあたりがイタリアのカロッツェリア文化の面白いところなのである。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=GFGスタイル、マセラティ、Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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