セダンは何ゆえに廃れたか?

2025.04.01 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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セダンが不人気になったといわれて久しいですが、かつては自動車の代名詞でした。なぜ廃れてしまったのでしょう? 逆に、変わらずいいところはありますか? 車両開発者としての考えをお聞かせください。

自動車というのは、古くは馬車から発展してきた乗りもので、もともとは「人間が乗る空間」「荷物を載せる場所」「動力にかかわる部分」と、パートを分けて成り立っていたという歴史があります。それがまさにセダンの原型になっていて、だからこそ、長きにわたってセダンはクルマの主流でした。

伝統というにとどまらず、セダンの空間的な区分け、つまりこの3分割構成にはメリットもあります。3つの空間それぞれを形成するため、キャビンを中心に空間がより大きくなりがちなワンボックスや2ボックスに比べて、しっかりとした骨組みがつくりやすくなるのです。

ワンボックスや2ボックスのように“ひとつになったキャビン”が大型化すると、室内の仕切りを減らしワンルーム化が進む住宅における柱の話と同じで、必然的に骨格の自由度が狭まり、強度を確保するための設計の難易度が上がります。

また、「トランクルームに充てられている空間が、空荷のときは人間の居住空間として活用できるなら理想的」「空きスペースをただ運んでいるという状況はもったいない」という考えも後押しして、乗用車の主流はだんだんと3ボックスから2ボックスやワンボックスになっていく。時代とともに住宅に対する考え方が変化してきたように、クルマの使い勝手に対するお客さまの意識が変わってきてのことだと思います。

じゃあセダンはこのまま廃れていくのかというと、そうとも言い切れません。クルマの流行はアパレルのそれとダブるところがあって、周期的な変化を繰り返すという面があるからです。

一見ムダそうに見えても、「それが面白い」という意識から、昔廃れた服がまたはやるということもある。セダンだって、もう日の目を見ることはないとは限りません。私は、そのうち「ああいう、キャビンとトランクが分かれているのがいいんだ」という話になって、また製品開発も活性化するような気がします。長い目で見れば、“復活する”かもしれません。

理性的に、効率の観点でいうなら、ワンボックスカーみたいな形状が最も効率的ではあります。ただ、それはあくまでパッセンジャーにとっては、の話です。“ドライバーにとって”という議論になると話が変わってきて、そもそも「クルマを運転する楽しさ」という観点では議論が分かれるところです。そこにセダン復活の道があるのではないかと思います。

まともに走れるかどうかというレベルでの骨格の話なら、技術の進歩もあって、ワンボックスだろうが2ボックスだろうが、3ボックスのセダンだろうが、そんなに差はないようになってきました。それでも、走りのしっかり感がどうとか、ステアリングの手ごたえがどうとか、リアの踏ん張りがどうしたみたいな話になると、当然、クルマ全体の剛性を上げられるセダンのほうが理想に近くなってくる。

ドライバー視点でいうと、セダンのほうがより面白いクルマをつくれる可能性は依然として高いといえるでしょう。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。