日産パトロールLEチタニウム(4WD/9AT)
明るい未来 2025.05.21 試乗記 日産の大型SUV「パトロール(旧日本名:サファリ)」が日本市場に復活! ……するかもしれない。テストコースで乗った中東仕様は、これならアラブの王族でもと思わせるほどの上質さにあふれていた。読んで「欲しい」と思った方は、ぜひ声を上げていただければ幸いである。復活への期待
日産にはワクワクする明るい話題が続いている。東京ビッグサイトで行われたフォーミュラE第9戦「Tokyo E-Prix」では、日産のオリバー・ローランド選手が劇的な優勝を飾った。その翌日、日本導入への期待が高まっている新型パトロールに乗れた。サファリと言ったほうが分かりやすいだろう。1951年に誕生して国内外で高い評価を得てきたオフロード車で、日本では1980年からサファリの名で販売されるようになった。市場動向の変化もあって2007年で国内の販売は終了していたが、海外ではパトロールとして進化を続けていたのだ。
2024年秋にアラブ首長国連邦のアブダビで発表されたのが7代目モデル。パトロールの主要なマーケットは中東で、富裕層に人気なのだという。試乗したのは中東で販売されているモデルで、左ハンドルである。生産しているのは日産車体の九州工場で、今後はオーストラリアでも販売する予定だ。右ハンドルモデルがつくられることになるのだから、日本でも買えるようになってほしいと願うのは当然である。決定してはいないが、日産では「前向きに検討している」そうだ。
ただ、一度は日本で販売終了を決断せざるを得ない状況に追い込まれていたのだ。当時は「トヨタ・ハリアー」のようなクロスオーバーSUVの人気が高まっていて、本格的なオフローダーの需要は低下していた。日産でも2000年に「エクストレイル」を発売し、2002年に北米でデビューした「ムラーノ」を2004年に日本に導入した。「日産リバイバルプラン」で不採算モデルを整理していた時期でもあり、サファリはリストラの対象になってしまった。
SUVがクルマの主流となった現在でも、売れ筋はスタイリッシュなフォルムを持つ都会派クロスオーバーである。手ごろなサイズのクーペSUVが支持を集めている。FFモデルも多く、悪路走破性は購入動機になりにくい。本格オフローダーはやはりニッチなジャンルなのだが、「スズキ・ジムニー」や「トヨタ・ランドクルーザー」はカルト的な人気を誇る。パトロールにもチャンスはあるはずだ。先日発表された経営再建計画「Re:Nissan」の起爆剤となってほしい。
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外はシンプル、中は装飾的
対面すると、貫禄と威厳に圧倒される。威容、と表現すればいいのだろうか。よく比較されるランクルよりもひと回り大きいサイズで、「レンジローバー」や「キャデラック・エスカレード」に近い。正面から見ると壁がそそり立っているようで、ボンネットは現実離れした高さにある。脚立を用意しなければ、エンジンルームの写真を撮れない。暴力的な威圧感が生まれてもおかしくないのだが、粗野な印象がないのは水平基調のシンプルなラインで構成された抑制的なデザインのおかげだろう。
意外にも乗り込みに苦労はいらない。足を置きやすいステップを利用すれば不自然な姿勢を強いられることなく運転席にたどり着けた。着座すると、このクルマの巨大さを実感することになる。センターコンソールの幅が恐ろしく広く、助手席が遠い。収納ボックスはおおらかなつくりで何でも雑に入れられそうだ。オプションなのだろうが、コンソールボックスは冷蔵庫になっていた。
エクステリアのシンプルさとは異なり、内装は装飾性が高い。シートに刻まれた大胆な幾何学模様は滑り止め機能もあるのだろうが、いかにも過剰な意匠だ。もしかすると、中東の富裕層に寄せたセンスなのかもしれない。座っていれば模様は見えないわけで、広いグラスエリアがもたらすルーミーな眺めを楽しめばいい。前方も側方も視界が開けていて気分は上々。スペースの余裕がもたらす新鮮な感覚だが、クルマのまわりを見渡すのはひと苦労だ。
後席では運転の心配をせずに見晴らしのよさを堪能できる。巨大なサンルーフが最高の開放感を演出していて、広々とした空間でくつろげるのだ。さらに後方には3列目シートがあり、エマージェンシーではないしっかりとしたシートが備えられている。SUVの3列目シートとしては、十分に実用性が確保されているようだ。巨大サイズの分かりやすい恩恵である。
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ワイルドbutおもてなし
追浜工場に隣接するグランドライブは、公道を模したテストコース。限界性能を試すのではなく、実際の道路状況での走りを検証できる。走りだしてすぐに気づいたのは、乗り心地のよさだった。巨大で超重量級の本格オフローダーとは信じがたい。滑らかで上屋がゆさゆさと揺さぶられる感覚は皆無。ワイルドで硬派な資質を持ちながら、オンロードではその姿を見事に隠している。砂漠で豪快な走りを見せるというのが想像できない。
新型パトロールは堅固なラダーフレームに4輪独立サスペンションを組み合わせている。オフロード性能と街なかや高速道路での快適性の両立を狙っていて、エアサスペンションで精密にコントロールする。ワイルドに見せかけながら、実はおもてなし精神を秘めている。最新の電子制御が功を奏しているのだと感心したのだが、降りた後に勘違いであったことが判明した。エアサスが装備されているのは最上級グレードの「LEプラチナム シティー」で、試乗車は「LEチタニウム」だったから通常のコイルスプリングである。飛び道具を使わずとも、上質な乗り心地を実現している。
エンジンは先代の5.6リッターV8から3.5リッターV6ツインターボに変更された。最高出力は425PS、最大トルクは700N・mで、大幅に向上している。「日産GT-R」のノウハウが注ぎ込まれているというのは、ファンにとってはうれしいポイントだろう。まったく異なるタイプのクルマだが、技術は受け継がれているのだ。ヘビー級の巨体でも、アクセルを踏み込めばめくるめく加速が味わえる。ガソリン消費が多そうだが、高速道路なら10km/リッター程度の燃費が見込めるそうだ。
オイル潤滑システムの「スカベンジングポンプ」もGT-R譲り。スポーツ走行時に強い横Gで生じるオイルの偏りに対応する機能だが、パトロールは砂漠走行で斜めになって走ることを想定している。日本ではあまり経験することはなさそうだが、どんな状況でも壊れないことはSUVにとって譲れない資質なのだ。
「砂漠の王」にして「王様のクルマ」
運転するだけでなく、先進のカメラシステムも試した。「インビジブルフードビュー」と「ウルトラワイドビュー」がウリだという。特に目新しい機能ではないとは思ったが、やってみたらイチ押しの理由が分かった。インビジブルフードビューは、クルマの床面が透けているかのように車両の真下をモニターに映し出す。悪路で障害物を確認するのに便利な機能である。かなり前にほかのSUVで試したことがあったのだが、パトロールのシステムは視認性と操作性が格段に向上していた。技術は進化を続けていて、最新の成果が反映されている。街なかでも、狭い場所に駐車するときなどにはありがたい機能だ。
ウルトラワイドビューは死角から現れる車両などを察知できる。肉眼ではまったく見えなくても、モニターにははっきりと映し出された。横長のメーターとインフォテインメントディスプレイの2つが組み合わされているが、両方を使ってワイドな映像を表示させることもできる。どちらの機能も、日本でこのクルマを運転するならば絶対に必要だ。
試乗に先立って行われた技術説明会では、グローバルプロダクトプランニングチーフプロダクトスペシャリストのアントニオ・ロペス氏が商品概要をレクチャーしてくれた。何度も使っていたのが「どこでもドア」という言葉である。走破性が高いからどこへでも行けるという意味なのだろう。プラスしてラグジュアリー性があるとも語っていて、それがパトロールの価値だと考えているようだ。中東では「砂漠の王」と称されることが多く、それに加えて「王様のクルマ」なのだという。王族に代表される富裕層が満足するだけの高級感と上質性を備えている。
パトロールの日本導入を熱望するユーザーは一定数存在するのだと思う。オーナーになるには住環境や道路事情などの条件を満たす必要があるから、爆発的に売れることはないだろう。販売台数の増加や財政状況の改善に直接つながるとは思えないが、パトロールの復活は日産が反転攻勢に出るためのシンボルとして大きな意味を持つことになるのではないか。「アリア」に代わるフラッグシップモデルとしてブランドイメージを担う存在になれば、明るい未来が見えてくるに違いない。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
日産パトロールLEチタニウム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5350×2030×1955mm
ホイールベース:3075mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:425PS(313kW)/5600rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)275/60R20 115H M+S/(後)275/60R20 115H M+S(ヨコハマ・ジオランダーX-CV)
燃費:--km/リッター
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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