ヤマハXSR900 ABS(6MT)
新鋭のネオレトロ 2025.06.08 試乗記 ヤマハがネオクラシックモデル「XSR900」を大幅改良。日本限定カラー「アイボリー」の美しさが話題の2025年モデルだが、乗ってみれば“走り”についても見過ごせない進化を遂げていた。クラシックで先進的な、スポーツヘリテージの実力を試す。細部まで上質
パソコン画面で、フロントカウルとシートカウルを装着した「ヤマハXSR900 ABS」の写真(参照)を目にした途端、ネットを巡っていた手が止まった。
うーむ、カッコいい……。
さっそくヤマハのウェブサイトに飛ぶと、ボディーカラーの「セラミックアイボリー」は、2025年9月30日までの国内限定色。前後のカウルはワイズギアによる純正アクセサリーだという。すぐにお金の計算を始めるところがわれながら貧乏くさいが、車両本体価格は132万円、プラス特別色で3万3000円。カウルが前後で11万6600円(フロントカウル:7万2050円、シートカウル:4万4550円)。合わせて146万9600円になる。ちなみに、2024年に登場したスペシャルにレーシィな「XSR900 GP」は143万円からだから、まあ、妥当な値づけなのだろう。
ヤマハXSR900は、ちょっとやんちゃなスポーツネイキッド「MT-09」をベースに、強固なアルミツインスパーフレームに直列3気筒エンジンをつる構造はそのままに、“ネオレトロ”な外観を与えられたバイク。2016年に初代がリリースされた。2022年にモデルチェンジを果たし、排気量が845ccから888ccに拡大。2025年4月にマイナーチェンジを受けている。
今回の試乗車はカウルレス、というかこちらが本来の姿なのだが、いかにも品よくクラシカルにまとめられた姿が好ましい。スエード調の生地が用いられたブラウンシートが完璧に調和しているのは当然として(!?)、フロントフォークにはカシマコートこと硬質アルマイト被膜が施され、さりげなく上質感をアップしている。バイク乗りでもあるカメラマンは、KYBのフルアジャスタブルリアサスペンションに目をむいていた。全体に“いいモノ感”があって、特に二輪に興味がない人にも「オッ」と思わせるたたずまいがある。
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“マルチ”寄りの3気筒エンジン
サイドスタンドを払ってバイクを起こすと、エンジンをはじめとした重量物が中央下部に集められている恩恵か、車重196kgというスペック値よりずっと軽く感じられる。シート高は815mmで、クッションはほどよい硬さ。今回の改良でハンドル形状を最適化したとのことで、軽く前傾した姿勢で腕を広げると、まったく自然な位置にグリップがくる。「これは長距離ツーリングが楽しいポジションですわ」とひとりごちてうれしくなる。ラバーが貼られたステップが直下よりわずかに後ろ寄りで、停車時に足を下ろす際、邪魔にならないのもありがたい。
目の前のメーターは5インチのフルカラー液晶に格上げされ、スマートフォンとの連携が可能になった。それでいて、アナログ調の回転計表示も備わっていて雰囲気を壊さない。
ヤマハ好きが「CP3」と愛称する3気筒は、888ccの排気量から120PS/1万rpmの最高出力と、93N・m/7000rpmの最大トルクを発生。2気筒の太いトルクと4気筒のスムーズさのいいとこ取りをした、と評されることが多い3気筒エンジンだが、CP3の場合、フィールの面では圧倒的に後者寄り。あえて個性を探すなら「細かくそろった粒子感のあるサウンド」といったところでしょうか。とはいえ、何も知らないまま「マルチ(4気筒)だよ?」と言われたなら、簡単にだまされる自信がある。
XSR900にはもちろんライド・バイ・ワイヤが採用され、トラクション、スライド、リフト、さらにはブレーキまでを電子的に制御して走りを下支えするほか、「YRC(Yamaha Ride Control)」ことライディングモードで「レイン」「ストリート」「スポーツ」、そして2種類の「カスタム」から好みの特性を選択できる。
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「スポーツ」モードで本性があらわに
プリセットされたストリートモードで山道を行くと、印象的なのは足まわりのしなやかさ。ヤマハ自慢の軽量スピンフォージドホイールも効いているのだろう、路面の凹凸によく追従して動くさまに感心する。XSR900は、乗り心地のいいバイクですね。
ひとたびスロットルをひねれば十二分の速さを提供してくれるが、それはいっときのスパイス。2代目XSR900は、MT-09より65mm長い1495mmのホイールベースを持つ。扱いやすいパワーユニットとあわせ、余裕を感じさせながらの大人なライドが“らしい”乗り方だ。なろうことなら、このままロングツーリングに乗り出したい。
新しいXSR900は、外観のみならず、ライドフィールも含めてトータルコーディネートされたヘリテイジモデルだった。……と、早々に頭の中でまとめたところで、試しにYRCを「スポーツ」にしてみると、オオッ! 3気筒ツインカムのレスポンスがかみつかんばかりにシャープになって、パワーの出方も2次曲線的に急激に。これまでの文脈になかったアグレッシブさが顔を出して、にわかオーナーを驚かせる。電子デバイスを満載した21世紀バイクの恐ろしさである。
グイグイとスロットルをひねりながら、「これならレトロの皮をかぶったSB(スーパーバイク)を気取るのもありだな」と気分が高揚する。ぜいたくな足まわりのセッティングにも凝りがいがありそうだ。
(文=青木禎之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=ヤマハ発動機)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2155×790×1160mm
ホイールベース:1495mm
シート高:815mm
重量:196kg
エンジン:888cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:120PS(88kW)/1万rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:20.9km/リッター(WMTCモード)
価格:135万3000円(日本限定カラー)
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◆ヤマハXSR900 GP ABS(6MT)【試乗記】
◆ヤマハXSR900 ABS(6MT)【レビュー】(2022年モデル)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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