エンジンのフィーリングは何で決まるのか?

2025.08.05 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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エンジンの味わいやフィーリングは、主に何によってもたらされるのでしょうか。気筒数など、エンジンの基本的な構造以外に、要因となるものはありますか? つくり手の定義があれば教えてください。

基本は、おっしゃるとおり、エンジンの“形式”によります。どういうシリンダー配列なのか。そして、どういう点火タイミングなのか。後者については等間隔爆発にするとか、270度クランクのように不等間隔にして鼓動感を出すとか、いろいろなやり方があって、それがエンジンのキャラクターを左右します。あとは吸排気系のつくり方。たいていはそれで決まってしまいます。でも、今回聞かれているのは、「さらに、それ以外の機械的な理由で変わってくるものなのか?」ということかと思います。

実は、エンジン内の部品の動きをよく観察すると、シリンダーそのものが揺れるというか、ゆがみつつ動いていて、さまざまな“余分な振動音”が発生しています。

「強度だけを考えるならコレで十分」という設計ができたとしても、ガラガラ、ザラザラというような、あまり快適ではない音が発生してしまうことがある。そのため、通常は、シリンダーに“惰肉(だにく)”と呼ばれる余分な重りを追加することで音や振動を抑えているのです。そしてこれもまた、エンジンフィーリングの大きな決め手になっています。

技術的にみると、まったく余計な重りですから、それがなくてもいいように設計するのがベストなのですが、現実的には必要になっている。惰肉とはそういうものです。

もっとも、何を「不快な音」とするかについては、その根底に、人種的な違いや国民性、メーカーポリシーの相違もあります。何がよくて、何がダメなのか。特に音については、共通解がないといえます。

例えばドイツ。日本人なら大いに気になる“異音”についても、彼らは「別に問題のある音だとは思わない」という反応をすることがあります。私がBMWと共同で車両開発に取り組んでいた時もそうでした。「まるで故障しているかのように聞こえるので、この音はどうしても消してほしい」と主張しても、「どこがダメなんだ? 音を消すために100gの惰肉を付けろと言っているオマエの意見はさっぱりわからん」「重量増と材料の無駄遣いになるエンジン音調整は必要ない」などと言われるばかりで……。

路面からのノイズや振動のことであれば、まだ話し合いで対策をまとめる余地があるのですが、とりわけエンジンのフィーリングにかかわる部分は、話が平行線のままでした。まぁ、そういう意味では、「(異音に敏感な)日本のメーカーがつくるエンジンは個性がない」と言われることもあるわけですが。

しかし今では、騒音規制が劇的に厳しくなってしまい、前述のような議論すらできなくなっています。なにせ、エンジンから車外に出る音をほとんどなくさないと規制に通らないのです。

惰肉で重量が増えようが増えまいが、対策はするしかなく、もはやフィーリングがどうこうという話をできる時代ではなくなりました。とにかくエンジンから外部に出る音は消し、ドライバーに聞かせる音については、必要とあらば人工的な電子音で対応しているという今の状況は、多くの方がご存じのとおりです。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。