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「レザーフリー」「ヴィーガンレザー」は本当に正義か? 車両内装材の持続可能性を考察する

2025.08.21 デイリーコラム 佐野 弘宗
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「レザーフリー」のトレンドに賛否両論

最近、「レザーフリー」「アニマルフリー」という言葉が使われるようになった。読んで字のごとく、牛を筆頭に馬、羊、豚、やぎ、鹿などの動物(アニマル)由来のレザー=本革を使わないという活動である。また、この場合のレザーには、ワニ、トカゲ、ヘビ、オーストリッチなどのハ虫類や鳥類由来のもの(通称、エキゾチックレザー)を含むのも一般的だ。

内装用の高級素材としてアニマルレザーを重用してきたクルマ業界だが、近年はレザーフリーを掲げるブランドが出てきている。

たとえば、ボルボは自社の電気自動車にレザーを使わないと宣言している。同社はつい最近まで2030年までの完全電気自動車化をうたっていたので、それは必然的に完全レザーフリーを目指すという意味でもあった。テスラも、2019年の「モデル3」で初めて本革を排除して、全車レザーフリーとなっている。

メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ=いわゆるジャーマンスリーも、本革の完全排除にはいたっていないが、メルセデスは以前から非本革の内装素材の開発に熱心だし、BMWは2021年にMINIブランドでは今後本革を使わないと発表。さらに、BMWやアウディの一部車種には本革を使わない「ヴィーガンインテリア」や「レザーフリーパッケージ」を用意する。

また、ルノーは動物愛護団体「PETA」のフランス支部との協議を経て、この2025年内に全車種で動物由来の本革の使用廃止を決定。そして、われらがトヨタのレクサスも本革使用を減らしていくことを公表しており、電気自動車の「RZ」は全車を合皮ステアリングホイールとウルトラスエードシートとして本革は使用せず、「RX」にも使用していない。

いっぽうで、レザーフリーには賛否両論あって、自動車メーカーすべてがレザーフリーに走っているわけでもない。先述のジャーマンスリーやトヨタも、少なくとも現時点では、全社的にレザーフリーにまい進するわけでもない。はたして何が正しいのか。

……というわけで、日産のモータースポーツ活動やカスタマイズカー事業を手がける日産モータースポーツ&カスタマイズが、われわれメディア関係者も含めて、最近話題のレザー問題についての勉強会を開催してくれた。講師役をつとめたのは、レザーのプロフェッショナルである川北芳弘さん。川北さんは、一般社団法人・日本皮革産業連合会が展開する「Thinking Leather Action」の座長でもある。

「レザーフリー」「アニマルフリー」という言葉が使われるようになって久しい。今や内装用の高級素材としてアニマルレザーを重用してきたクルマ業界でも、その言葉は一般的だ。ここではクルマに関連するレザーフリーについて考えてみた。写真は2019年にレザーフリーをうたい登場した「テスラ・モデル3」のインテリア。
「レザーフリー」「アニマルフリー」という言葉が使われるようになって久しい。今や内装用の高級素材としてアニマルレザーを重用してきたクルマ業界でも、その言葉は一般的だ。ここではクルマに関連するレザーフリーについて考えてみた。写真は2019年にレザーフリーをうたい登場した「テスラ・モデル3」のインテリア。拡大
今回の勉強会で講師役をつとめてくれた川北芳弘さん。東京、愛知、兵庫に拠点を持ち、バッグ、靴、アパレル、インテリアの材料となる革を取り扱う川善商店(Kawazen Leather)の代表取締役である。一般社団法人本皮革産業連合会の「Thinking Leather Action」座長のほか、日本革類卸売事業協同組合理事、レザーソムリエ講師、一般社団法人インテリアクリエイターズ協会理事、一般社団法人日本皮革製品メンテナンス協会執行役員、名古屋バッグ協同組合副理事……など多くの肩書を持つ。
今回の勉強会で講師役をつとめてくれた川北芳弘さん。東京、愛知、兵庫に拠点を持ち、バッグ、靴、アパレル、インテリアの材料となる革を取り扱う川善商店(Kawazen Leather)の代表取締役である。一般社団法人本皮革産業連合会の「Thinking Leather Action」座長のほか、日本革類卸売事業協同組合理事、レザーソムリエ講師、一般社団法人インテリアクリエイターズ協会理事、一般社団法人日本皮革製品メンテナンス協会執行役員、名古屋バッグ協同組合副理事……など多くの肩書を持つ。拡大
ボルボは2021年に、動物福祉のための倫理的な立場から「すべての電気自動車に本革を使用しない」と発表した。2023年11月に発売された「EX30」もレザーフリーをセリングポイントに掲げている。
ボルボは2021年に、動物福祉のための倫理的な立場から「すべての電気自動車に本革を使用しない」と発表した。2023年11月に発売された「EX30」もレザーフリーをセリングポイントに掲げている。拡大
リサイクル素材を使用したパターン入りの3Dニットと、パインオイルを原料に取り入れた滑らかなタッチが特徴の「ノルディコ」を組み合わせて仕立てられた「EX30」のシート。このシート表皮をはじめ、EX30では内装材の多くにリサイクル材やバイオ素材が用いられている。
リサイクル素材を使用したパターン入りの3Dニットと、パインオイルを原料に取り入れた滑らかなタッチが特徴の「ノルディコ」を組み合わせて仕立てられた「EX30」のシート。このシート表皮をはじめ、EX30では内装材の多くにリサイクル材やバイオ素材が用いられている。拡大
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革製品を増やせばCO2の排出量が減る?

川北さんによると、レザーフリー活動の根拠は、大きく3つあるという。

もっともよくいわれるのは「レザー製品のために動物を殺している」という動物愛護の観点での指摘だ。たしかに、クルマではあまり使われないエキゾチックレザーを含めて、レザーの原料は間違いなく生き物である。

ただ、川北さんは「レザーフリーの議論は、ハイブランドの毛皮廃止と混同されている」と語る。実際、毛皮用の動物は一部を除いて、毛皮のためだけに捕獲・養殖されている。しかし、皮革全体の1%にも満たないエキゾチックレザーも含めて、いわゆるレザーの原料の大半は“食肉の副産物”だという。川北さんによれば、少なくとも、牛、豚、馬などの哺乳類由来の本革は、100%が食肉の副産物だそうだ。

もっともポピュラーな牛革については、世界で消費される食肉牛の年間3.2億頭のうち、革となっているのは約55%だそうだ(どちらも2021年の場合)。「革製品は、食肉用に加工する際に動物から出る皮を活用して製造しています。お肉を食べ続けるかぎり、いただいた命に感謝して、命の一部を無駄なく大切に利用して、皮革・革製品をつくることが私たち皮革業界の使命だと考えています」と川北さん。

レザーフリー推進派の根拠となっているもうひとつは「レザー生産はCO2を排出する」である。ある調査では畜産関連のサプライチェーンが排出するCO2は、世界の温室効果ガスの15%前後に相当するという。とくに牛などの反すう動物が出すゲップやオナラには、CO2の28倍の温室効果があるとされるメタンが含まれており、「温室効果ガス削減のために、牛の畜産をやめるべき」と訴える人たちもいる。

川北さんは「畜産の最大の目的はあくまで食用であり、革製品をつくらなくても家畜の飼育頭数に影響はない」と主張する。それどころか、世界で飼育される牛のうち、最終的に革として利用されるのは前記のとおり約55%。牛皮は食用に向かないので、残り45%は基本的に廃棄されているのが現実だ。廃棄処分にもエネルギーは使うし、牛皮は水分含有量が多いので、焼却する場合には通常のゴミより多くのエネルギーを消費する。ということは、「食肉の生産量が変わらないのであれば、革製品を増やしたほうがCO2排出も減少する!?」という計算も成り立つわけだ。

「MINIカントリーマン」と「MINIクーパー」のフル電動バージョンに次ぐMINIブランドの量産型電気自動車として2024年6月に上陸した「MINIエースマン」。車内からクロームパーツやレザーを排除し、それらの代わりにリサイクルポリエステルやリサイクルアルミニウムを使用している。
「MINIカントリーマン」と「MINIクーパー」のフル電動バージョンに次ぐMINIブランドの量産型電気自動車として2024年6月に上陸した「MINIエースマン」。車内からクロームパーツやレザーを排除し、それらの代わりにリサイクルポリエステルやリサイクルアルミニウムを使用している。拡大
100%リサイクル可能な合皮「べスキン」が使用された「MINIエースマン」のシート。「見た目と触り心地が本物のレザーに匹敵する表皮」と紹介される。本革特有のにおいがなく、経年劣化によるひび割れも少ないのが特徴だ。インストゥルメントパネルには、リサイクルポリエステルで編んだニットが用いられている。
100%リサイクル可能な合皮「べスキン」が使用された「MINIエースマン」のシート。「見た目と触り心地が本物のレザーに匹敵する表皮」と紹介される。本革特有のにおいがなく、経年劣化によるひび割れも少ないのが特徴だ。インストゥルメントパネルには、リサイクルポリエステルで編んだニットが用いられている。拡大
レクサスもブランド全体で本革の使用を減らしていくことを公表。2023年3月に発売された電気自動車の「RZ」は、全モデルに合皮のステアリングホイールとウルトラスエードのシートを採用し、レザーフリーを実現している。
レクサスもブランド全体で本革の使用を減らしていくことを公表。2023年3月に発売された電気自動車の「RZ」は、全モデルに合皮のステアリングホイールとウルトラスエードのシートを採用し、レザーフリーを実現している。拡大
ウルトラスエードが用いられた「レクサスRZ」のキャビン。ウルトラスエードは植物由来の原料でつくられた東レの人工皮革で、手触りのよさや質感、高い耐久性などを特徴としている。
ウルトラスエードが用いられた「レクサスRZ」のキャビン。ウルトラスエードは植物由来の原料でつくられた東レの人工皮革で、手触りのよさや質感、高い耐久性などを特徴としている。拡大

レザーにまつわる誤解

レザーフリーの大きな根拠となっている3つの最後はクロムに対する誤解だと川北さんはいう。動物の“皮”を“革”に加工するもっとも重要な工程が“なめし”である。なめしにはいくつかの方法があるが、現在は塩基性硫酸クロムという化学薬品を使った“クロムなめし”が一般的である。

クロムと聞いて、土壌汚染や公害を想起する人も少なくないと思う。なるほど、かつてクロームメッキや塗料、染料などの原料として広く使われていた六価クロムは強い毒性を持つ。日本では、1973年に東京・江東区にあった日本化学工業跡地から六価クロムが検出されて、周辺の子供や当時の従業員の健康被害が明るみに出た事件が有名である。

ただ、革のなめしに使われているのは三価クロム。自然界にも存在する三価クロムに毒性はないとされている。

「石油や植物でつくった素材を否定するつもりはありませんが、レザーにまつわる誤解だけは、これからも解いていきたい」と川北さんは語る。

近年、ヴィーガンレザーと呼ばれている素材には大きく2種類ある。ひとつが昔からある不織布や合成樹脂などを使った合成皮革=早い話がプラスチックだ。もうひとつが、別名バイオレザーとも呼ばれる植物由来のもので、サボテンやコーン、キノコの菌糸体のほか、ジュース製造で出るリンゴのしぼりかすや芯、廃棄コーヒー豆、廃棄木材などなど、技術の進歩もあってベースとなる素材は多岐にわたる。ヴィーガンレザーにはリサイクル素材をベースとしたものも少なくないから、レザーフリーに加えてリサイクルという観点でも、イメージを大切にする自動車メーカーに好まれている。

冒頭のボルボ、ジャーマンスリー、トヨタなどの態度を見ても、大半の自動車メーカーはこうしたレザーフリーの現実をしっかり把握しており、全面的にレザーフリーに突き進んでいるわけではない。また、ルノーも動物愛護団体との協議からレザーフリーを決定したことからも、そこには複雑な政治的判断があったようにもみえる。

ところで、日本産業規格(JIS)では2024年3月から“レザー”と呼ぶ製品を動物由来のものに限定した。つまり、石油由来や植物由来の素材に“○○レザー”や“△△革”といった商品名をつけられなくなる。あくまでJISなので法的強制力はないが、これはISO(国際標準化機構)の方針にも準拠したもので、日本皮革産業連合会が長らく望んでいたことでもあった。

(文=佐野弘宗/写真=佐野弘宗、テスラ、ボルボ・カー・ジャパン、BMWジャパン、トヨタ自動車、メルセデス・ベンツ日本、ベントレーモーターズ/編集=櫻井健一/取材協力=日産モータースポーツ&カスタマイズ)

今回の勉強会を開催してくれた日産モータースポーツ&カスタマイズでは、日産が海外展開する上級ブランド名を冠した「インフィニティソフトレザー」(写真左)の、さらに上級となる「エクスクルーシブレザー(仮称)」(同右)を開発中という。少しだけ触らせていただいたが、指に吸いつくような柔らかな感触が印象的だった。もちろん、どちらも牛の本革である。
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シートのメイン部分に抗菌仕様の本革を用いた「日産エクストレイルAUTECH」のフロントシート。ブルーステッチと専用デザインのキルティング、「AUTECH」の刺しゅうで高級感が演出されている。
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2025年6月に登場した「メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア」。装備の見直しと、従来モデルのナッパレザーシートを人工皮革の「レザーARTICOシート」に変更するなどし、価格を「GLE450d 4MATICスポーツ」の1526万円に対して1379万円に抑えている。
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「GLE450d 4MATICスポーツ コア」のシート。表皮には「レザーARTICO」が採用される。内装色は「ブラック」「バヒアブラウン/ブラック」「マキアートベージュ/ブラック」の3種類から選択できる。(日本仕様は右ハンドル)
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「ベントレー・フライングスパー」の快適性を高めた上級グレードとして登場した「アズール」。
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「フライングスパー アズール」の後席。「3Dハーモニーダイヤモンドキルティング」を施したレザーシートや、アズール専用刺しゅう、「クラウンカット・ウォールナット」のオープンポアウッドトリムなどを用いて細部にまで上質さを追求している。
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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