第162回:【Movie】大矢アキオ、思い出のイタリア車と再会! 「アウトビアンキY10」25周年ミーティング
2010.10.02 マッキナ あらモーダ!第162回:【Movie】大矢アキオ、思い出のイタリア車と再会! 「アウトビアンキY10」25周年ミーティング
拡大 |
拡大 |
気がつけば四半世紀
ボクが人生で初めて運転したイタリア車は、アウトビアンキの「Y10」(イタリア語でイプシロン・ディエチ)だった。
1980年代半ば、大学生時代のことだ。当時ボクが住んでいた東京近郊で、輸入車ディーラーといえばヤナセしかなかった。そこに突然ジャクス・カーセールス(JAX)の営業所が開店したのである。覚えている方も多いと思うが、ジャクス・カーセールスとは、当時ルノー、アルピーヌ、フィアット、アウトビアンキなどを扱っていた輸入車ディーラーである。
店に駆けつけたボクは、そこで輸入されたばかりのY10を試乗してみることにした。
まず、薄いドアと唐突につながるクラッチに面食らった。しかし、元気なサウンドを発し、回せば回すほど楽しいエンジンというものを、たとえ短いコースでも初めて体験した。
同時に、安くても人を甘く包むようなそのシートに酔いしれた。帰りに、自分の「アウディ80」を運転したら、「これはトラックか?」と悲しくなったものだ。
思えば、いまイタリアに暮らしているのも、あのY10が与えてくれた新鮮な体験につながっているのかもしれない。そんなボクである。Y10の25周年ミーティングのお誘いを受け、さっそく「出席」の返事をした。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
あの魅力は永遠に
おさらいしておくとY10は、当時フィアット傘下だったアウトビアンキが1985年に「A112」の後継車として市場に送り出したシティカーである。1992年のマイナーチェンジを経て「ランチア・イプシロン」が登場する1995年までカタログに載りつづけた。1957年の「ビアンキーナ」以来続いたアウトビアンキブランドにとっては、最後のモデルであった。
ちょっと前まで、イタリアでそこいらを無数にウロウロしていたこともあって「もう四半世紀か」と、ボクは時の早さにため息をついてしまった。
今回イベントを主催したのは、今も商標を保有しているフィアット社公認の愛好会「レジストロ・アウトビアンキ(アウトビアンキ保存会)」である。2010年7月25日朝、イタリア北部フィオレンツォーラ・ダルダの集合場所に赴くと、やってきた60数台のY10がたちまち駐車場を埋めた。
見ると、当時エンスージアストたちの話題を呼んださまざまなバージョンが並ぶ。
幼い娘とともにピサから来場したジョヴァンニさんという男性は、「僕にとって、2台目の『ターボ・マルティーニ』だよ」と胸を張った。
ミラノ在住という熟年カップルはゴージャス仕様「igloo」を1994年に新車で購入したという。当時イタリアでコンパクトカーとしては珍しいエアコン付きが選択の理由だったと振り返る。
南部ナポリから、20年来のY10ユーザーだという家族も来ていた。
いっぽう30歳のカティアさんは、走行距離がたった4万7000kmの、1992年ポルトローナフラウ社製本皮シート「Ego」バージョンに引かれ、最近購入したという。オーストリアのシュタイア社との共同開発で誕生した4WD仕様も、トリノから女性がドライブしてきた。チューニング系も2台が確認できた。
彼らの多くは、従来のイタリア製コンパクトカーになかった上質な造りを、手頃な価格で実現したY10の功績を高く評価している。
面白いのは、ツーリングの途中に組まれた古代ローマ遺跡見学タイムでも、ランチの前後でも、こっそり抜け出して、近くの峠で友達と走りを満喫してくる参加者が多数みられたことだ。
このあたり、デザイン&インテリアに感激+走って爽快(そうかい)という、ボクが昔、とりこになったこのクルマの魅力が今も健在であることを無言のうちに物語っている。
|
今回のイベントでは、「各自、自分のY10が最高であることに疑いなし」ということでベストオブショーは設けられなかったかわりに、イタリア半島の最先端から880kmかけてやってきた参加車に遠来賞が手渡された。
人々に愛されたクルマを象徴する、主催者の粋な計らいに、拍手をしながら思わず「いよっ、ニクいよッ!」と日本語で声をかけてしまったボクであった。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
【Movie】「アウトビアンキY10」25周年ミーティング(前編)
【Movie】「アウトビアンキY10」25周年ミーティング(後編)
(撮影・編集=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影 2025.11.27 「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
-
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現 2025.11.20 イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。
-
第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦 2025.11.13 アルファ・ロメオとマセラティが、オーダーメイドサービスやヘリテージ事業などで協業すると発表! 説明会で語られた新プロジェクトの狙いとは? 歴史ある2ブランドが意図する“イタリアらしさの復興”を、イタリア在住の大矢アキオが解説する。
-
第935回:晴れ舞台の片隅で……古典車ショー「アウトモト・デポカ」で見た絶版車愛 2025.11.6 イタリア屈指のヒストリックカーショー「アウトモト・デポカ」を、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが取材! イタリアの自動車史、モータースポーツ史を飾る出展車両の数々と、カークラブの運営を支えるメンバーの熱い情熱に触れた。
-
第934回:憲兵パトカー・コレクターの熱き思い 2025.10.30 他の警察組織とともにイタリアの治安を守るカラビニエリ(憲兵)。彼らの活動を支えているのがパトロールカーだ。イタリア在住の大矢アキオが、式典を彩る歴代のパトカーを通し、かの地における警察車両の歴史と、それを保管するコレクターの思いに触れた。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
