第968回:初代「ルノー・トゥインゴ」は「フィアット500」と同じ旋風を起こせるか?
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モデルとしては4代目となる新型「ルノー・トゥインゴE-Techエレクトリック(本欄第958回参照。以下、新トゥインゴと記す)」が欧州で発売されてから、2026年6月ではや3カ月となる。メーカーから登録台数に関するデータの発表は現段階までにない。いっぽうで、筆者が住むイタリアにおける2026年5月の新車登録台数は293台だ。バッテリー電気自動車(BEV)では4位の「BYDドルフィン サーフ」、5位の「シトロエンë-C3」に次ぐ6位である(データ出典:UNRAE)。販売店向けデモカーの登録は4月に終わっていると思われるので、当月はほぼ一般ユーザーの購入による数字とみていいだろう。ちなみに、本稿執筆時点まで筆者自身は、まだ路上を走る新トゥインゴを目撃していない。
この新トゥインゴのエクステリアデザインは、メーカーが公表しているように、そのモノボリューム形状をはじめとして各部を1993年の初代に範を取ったものである。今回はその初代のお話を少々。
初代トゥインゴには、生産終了後19年が経過した2026年時点でもイタリアでたびたび遭遇する。
本欄第912回に登場したナターレ&ピーノ兄弟の修理工場にも、1台、初代がたたずんでいることに筆者は気づいていた。ずいぶん長くあるので、どうやら客の持ち込みではないとみた。ある日ピーノさんに尋ねると案の定、彼の足グルマだった。
ピーノさんの初代は2000年登録である。「オドメーターは、もう11万kmいってるよ」。ただし最初から彼が選んだわけではなかった。「8年くらい前のことだったかな。常連さんが、『後ろをぶつけちゃった』と言って、このトゥインゴでやってきたんだ。板金屋さんの見積もりは1500ユーロ(筆者注:約29万円)。彼は修理しないで手放すと言うので、私が引き取ったんだよ」。ぶつけたときの痕跡として、確かにラゲッジルームがやや歪んでいる。だが走行に支障はない。メカの部分は今日のクルマと比較して単純である。ましてやピーノさんと彼の弟はメカニックだ。まったくもって捨てる必要がないクルマだったのである。
低燃費であることもうれしいという。「満タンにすれば700kmくらいは平気で走るからね」。そしてこう付け加えた。「今どきの新車は高すぎる。コンパクトカーでも2万ユーロ(約368万円)台だ。とてもじゃないが買う気にはなれない」。参考までに、イタリアで「フォルクスワーゲン(VW)ポロ」は標準モデルでも2万2250ユーロ(約410万円)である。VWのエントリーモデルという過去の印象から実際の価格は大きくかけ離れている。
ピーノさんのように足としてクルマに乗る人にとって、初代トゥインゴはパーツの選択肢が広いことも長所だ。メーカー純正だけでなく、汎用(サードパーティー)品や解体工場によるリサイクル品が安価かつ豊富に流通している。例として売買サイト「eBay」には、ピーノさんと同年代の純正フロントバンパーの中古品が100ユーロ(約1万8000円)以下で出品されているのが確認できる。1993年から2007年までに242万台以上が生産されたことによるメリットといっていい。
もはや高級車に?
運転席を見せてもらう。26年の時を感じさせるヤレは仕方ない。しかし、今日のクルマでは得られない開放感やポップな細部の意匠は、デザイナーの心意気を今に伝える。
ところで「フィアット500」(312型、2007年発売)は、デザインの着想源となった“ヌオーヴァ500”こと2代目が再評価されるという現象を生み、ひいてはその取引価格が上昇するきっかけとなった。トゥインゴにも同様の傾向がみられるのだろうか。
ヨーロッパで著名な中古車検索サイト「オートスカウト24」を検索してみると、本稿を執筆している2026年6月末現在で、欧州には約200台が出品されていた。最安はドイツからの個人出品による1999年式・走行17万9000kmの150ユーロ(約2万8000円)だ。
いっぽうで、同じ1999年式にもかかわらず走行わずか6800kmの個体が“タイムカプセル”というキャッチを伴って、1万2500ユーロ(約230万円)で売りに出されている。マドリードの高級ヤングタイマー専門ショップによるもので、これはフィアット500とヌオーヴァ500に似た現象が起きる兆候とも解釈できる。ただし、そうしたフィーバーが起きると、ピーノさんのように純粋に足として評価している初代トゥインゴの愛好者が入手しづらくなるだろうから簡単には喜べない。
フィアット500で起きた現象をもうひとつ記せば、312型の発売からまもなく、イタリア各地の観光都市にある土産物店やブティックには――フィアットの意匠権に抵触しないよう、巧みに工夫した――ヌオーヴァ500風の置き物や衣類があふれかえった。
「1990年代」が憧憬の念をもって語られる昨今、個人的にはフランスでも初代トゥインゴ風グッズがそろそろ登場してよいのではと思う。だがパリの土産物店をのぞくと、いまだシトロエンの「2CV」や「DS」を写した絵はがきやオブジェが幅を利かせているから、実現にはもう少し時間を要しそうだ。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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