シトロエンC3(FF/4AT)【試乗記】
2010年上半期のベスト、だけど…… 2010.07.12 試乗記 シトロエンC3(FF/4AT)……209万円
フランス車をアシにする、サトータケシが新型「C3」に試乗。その走り、乗り心地の良さに感心しながらも、やっぱり万人向けじゃないかもと感じたりもして……。
メッシとのポジション争い
5月から日本に導入された新しいコンパクトカー「シトロエンC3」で帰宅して、すぐに入れ替わりでわが愛車「ルノー・メガーヌ1.6」(前期型)を引っ張り出す。お尻に「C3」のシートの感触や乗り心地が残っているうちに比べてみたかったのだ。比べてみて、「あぁ、やっぱり」と思う。C3のほうが明らかに乗り心地がいい。そのシートとカッコにほれて購入に至った「メガーヌ」であるけれど、シートの掛け心地もC3が上だ。C3のシートは、サイズこそメガーヌのものより小ぶりだけれど、背中、腰、お尻、そして太ももにかけてをふんわり包むようにサポートする。
シトロエンC3が5月に発表された時に、「なんてタイミングの悪い、なんてかわいそうな」と思ったことを告白せねばならない。直接のライバルである「フォルクスワーゲン・ポロ TSI コンフォートライン」があまりに強力なスペックを備えているからだ。「ポロ」は、ダウンサイジングという最新トレンドにのっとった1.2リッターのTSIエンジンに7段DSGを組み合わせ、20km/リッターという10・15モード燃費を達成。一方、1.6リッターエンジン搭載のC3のトランスミッションは古色蒼然(そうぜん)とした4段ATで、10・15モード燃費は12.3km/リッター。完全にスペック負けしている。
値段を比べるとC3のベーシック仕様が209万円で「ポロ TSI コンフォートライン」が213万円。一見、価格勝負だったらC3有利にも思える。ところがどっこい、209万円のC3にはESP(横滑り防止装置)が付いていないのだ。対するポロ TSI コンフォートラインの213万円は、ESPを含んだ価格。
メーカーによって、ESPではなくVSCとかESCとかいろいろ呼び方があって紛らわしいけれど、個人的にこの安全装置が付かないクルマを買う気にはなれない。そこでC3にESPを装着しようとすると、上級グレードの「C3 エクスクルーシブ」を選ばないといけない。すると価格は、239万円にポンとハネ上がるのだ。ポロと競うということは、FCバルセロナのメッシとポジション争いをするようなもの。C3に勝ち目はないように思えた。けれども……。
金属なのに、油の味
実際に走り出してみると、4ATのフィーリングが心配したほど時代遅れではないことに気付く。変速はスムーズだし、変速するタイミングに違和感もない。ここで、「イマドキのクルマなんだから、そんなのあたりまえじゃないか」というツッコミが入るのはごもっともです。でも、長年にわたって多くのフランス車に使われてきたこの「AL4」というオートマチックトランスミッションは、ホントにおバカさんだった。アクセルペダルを踏み込むと忘れた頃にキックダウンするなどのかつての悪癖を知る者としては最新仕様のまともな姿にはつい感心してしまう。
4ATの働きに不満を感じなかった理由はもうひとつある。低回転域からモリモリ力を出す1.6リッター直4エンジンのおかげで、変速する機会が減ったのだ。BMWの影響を受けたこのエンジンは、連続可変バルブ機構などのハイテクの力を借りて扱いやすい特性となっている。上まで回しても特にドラマは起こらないけれど、低回転域でのレスポンスのよさや、常用する2000−3000rpm付近のリッチなトルク感など、フツーの道をフツーに走らせるのが楽しいエンジンだ。
パワートレインの出来もまずまずだけれど、このクルマのハイライトはなんといっても乗り心地だ。かっちりしたボディ、ゆるゆると伸び縮みするサスペンション、そして外して家に持って帰りたくなるようなシートが三位一体となって、独特のグルーブ感を生む。
サスペンション形式は特に凝ったものではなく、前がマクファーソンストラット、後がトーションビーム。コンパクトカーの王道だ。もちろん金属バネで、それなのに油圧サスの「ハイドラクティブIIIプラス」搭載の「C5」や「C6」に似たフィーリングがあるのが面白い。
個人的には直球ど真ん中だけど……
ワインディングロードでのC3は、遅くはないけど速くもない。ペターっと深くロールして路面をつかんで放さないから決して遅くはないけれど、エンジンパワーはそこそこなので速く走っているわけでもない。短い区間を駆け抜けてカタルシスを得るというよりも、長距離・長時間のドライブでじわじわとだしがでてくるタイプだ。このあたり、やはりシトロエン一家の兄さんたちに通じるものがある。
ドライバーの頭上にまで延びるフロントウィンドウは、室内からだと見晴らしがよくて開放的、外から見ると“ハゲヅラ”みたいでかわいい。ほかにも、メーター類を覆う部分が光を透かすタイプだったり、メーターの数字のレタリングがしゃれていたり、細かいところまで気が利いている。そうしたしゃれた部分と、後席や荷室の広さなどの合理性が共存しているところがポイント高し。使いたくないけれど、“フランスのエスプリ”という言葉が頭をよぎる。
個人的には、2010年上半期に乗ったクルマのなかでは一番気に入った。フランス車好き、シトロエン愛好家に限らず、クルマ好きなら「VWポロ」のハンコを押す前に試乗してみる価値はあると思う。ただしクルマにそんなに興味がない人にとっては、VWポロとの燃費の差は埋めがたいかもしれない。「プジョー3008」にはフランス車ファン念願の6ATが積まれたけれど、C3にもあと一歩、パワートレインの新機軸がほしい。よくできているし、個人的な好みでは直球ど真ん中であるけれど、いまのところはマニア用物件と言わざるを得ない。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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