ランドローバー・レンジローバーヴォーグ5.0 V8スーパーチャージド(4WD/6AT)【試乗記】
これぞ、老舗の“いいしごと” 2010.01.08 試乗記 ランドローバー・レンジローバーヴォーグ5.0 V8スーパーチャージド(4WD/6AT)……1554.0万円
元祖高級オフローダー「レンジローバー」が、510psの新型エンジンを搭載して生まれ変わった。その走りと乗り心地を報告する。
威厳をたたえるSUV
ランドローバーは今のようにSUVが大衆化するはるか昔、60年も前から、一部の裕福なユーザーにとって便利で実用的な“高性能万能車”を造ってきた。最近になってドイツ車勢がこの市場にも参入してきたが、単に高価格で高性能なだけでは“高級なクルマ”として評価されないのもまた、自動車社会の面白いところである。それは歴史と品性がかもし出す威厳ともいえる領域のことなのであり、彼等が一朝一夕にして手に入れられるものではないだろう。
そのランドローバー社の旗艦である「レンジローバー」が、マイナーチェンジを受けた。ただし、小変更といっても、内容的には大きく進化している。
外観の変更は写真でご覧のように、ランプ類やラジエターグリルなどの違いにとどまるが、大きなところでは、エンジンと変速機が新しくなっている。用意されるエンジンは、ジャガーとの共同開発による5リッターV8で、NAとスーパーチャージャー付きの2種類。それぞれ375psと510psにチューンされた新型ユニットは、もちろん時代を先取りしたもので、燃料の直噴化はもとより各種の可変機構などを備え、燃費と排ガスにも配慮がなされている。
「レンジローバー」ラインとしては、レンジローバースポーツと今回試乗したレンジローバーヴォーグがあり、エンジンとの組み合わせにより、(レンジローバーと名の付くモデルとしては)合計4機種となる。変速機は6段ATのみ。価格はスポーツの754万円からで、試乗車のスーパーチャージャー付きヴォーグでは1554万円に達する。なお、これら価格には「CO2オフセット・プログラム」の費用が含まれており、二酸化炭素の削減プロジェクトに資金が提供されることで、自動的に新車から7万2000km走行分のCO2が相殺されることになっている。
驚きの強心臓
伊豆で行われた試乗会は、あいにくの雨。しかし、新型レンジローバーヴォーグにとっては、何の不都合もありはしない。
まず、エンジンがイイ。NAで375ps、今回試乗したスーパーチャージャー付きは510psもあるのだから、走り出しは実に軽快だ(マイナーチェンジ前は、それぞれ299psと390ps)。スーパーチャージャーからは、昔のようにヒューンというような作動音は聞こえない。
エンジンの違いによる価格差は225万円あるのだが、このクラスの買い物なのだから、躊躇はしない方がいい。どうしても決断できないならば、ヴォーグでなくともスポーツのスーパーチャージャー付きをお勧めする。内装などの高級装備のおかげで2630kgにも達するヴォーグの重量をまったく感じさせない、このスーパーチャージドユニットの加速感は、一度味わってしまったら決して忘れられないものだから。
または、NAを買うなら絶対スーパーチャージャー付きを試さないことだ。NAエンジンにも良い点はもちろんあるが、逆に言えばこのエンジンは過給気エンジンゆえの欠点が見つからないからである。
ちなみに10・15モードの燃費は6.3km/リッター対5.5km/リッターであるが、実際の路上では使い方によってはパワーのある方が好燃費を記録することも多い。もちろんパワーを楽しんでしまえば悪化するが、ファイナルやギア比は同じだから、おとなしく走る場合にはトルクで勝る方がシフトアップは早い段階で行われ、結果として回さないで走れる。だから使い方による自由度は大きい方がいい。
また6段ATになってレンジローバースポーツのステアリングホイールにはシフトパドルが付いたが、ヴォーグの顧客のなかにあれでチャカチャカやるような下品な輩は少ないはずだ。それに、そんなことで手を煩わせなくとも、パワーは右足の踏み方次第でいかようにも引き出せるのだから。
大きいのに繊細
では、少し前に試乗したことのある、ハイパワーで高性能なジャーマンSUV「BMW X5 M」と比べたらどうなのか? 共に1500万円クラスの高価格車である。一般道で試せる範囲の感覚的な加速感は同じくらいだが、実際に計測すれば、200kg軽くパワーで45ps勝る「X5 M」の方が速いだろう。動力性能がウリのドイツ勢からすれば、とりあえずレンジローバーの足元を掬うための突破口は、このあたりにあるという判断は正しいように思える。
では、急追を受けるレンジローバーの優位点は何かといえば、まずスタイリングが挙げられる。初代から基本的に変わらない、直線基調のすっきりしたボクシースタイルは、クラシックななかにもスマートな気品を漂わせる。ほか新参モノのデザインに関していえば、空力的な丸みはまだいいものの、中国市場を過度に意識したと思しき大げさな化粧や肉付けは、やや軽薄で肥満のイメージがつきまとうものだ。
内装はそれこそ英国伝統のレザーとウッドだが、材質を真似て盛り込めばいいというものでもない。しっとりと落ちついた佇まいや座り心地の妙は、コーナーでのホールド性や耐荷重の大きさだけがとりえのものとは違う。
走行感覚の違いはもっと大きい。何といってもレンジローバーはタッチが繊細だ。固いなかにも細くて敏感な芯があり、手や足の触れる部分から路面までちゃんと繋がっている感触がある。新型のメーター類は液晶表示で映し出される針も映像でしかないが、その動きはアクセルペダルやエンジン音に直結しているように感じられるし、針の前後1000rpmぶんだけ数字がより明るく表示されるなど、視認性は良好だ。ステアリングの操舵感はギア比的にはスローだが、タイヤの舵角はモニター表示を見なくても判断できる。
BMWはドイツ車のなかにあってはそうした感触を大事に考えるメーカーながら、昔ほどのダイレクト感はなく、アシスト部分など操作する上で違和感がある。
プラスティックのダイヤル操作にしても、レンジローバーはクリックの節度感や、操作量と操作力の関係であるとか……そうしたスイッチの感触ひとつとっても、しっかりと造られている。部品ひとつひとつがよく吟味されていて、それなりにお金と時間をかけて丁寧に開発されているという印象を受ける。
日本の路上では大き過ぎるボディサイズではあるけれども、高い目線で運転できるというだけでなく、自らの大きさをちゃんと認識して走れるところが、コントロール性の良さを証明している。
この種の高性能SUV車のなかには、「まぁいいや、行ってしまえー」的に強引な運転になりがちなクルマもあるが、レンジローバーはジェントルなドライビングを自ずから意識させるところがある。そんな理性を忘れさせない何かを秘めているのも、ほかにない美点といえる。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)

笹目 二朗
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