フォルクスワーゲンhigh up!(FF/5AT)【試乗記】
脱“ガイシャ”まであと一歩 2012.10.14 試乗記 フォルクスワーゲンhigh up!(FF/5AT)……190万5600円
新型コンパクトカー「フォルクスワーゲンup!(アップ!)」に徳大寺有恒が試乗。何かと話題のニューモデルを、巨匠はどう評価する?
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サイズや価格に興味津々
松本英雄(以下「松」):今日の試乗車はフォルクスワーゲンの「up!(アップ!)」です。
徳大寺有恒(以下「徳」):いいね。どんな走りをするのか楽しみだ。
松:フォルクスワーゲンとしては、「ルポ」以来となるAセグメントの小型車ですからね。
徳:発表会で見たけど、コンパクトだよな。もしかして、ルポより小さいのか?
松:ほぼ同じですが、厳密にいえば全長はルポのほうが1〜2cm短いです。
徳:するとup!はフォルクスワーゲン史上最小モデルではないんだな。
松:歴代最小モデルは初代「ポロ」なんですよ。ルポより長さは1cmほど短いだけですが、幅はだいぶ狭かった。
徳:初代ポロがあったか。日本には入ってこなかったが、たしか「アウディ50」の姉妹車だったよな。しかし、さすがに詳しいね。
松:僕も気になったので、調べてみたんですよ。
徳:それはともかく、現代の欧州製4人乗りのコンパクトカーとしては、up!はミニマムサイズだろう。
松:そうですね。up!の全長は3545mmなんですが、これは「フィアット500」とまったく同じ。メジャーなところでは、この2車が最小です。
徳:日本車と比べると?
松:リッターカーとしては、国産最小の「トヨタ・パッソ/ダイハツ・ブーン」よりup! のほうが10cmほど短いですね。
徳:up!は小さいだけじゃなく、軽いんだろう?
松:ええ。車重は900〜920kgですから。
徳:リッターカーが900kgで軽いと言われても、俺の感覚では正直言ってピンとこないんだが、今はそうなんだよな。
松:軽でも、装備が充実した上級グレードは800kg以上ありますからね。
徳:そしてもうひとつ、安いんだよな。
松:なぜかフォルクスワーゲンでは3ドアを2ドア、5ドアを4ドアと呼んでいますが、基本グレードである「move up!」の2ドアが149万円、4ドアが168万円です。
徳:対して国産リッターカーは?
松:トヨタの「パッソ」で100万円ちょっとから130万円ぐらいですね。
徳:すると差額は40万〜50万円ってとこか?
松:up!はクラス初となる追突回避・軽減ブレーキやESPなどが標準装備ですから、実質的には20万〜30万円じゃないでしょうか。
徳:そりゃバーゲンプライスだな。
松:かつてルポのベーシックモデルにも149万9000円という戦略価格が付けられていたんですが、装備を考えるとup!はお買い得感がありますね。
徳:ルポの値段も調べてきたのかい?
松:いいえ。実は僕、ルポに乗っていたんですよ。購入した数少ない新車だから、はっきり値段を覚えているんです。ちなみに僕が買ったのは「コンフォートパッケージ」で、159万9000円でした。
徳:そうだったのか。で、ルポはどうだった?
松:クルマ自体はフォルクスワーゲンらしくカッチリしていたけれど、マイナートラブルがいくつかありましたね。周囲からは「柄にもなく新車なんか買うからだ」と言われましたが。
徳:そりゃお気の毒だったな。(笑)
ポップな中にも合理性
徳:「小さい」「軽い」「安い」と三拍子そろっているにもかかわらず、外見からはフォルクスワーゲンらしい骨太で堅牢(けんろう)な印象が漂っているのは、さすがだな。
松:ポップな雰囲気を持ちながら、ペラい感じはしないんですよね。
徳:まあ、そこがup!がフォルクスワーゲンの製品たるゆえんなんだろうが。
松:発表会にフォルクスワーゲングループのデザイン責任者であるワルター・デ・シルヴァ氏も来ていたところを見ると、相当な自信作なんでしょう。
徳:タイヤが四隅にバン!と踏ん張ったプロポーションが、力強くていいな。
松:特に3ドア、もとい2ドアが。実用上はともかく、スタイリッシュでいいですね。
徳:その実用上が問題なんだよ。ウチの場合、もっぱら乗るのはひとりかふたりだから、ドアが2枚しかないのはOKなんだ。しかしup!はちょっとドアが長すぎて、狭い駐車場ではやっかいだろう。
松:なるほど。2ドアはリアエンジンだったコンセプトカーのイメージがほとんどそのまま残っていて、好きなんですけど。
徳:たしかにカッコイイよな。なんでもデ・シルヴァ氏は、これを手がけるにあたってスタジオに「アルテミデ」のデスクライトとか「ブリオンヴェガ」のラジオやテレビといったイタリア製のデザインコンシャスな家電や雑貨を並べて、インスピレーションを得ていたそうだが。
松:そう言ってましたね。ちなみにテールゲートはスマートフォンのイメージとか。さて、インテリアを見てみましょうか。
徳:ボディー同色のインパネやドアパネル、半円形のメーターナセルなんかは、「ザ・ビートル」に似た雰囲気だな。
松:「フィアット500」ほどではないけれど、内装もポップな感じですね。
徳:おや、4ドアでもリアサイドウィンドウは降りないんだ。このへんが合理的なヨーロッパの小型車って感じだろう。
松:エアコンが付いてるから、実用上はさほど問題はないでしょう。とはいえ、不満に感じる人たちもいるでしょうね。
徳:実際は開けなくても、なんとなく閉塞(へいそく)感を覚えるというか、損した感じがするのかもしれない。
松:フロントシートの座り心地はなかなかいいですね。サイズは小ぶりだけど、しっかりと体重を支えてくれます。
徳:そうだな。ジャージ風のクロスの感触も悪くないよ。
松:リアシートもまずまずですね。居住スペースは決して余裕はありませんが、僕ぐらいの体格(身長170cm)なら2人が普通に座れます。
徳:ラゲッジスペースはどうだろう? おっと、こりゃずいぶん床が高いぞ。
松:ラゲッジルームのフロアは2段階に調整できるんですよ。床を低くセットすれば、荷室が深くなります。
徳:おお、そうか。そんなにラゲッジルームが狭いわけはないよな。(笑)
松:じゃあ、そろそろ乗ってみましょうか。
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トランスミッションだけは気になる
徳:エンジンは3気筒の1リッターだよな。
松:ええ。ふと思ったんですが、4ストロークの3気筒エンジンって、四輪では1976年に登場した「ダイハツ・シャレード」がパイオニアなんですね。二輪では、その前から「トライアンフ」や「ヤマハ」が作ってたけど。
徳:そうだな。シャレードには当時世界最小の1リッターのディーゼルもあったし、地味ながら力作だったんだよ。
松:up!に話を戻すと、最近の3気筒エンジンのトレンドにしたがってバランサーはないんですが、アイドリングでは驚くほど静かですね。
徳:まったく。エンジンがかかってないのかと思ったよ。
松:走りだしても、とても静かだし、スムーズです。
徳:たしかにこれならバランサーはいらない。技術の進歩ってのはすごいな。トランスミッションはどうだい? 日本仕様の欧州製コンパクトの定番とも言える、2ペダルのシングルクラッチ式5MTを採用したそうだが。
松:フォルクスワーゲンではASGと呼んでいるこの変速機ですが、率直に言って出来はいまいちです。トルコン式ATやCVTに慣れた日本車のユーザーがいきなり乗ったら、おそらく違和感を覚えるでしょう。
徳:変速時のギクシャクした感じは、どうしても残っているからな。
松:発進はまずまずスムーズなんですが、ATモードでシフトアップする際の、一瞬パワーが途切れる感じは、やはり気になりますね。シフトアップする前に少しアクセルを戻すなどしてやれば、違和感は緩和されるんですが。
徳:クルマの都合に合わせて運転しろってか。われわれのようなクルマ好きはそれでもかまわないが、一般ユーザー相手となると、ちょっとなあ。
松:たしかにそうですね。ゴー・ストップの多い都市部でコミューターとして使われる機会が多いであろうコンパクトカーで、キャラクターから言って女性ユーザーも少なくないでしょうから。
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徳:趣味性の高いクルマなら、多少のクセがあってもいいんだよ。でも、輸入車とはいえ、万人向けを狙うフォルクスワーゲンのエントリーモデルだからな。そういう部分を欠点と感じるか、個性と感じるかはユーザー次第だが、後者と考えるユーザーに頼っている限りは、旧来の“ガイシャ”の殻を破れないと思うんだ。
松:ほかの部分の出来がいいだけに、余計気になるんでしょうね。
徳:そうなんだ。こうして走っていても、ボディーのカッチリした感じといい、足まわりやステアリングのスタビリティーといい、乗り心地といい、すばらしいじゃないか。国産コンパクトとは、土台から違う感じだろ?
松:おっしゃるとおりです。走りはいいし、燃費も良好、安全装備も充実していて、価格もリーズナブル。となれば、もうワンステップ上を望みたくなるってもんでしょう。
徳:俺自身は、現状でも気に入っているんだけどな。実は今、女房のクルマを探しているんだよ。
松:ちょうどいいじゃないですか。奥さまはコンパクトカーがお好きだし、長年「ゴルフ」に乗られていたからフォルクスワーゲンには親しみがあるでしょう? 試乗して、気に入ってくれるといいですね。
徳:俺もそう望んでいるよ。(笑)
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田 亨/写真=峰昌宏、webCG)

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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