第164回:見た、乗った、驚いた! フランス・パリの最新EV事情(後編)
2012.11.09 エディターから一言第164回:見た、乗った、驚いた!フランス・パリの最新EV事情(後編)
モータージャーナリストの森口将之がリポートする、フランス・パリのEV事情。後編では、急速に普及が進むEVのカーシェアリングシステムをリポートする。
進む、パリのカーシェアリング
(前編からのつづき)
前回の「ルノー・トゥイジー」に続いて紹介したいのが、パリで展開されているカーシェアリング「オートリブ」と、そこで使われている車両「ボロレ・ブルーカー」である。
当初、僕はオートリブを使えないものと思っていた。少なくともEU圏内に住む人でないと利用できないと決めつけていたのだ。ところが渡仏前、オートリブ取材経験のある自動車新聞社の楠田悦子さんから「日本人でも乗れますよ」と言われたので、彼女の手助けを受けながら挑戦することにした。
オートリブは2011年12月にサービスがスタートした“EVシェアリング”で、名前で想像できる方もいるかもしれないが、シェアサイクル「ヴェリブ」の自動車版である。
他のカーシェアリングと異なるのは、市の主導で導入されたシステムであること、専用設計のモデル「ブルーカー」を採用したこと、借りた場所と異なる場所に返却できる「ワンウェイ(乗り捨て)」方式を取り入れたことだ。
当初250カ所/250台でスタートし、9カ月後の2012年9月には670カ所/1800台にまで増えたという普及の速さも、一般的なカーシェアリングとは違う。おかげで今回パリを訪れた際には、ブルーカーもステーションも、しっかり風景の一部になっていた。
2012年9月に出されたリリースによれば、これまでに50万回以上利用されており、630トンのCO2排出を削減したという。2007年に導入され、5年後の今では年間22万人/3000万回の利用があるというヴェリブに続いて、かの地では早くも定着の兆しを見せているのだ。
だからこそ乗ってみたいという気持ちが強くなって、登録作業を行う半円形の「エスパスオートリブ」の中で、楠田さんに教えられつつ作業を進めたのだが、そこは異国のカーシェアリング。簡単なタッチパネル操作とクレジットカード登録だけで終わるヴェリブとは違って、利用カードの発行までは、けっこう大変だった。
初回登録に四苦八苦
まずはモニター越しの担当者に、氏名や電話番号、メールアドレスなどを口頭で伝える。英数字をひとつずつ伝えるわけで、全部合わせたら100文字以上! しかも、むこうもこちらも母国語ではない英語でのやりとりになると言えば、その苦労を想像いただけるだろう。いま思い返すに、つたない英語にめげずに付き合ってくれた担当者に、お礼を言いたい気持ちでいっぱいだ。
とにかく彼のおかげで最大の関門はクリア。あとはパスポートや免許証をスキャンして、暗証番号を決め、利用料を支払うためのクレジットカードを登録すればOK。程なくピンクの“24時間カード”が発行された。
それからあとの手続きは、先ほどまでの時間が嘘のように簡単だった。
傍らにある端末にパスをかざすと、空いている車両が指定される。もし空車がなければ近所にある他のステーションを教えてくれる。続いて「酒気を帯びていない」「薬物の服用はない」などの質問にチェックを入れると、借り出し許可の表示が出る。
次に車両のそばまで移動し、日本のカーシェアリングと同じようにカードを窓にかざしてロックを解除。充電器にもカードをかざしてフタを開け、車両に差し込んであるソケットを戻し、キャビンに乗り込んでワイヤーでぶら下がっているキーを差し込む。あとは普通のクルマと同じ操作で発進すればいい。
なお、車両本体については、メーカーのボロレが関与しているのは彼らの専門分野であるリチウムメタルポリマー電池とシステム系くらい。デザインは、かの有名なピニンファリーナが担当しており、プロトタイプ製作などで知られる同じイタリアのチェコンプが生産を担当する。
だから乗り味もイタリア風かと思ったら、大違いだった。現行コンパクトカーの中でも1、2を争うほど“フランス風味”だったのだ。
パリが感じられるEV
高めのクッションに座るシートの着座感が優しかったおかげもあるけれど、このしっとりした乗り心地は正真正銘のフランス車だ。おかげで、初モノゆえの緊張感もすぐに薄れた。
加速はまったく不満なし。回生ブレーキの効き具合は、強烈なことで知られる「テスラ・ロードスター」と、物足りない「日産リーフ」の中間で、ちょうどいい。
ノーズに重いエンジンがなくバッテリーを床下に積むので、身のこなしはクイック。低重心ならではの安定性を感じながらのコーナリングは、リーフに似ていた。
ナビの使いやすさも印象的だった。モニター上に空いているステーションが表示されるので、行きたいポイントを選ぶだけでいい。メーターを含めたインターフェイスはフランスらしくセンスの良いつくりで、なんだかパリを感じさせてくれる。
返却は借り出し以上に楽で、クルマから降りて電源ソケットを車体に差し込み、カードを窓にタッチしてロックすればOK。あまりにも簡単なので心配になったけれど、時間をおいて再確認しに行ったら、僕が使った車両はすでに“次の任務”に出掛けていた。ホッとすると同時に、ひたむきな働きっぷりに感心した。
その後2〜3回オートリブを使って感じたのは、これは“自分で運転する公共交通”だということ。乗り捨て可能なので、地下鉄に乗るような感覚で移動に使える。登録料は24時間で10ユーロ(約1000円)、利用料は30分で7ユーロ(約700円)だから地下鉄のほうが安いけれど、大きな荷物を持って移動したり、家族や友人、恋人といっしょに移動する際は助かるはずだ。
もうひとつ、オートリブに乗って、クルマの良さを再発見した。いつもは地下鉄やヴェリブで移動しているパリなので、親しい人間とパーソナルな空間を共有しながら、自分の意志で目的地を目指す楽しさを実感したのだ。おまけに、都市内でのシェアリングという用途にEVは適している。つくづく、パリはクルマの生きる場所をしっかりわきまえている都市だと思った。
(文と写真=森口将之/取材協力=楠田悦子・株式会社自動車新聞社)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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