BMW750i(FR/6AT)【試乗速報(前編)】
主役はだれだ?(前編) 2009.04.21 試乗記 BMW750i(FR/6AT)……1549万5000円
新型BMW7シリーズとはどんなクルマで、どっちを向いて進化したのか? メルセデス・ベンツSクラスやアウディA8といったライバル車と比較しながら、その特徴を浮き彫りにしていく。
原点回帰と効率追求
BMWはレースを観る人のクルマ、メルセデスはレースをやる人のクルマ。ぼくはこの2ブランドをそんなふうに捉えている。レーシングドライバーにはメルセデスのユーザーが多い。一方、自分ではやらないが、レースが大好きという人は、メルセデスよりBMWを好む。メルセデスの魅力は「安心」だ。それに対して、BMWの真価は「刺激」である。
レースの主人公としてさんざん刺激を味わったあと、どちらに乗りたいか。実際、F1ドライバーにメルセデスユーザーが多いことがその答えである。
そんな意味で、新型「7シリーズ」は実にBMWらしいラグジュアリーセダンになったと思う。アヴァンギャルドだった旧型から見ると、原点回帰したといってもいい。通算5代目にあたる新型のテーマは「エフィシェント・ダイナミクス」。機械的効率を高めて、環境性能や燃費性能を上げたということ。そういうことを言うなら、もっと小さいクルマをつくりゃいいじゃん、なんて言ったらおしまいで、大きなクルマだからこそ、こうした性能を追求し、アピールしなくてはならない時代である。
軽さのヒミツは速さ
だが、試乗会の限られた時間で体験した新型「750i」(1200万円)は、もっぱらBMW本来の魅力をみせつけてくれた。とにかくこのクルマ、運転していると、軽い。とても車重2tオーバー、全長5m超の巨漢とは思えない。
4.4リッターのV8ツインターボは407ps。6段ATでフル加速すると、静止から5.2秒で100km/hに達する。ということは、「ポルシェ・ケイマンS」並みの駿足なのだが、そんなときでも、デカイものが地響き立てて突進するような質量感はない。このガタイにして、走りは驚くほど軽いのだ。
そうしたキャラクターを演出する技術のひとつが、標準装備の“インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング”である。「前後輪統合制御ステアリング」と訳されるとおり、前輪と連関して後輪もステアする。ベースの技術はおなじみアクティブ・ステアリングだから、まず操舵がクイックだ。ボディの大きさを感じさせないのは、その“速いステアリング”によるところが大きい。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
メルセデスSクラスと比べると……
60km/h以下だと、後輪は逆位相にきれ、据えぎりでは、前輪と逆向きに角度が最大3度ステアする。おかげで、意外なほど小回りがきく。試乗中も一度、狭い駐車場で切り返しすることなく回れたのでびっくりした。道路に戻り、再びワインディングロードを走り出せば、フットワークはあくまで軽い。
今回、試乗会会場の箱根まで、「メルセデスSクラス」と「アウディA8」を連れて行ったのだが、750iはそのドライブフィールにおいて最もスポーティで若々しかった。新型750iは、新しい7シリーズの皮を着たM5である、と言ったらちょっとほめすぎかもしれないが、けっして大げさではない。
そんな750iと比べると、大人(たいじん)の風格にあふれるのが「メルセデス・ベンツSクラス」である。「S550 4マチック」(1388万円)に載るのは、5.5リッターV8エンジン。387psのパワーは余裕しゃくしゃくだ。足まわりは750iに比べると、かなり柔らかい。750iより腰高な印象も強いから、運転感覚にスポーティさは薄いが、そのかわり、常に大木みたいな安心感を与えてくれるのはさすがだ。激しい入力を与えても、クルマは一拍ディレイして反応する。“ため”がある。この境地がメルセデスである。
後編に続く
(文=下野康史/写真=荒川正幸)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.12.6試乗記マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。
































