アバルト・グランデプント(FF/6MT)【試乗記】
変わらぬサソリの血筋 2009.04.13 試乗記 アバルト・グランデプント(FF/6MT)……275万4390円
「フィアット・グランデプント」にハイチューンを施した、「アバルト・グランデプント」が日本上陸。伝統のサソリマークをいただくホットハッチの走りとは?
大人しくなったようだけど
「アバルト」と聞くと、派手好みのイタリアンのなかでもド派手な出で立ちを想像する。
「可愛いいだけじゃないよ、声も大きいしすばしっこいんだから!」と言ったか言わずか、もともとはちっぽけな「チンクエチェント」をチューンして、やんちゃ坊主ぶりをウリにしていたクルマだ。「それに、危なっかしくて目が放せないから、できるだけ目立ったほうがいい」……というわけではなかろうが、ネガティブキャンバーの太いタイヤに、お尻からはみだした大きなマフラー。フードも半開きにして、常にオーバーヒートの危険性をはらんでいるかのように、そのホットさを強調していた。ナリが小さいゆえに、そのトンガリ具合がなおさらカッコよかったものだ。
それに比べて、“現代のアバルト”は少し大人になった。体格も立派になったし、分別あるクルマという印象である。
それでも、乗ってみれば「オッ」と思わせるものがある。血筋というものは、あらそえないのだ。アバルトはもともと、一種のチューニングカーではあるが、今どきの若者が思い描くような、高級車然としたそれとは違う。大きなエンジンを積み、パワーに物言わせて周囲の非力なクルマをドケドケと蹴散らすようなイメージを抱いて乗るならば、きっと失望するだろう。
楽しめるかは乗り手次第
小型イタリア車の面白さとは、クルマの能力に委ねて乗せてもらうのではなく、あくまでも乗り手が自分で面白さを引き出すことにある。
一方クルマのほうは、その腕に応えられるかどうかが値打ちだ。スーパースポーツのフェラーリとて、この感覚は変わらない。ローギアードでクロースしたギア比の設定と高回転エンジンは、まさにこの楽しみを味わうためにある。排気量まかせの大トルクで転がすだけなら選択肢は他にたくさんある。
このアバルトは“グランデ”という名前のとおり、ちょっと大きく重量も1240kgある。なのに、エンジンは排気量1.4リッターと小さめで、ターボチューンにより155psを発生する。ちなみに、さらにハイパフォーマンスな「アバルト・グランデプント エッセエッセ」は180psまでチューンされているが、これとて400psを超えるクルマがザラにある現代の水準からみれば大した数字ではない。
現代の技術では、電子制御の燃料噴射、バルブタイミングの可変化、ターボ圧の管理などを駆使して、エンジンの性格をどのようにでも調整可能。おかげで、実用車ではありがたい乗りやすさを実現できる。
しかし乗って面白いかどうかは別の話。もちろん、昔のクルマは乗りにくさを克服するところに面白さも見いだせたといって、なにもかも昔のまんまに戻してしまったのでは元も子もない。エンジンがカブッてしまったり、頻繁にエンストするようでは失格だ。そのへんの妙味を巧くつくり出しているのが現代版アバルトなのである。
シフトが醍醐味
エンジンそのものは、「フィアット・パンダ」から「ランチア・デルタ」まで使われている、イタリアの傑作エンジンだ。さまざまなチューンにより、いろいろな性格がつくり出されている。
基本的に低速より中高速トルクに重きをおくのはイタリア気質で、ピークは5500rpm程度に押さえてある。もともとの、フラットトルク型ではない“山場”をちゃんと心得た性格に、ターボでさらに山と谷の部分を強調したのが、このアバルトチューンである。
2000rpm以下では有効なトルクを引き出すことはできない。とはいえ、市街地などの実用速度域でトロトロ回しても、困るほどではない。そのままひとたび3000rpm程度まで上げてしまえば、その先の4000-5000rpmには美味しい部分が待っている。
さらに6000-7000rpmまで引っ張ると速度が出過ぎてしまうから、次のギアに任せる。クロースしたギアレシオは、シフトアップしてもさして回転が落ちないから、有効なトルクバンドは確保される……そうやって元気が欲しければ山場を外さずに、ギアを選んで楽しむ。
この頻繁で素早いギアシフトこそオートマ車では絶対に味わえない快感であり、アバルトをドライブする旨味といえる。絶対的な速度とは関係なく、操作が追いつかないほどの忙しさのなかにスポーツカードライビングの面白さがある。時間効率が求められるレーシングカーではセミオートマが優先されるかもしれないが、それはレースとスポーツとの根本的な違いというものだ。
イタリア人の気持ちがわかる!?
電気式パワーステアリングもやはりパンダをはじめとする、他イタリア車と共用されるもので、操舵力はいたって軽い。据切りや微低速ではことさら軽く感じられる。普通の油圧パワーステアリングは低速と高速の操舵力に差が少ないものだが、アバルトの場合は、早めに電気アシストを断って、マニュアル領域の感触を再現している。
だからといって、運転が負担になるわけではない。ハンドルにしがみつくような運転をすることなく、しっかり肩をシートバックに押しつけて舵角を意識する本来あるべき運転姿勢を採れば、路面からの情報をダイレクトに感じることができる。イタリア人がストレートアームを好む理由のひとつだ。
ひとつひとつ解説してゆくとキリがない。ただ、アバルトに乗って自分の感性を解き放てば、イタリア人の感覚で運転が楽しめるというのは、間違いないことである。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)

笹目 二朗
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