ボルボV70 T4 SE/V60 T4 R-DESIGN/XC60 T5 R-DESIGN【試乗記】
“ボルボ革命”の現場を見た!(前編) 2012.12.04 試乗記 ボルボV70 T4 SE(FF/6AT)/V60 T4 R-DESIGN(FF/6AT)/XC60 T5 R-DESIGN(FF/6AT)……550万7000円/507万5000円/586万5000円
変わりゆくボルボで変わらないものとは? 2013年モデルにイッキ乗りし、ボルボの進化の方向性を確かめた。
“質実クン”から“オシャレ坊や”へ
「人の噂も七十五日」というけれど、ことクルマに関しては当てはまらないようだ。ボルボの試乗車に乗っていて知人と遭遇すると、誰もが判で押したように「え、これが?」と言いたげな表情を浮かべる。彼らのアタマの中では、まだボルボは四角い形のままなのだ。「240」や「740」のイメージがまだ残っているらしい。それらのモデルの生産が終了してからすでに20年、「850」や「940」からでも15年が経過している。固定観念というのは、なんとしぶとく厄介なものか。
スタイルに関しては、ボルボの中では今も革命が進行している。新しいモデルになるほどフォルムは丸くなっており、以前のイメージからは遠ざかっている。今回、ボルボの主要モデルをまとめてテストする機会があった。2013年モデルがそろったタイミングで、試乗会が催されたのだ。新たに加えられた装備や意匠の変更点などをチェックできるのはもちろんだが、開発年度の違うモデルを並べることによって、デザインが変化していく様子をうかがうこともできる。以前の“質実クン”から最近の“オシャレ坊や”に変わっていく過程が、如実に示されるのだ。
試乗の舞台となるのは、紅葉真っ盛りの裏磐梯である。東京から北に向かうために乗ったのは、「V70 T4 SE」だ。V70は1996年に登場したステーションワゴンで、初代モデルは850のマイナーチェンジ版という位置づけだった。いわゆる四角いボルボだが、1999年に2代目となってデザインを一新した。現在のモデルは、2007年から販売されている3代目である。今回乗る中では、ちょうど真ん中あたりの開発年度にあたる。“質実クン”の面影を残しながらも、オシャレに目覚めはじめていることは隠せない。
受け入れやすいスタイル
最初に乗ったモデルが、いきなり“ボルボスタンダード”という感じだった。丸みを帯びながらも明らかに箱型であり、荷室容量の優先度が高いことを示している。ルーフは後端までほとんど落ちることはなく、サイドウィンドウは四角い。昔のイメージを払拭(ふっしょく)できない人でも、このスタイルならすぐに受け入れることができそうだ。
試乗車のボディーカラーは「トワイライトブロンズメタリック」で、2013年モデルの新色とのこと。V70には「T4」と「T6」があり、それぞれ4気筒1.6リッターターボと6気筒3リッターターボエンジンが積まれる。「SE」は、4気筒ラインの中での上級モデルという位置づけだ。
すっかりおなじみになった1.6リッターターボエンジンも、ど真ん中な感じだ。知らずに乗ればもう少し大きな排気量のNAエンジンと勘違いしそうなほど、ナチュラルで力強い。あからさまにパワフルというのではなく、不満のない十分な力を供給する。エンジンが存在感を主張しないのが、いかにもボルボに似つかわしいのだ。ちなみに、東京から裏磐梯まで365.8kmを走っての燃費は、9.1km/リッターだった。
室内はいつものボルボで、すぐに体がなじむ。大きめのガッシリとしたシートがまず気持ちを落ち着かせてくれるし、ダッシュボードのセンターには誰が見てもボルボとわかる特徴的なエアコンのコントローラーがある。しかし、しばらく運転していると、メーターパネルの中に見慣れないアイコンがあることに気づいた。丸の中に数字が表示されていて、それが60とか80とかに変化するのだ。これは新しく取り入れられた安全装備で、RSI(ロード・サイン・インフォメーション)というものだった。道路標識を読み取って、パネルに情報を表示する。なんとも細やかな気遣いだが、ボルボを選ぶ人はそもそもちゃんと制限速度を確認しながら走る人のような気もする。
もちろん、ほかの安全装備は今までどおりだ。標準装備の「シティ・セーフティー」に加え、試乗車にはオプションの「セーフティー・パッケージ」がついていた。BLIS(ブラインドスポット・インフォメーション・システム)はその中の一つで、左右の車線の死角にクルマが近づくと警告してくれる。ありがたいのだが、途中で雨が降りだすとクルマがいなくても警告ランプが点灯することがあった。取扱説明書にもこのシステムが雨と夕日に弱いと書かれていて、センサーの能力にはまだ限界があるのだろう。まあ、クルマがいるのに作動しないなら危険だが、逆に安全な方向に誤作動するのがボルボらしいところだ。まわりの確認はしすぎるくらいでちょうどいい。
オシャレ度ナンバーワン
裏磐梯のホテルに到着すると、待ち構えていたのは目の覚めるような色の「V60 T4 R-DESIGN」だった。こちらも新色だが、ずいぶん攻めたカラーである。R-DESIGN専用色で「レーベル・ブルー」という名を持つ。rebel blue、つまり“反逆の青”ということになる。確かに、相当気合を入れないと選びにくい色かもしれない。
V60にもT4とT6があって、T4はFFでT6は4WDというすみ分けになっている。「R-DESIGN」は特別仕様車で、内外装だけでなく足まわりにも手が入れられている。“最もスポーティーでハードな設定”とうたっていて、スプリングやダンパーなどが強化されている。エンジン、トランスミッションはV70 T4と同じだ。
発表が2010年、日本に導入されたのは昨年で、今のところいちばん新しいボルボだ。だから、オシャレ度の進み方もナンバーワンである。ルーフは後方に向かってなだらかに落ちていくし、サイドウィンドウは精妙な曲線ですぼまっていく。後端の形状はリアコンビネーションランプにそのまま受け継がれ、彫刻的なお尻の表情を演出する。ほれぼれする後ろ姿だが、代償として荷室容量は430リッターにとどまる。V60は「スポーツワゴン」であり、「エステート」が欲しければV70をどうぞ、というわけだ。
V70のリアコンビネーションランプがハッチとボディーにまたがっているのに対し、V60はすべてボディー側に付けられていて、構造もずいぶん違っている。V70が発表されたのは2007年だから3年の差だが、それ以上に見た目が変わっている印象だ。オシャレ坊やのV60には、ルーフレールがあまり似合わない感じがする。
車重が100kgほど違うせいか、パワートレインが同じでもV70に比べて若干軽やかな動きに思える。もちろん、専用サスペンションの恩恵もあるのだろう。この日はあいにくの雨だったこともあってたいして走り込めなかったのだが、以前R-DESIGNに乗った時にはボルボらしからぬ硬派ぶりに戸惑った覚えがある。ただ、硬いだけでなく、しなやかな動きを見せるのだ。実のある特別仕様車だから、R-DESIGNが人気モデルとなっているのは納得だ。
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ガタイがよくてスタイリッシュ
次に乗った「XC60 T5」もまた特別仕様車のR-DESIGN、レーベル・ブルーの組み合わせだった。V60に先駆けて2008年に発表されたモデルだ。リアの形状やサイドのシルエットは、こちらのほうが先行していたのだ。クーペテイストのスタイリッシュなSUVという位置づけである。ちょっとガタイのいいオシャレの先輩というわけだ。先行する世代のV70や「S80」がいかり肩だったのに対し、ここからボリューミーななで肩に変わってくる。これもリアデザインは容量最優先ではないものだが、車高が1715mmもあるからスペースは十分だ。
T5というグレード名だけれど、エンジンは5気筒ではない。4気筒の2リッターターボで、240psのパワーを持つ。駆動方式はFFで、XC60にはほかに6気筒エンジンと4WDの組み合わせもある。車重は約1.8トンとさすがにヘビーだが、ターボであることを感じさせない自然な感触を持つエンジンは十分なパフォーマンスを見せる。スキー場を併設するホテルは山の峰にあって、そこから山道を下り、また上った。そこそこタイトなコーナーもあるのだが、巨体はぐらつくこともなく安心感がある。
2013年モデルの新機能としてRSIを紹介したが、あと二つ大きな変更がある。一つはオートライトの採用だ。今まで付いてなかったのかという話だが、ちゃんと付加価値をセットにしてきた。それが「アクティブハイビーム」で、先行車や対向車がない場合は自動的にハイビームになるというものだ。今回は試すチャンスがなかったが、交通量の少ない地域で乗る際には便利かもしれない。
もう一つは、インテリアだ。セレクターのヘッドが透明な素材に変更されたのだ。フリーフローティングセンタースタックの軽やかさに合わせて、明るいクリアなイメージを狙ったのだろう。ただ、ある年代以上の人は、透明な素材を見ると中に水中花を入れたいという衝動が生じてしまう危険もある。
(後編につづく)
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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