フォルクスワーゲン・ティグアン トラック&フィールド(4WD/6AT)【試乗速報】
気になる点はひとつ 2008.09.12 試乗記 フォルクスワーゲン・ティグアン トラック&フィールド(4WD/6AT)……360.0万円
ドイツにおける人気ナンバーワンSUVが、2008年9月にニッポン上陸。はたして、その実力やいかに? オン/オフでそれぞれ試した。
オンロードでは虎、オフロードではイグアナ
第1問
トンボとカエルが結婚すると「とんぼ返り」ですが、虎(Tiger)とイグアナ(Leguan)が結婚すると何になるでしょう?
第2問
顔がイヌで体がウナギだと「ウナギイヌ」、では、前が「パサート」で後ろが「ゴルフ」だというフォルクスワーゲンのクルマは何?
2問とも、正解は2008年9月末より日本に導入されるコンパクトSUV、「フォルクスワーゲン・ティグアン」。
まずティグアン(Tiguan)というネーミングは、ダイナミックな虎と粘り強いイグアナからインスピレーションを得ているという。つまりオンロードでは虎のように躍動し、オフロードではイグアナのように斜面にへばりつく、というわけだ。
また、ボディのフロントからセンターまではパサートをベースに、リアのセクションはゴルフをベースに開発。結果、「ゴルフトゥーラン」とほぼ同じサイズのボディに仕上がった。
日本に導入されるのは、2リッターのTSI(ガソリン直噴+ターボ)ユニットにティプトロニック付きの6段ATを組み合わせた仕様。ヨーロッパ全体では昨年末のデビュー後わずか3週間で4万台もの受注があり、本国ドイツでは本年1月〜7月におけるSUVセグメントの売り上げ台数ナンバーワンに輝いたというヒット作、その実力やいかに?
日本にぴったりのサイズと使い勝手
ティグアンにはオフロード志向の強い「トラック&フィールド」と、オンロードでのスポーツ性能を強調する「スポーツ&スタイル」という、ふたつのバリエーションが存在する。まず日本に入ってくるのは前者で、兄貴分のトゥアレグを思わせる外観は小粒ながらマッチョだ。
けれども、「本格派クロカン四駆だ!」と意気込んで乗り込むとちょっと拍子抜けする。目線がそれほど高くなく、視界が普通の乗用車っぽいのだ。大型SUVの見晴らしの良さを期待してがっかりする人と、乗用車から乗り換えても違和感を感じないことを喜ぶ人にわかれるかもしれない。
たっぷりしたサイズのシートに腰掛け、VWっぽい黒を基調にしたインテリアに囲まれてエンジンスタート。走り出しての第一印象は「軽いクルマ」というもの。
そう思うにはふたつの理由があって、まずパワーステアリングのセッティングが軽い。試乗会会場付近はすれ違うのに気を遣うくらいの狭い道が続いたけれど、車幅が把握しやすいボディ形状とステアリングが軽いことがあいまって、運転は楽ちんだった。これは、日本で使ううえでの大きなアドバンテージだろう。
クルマが軽く感じるもうひとつの理由は、2リッターのTSIユニットの力強さ。エンジン回転を上げなくても充分に力持ちで、井上康生が東原亜希を"お姫さま抱っこ"するくらい軽々と1640kgのミディアムヘビー級ボディを引っ張る。
そのままアクセルを踏み続けると、ティグアンは北京五輪の男子400メートルリレーの日本チームのようにスムーズにギアをつないで速度を上げる。そしてスピードが上がれば上がるほど、このクルマの美点が際だつようになる。
DSGを搭載しなかった理由
ティグアンは、ハイスピード域での乗り心地が良好なのだ。実は低速域でも乗り心地はソフトだけれども、そういうSUVはほかにも山ほどある。ハイスピードで道路のうねりや不整を突破した時に、サスペンションが自在に伸び縮みしてショックを吸収してしまう懐の深さがティグアンならではの持ち味だ。
ほどよくロールさせながら中速コーナーの連続を駆け抜けていると、「いいモンに乗っているなぁ」という気分をしみじみと味わうことができる。ただ、こういった場面でひとつ残念なのが、6段ATの変速がワンテンポ遅いと感じることだ。
いや、実際は充分以上に素早く変速しているのかもしれない。けれど、DSGの超絶クイック&スムーズなシフトを経験した今、アクセルペダルを踏み込みキックダウンでギアを落とすような場面でも、ティプトロニックをマニュアル操作しても、ティプトロではモノ足りないのだ。伊調千春(姉)の銀メダルを立派だと思いつつ、ついつい伊調馨(妹)の金メダルと比較してしまうのにも似ている。
ただし、DSGを搭載しなかったのはフォルクスワーゲンがケチったりサボったりしたわけではないようだ。オフロードでのヘヴィーデューティな使われ方を想定すると、少しファジーにシフトするトルコンATのほうが乗りやすいしトラブルの危険性も少ないのだという。現状のDSGは、あくまでオンロードでの性能を追求したトランスミッションなのだ。
事実、試乗場所をクローズドのオフロード・コースに移すと、ティグアンの中に潜んだイグアナが目を覚ました。
![]() |
![]() |
![]() |
バターと生クリープたっぷりだから、高カロリー
センターコンソールにある「OFF ROAD」スイッチを押すと、急勾配の下り坂で一定の速度を維持するヒルディセントアシストが作動すると同時に、トラクションコントロールやABS、トランスミッションなどが“オフロード仕様”に変身する。
オフロード・コースの試乗ステージがティグアンの長所を引き出すような設定だということは差し引いたほうがいいかもしれない。けれど、それでもコブ斜面や急勾配の上り下りを余裕の表情でこなすイグアナの運動能力は大したものだと素直に思った。
ハルデックス・カプリングを用いたティグアンのフルタイム四駆は、本格的なオフロード走行を視野に入れたもの。このシステムに「パサートV6 4MOTION」のリアサスペンションを改良したものを組み合わせている。
キモチいい高速での走りっぷりと、生真面目な姿勢でオフロード性能を追求するティグアンは、フォルクスワーゲンらしくてドイツ車の味が濃厚なモデルだった。
ひとつ気になるのは燃費だ。短時間の試乗なので実燃費は計測できなかったけれど、国産のほぼ同サイズのライバルに較べると10・15モード燃費では劣っている。これはプレミアムSUVと呼ばれるモデルに共通の悩みで、たとえば「BMW X3」のモード燃費はティグアンよりさらに悪い。
いまのところファン・トゥ・ドライブでかつ本格的な四駆システムも備える“美味しい”SUVほど燃費が悪いという結果になっている。バターや生クリームをたっぷり使うと美味しくなるけど高カロリーでダイエットの敵になる、というのに似ている。
できればファン・トゥ・ドライブと好燃費を両立するSUVに登場してほしいけれど、ちょっと見あたらない。両立がかなうまでは「ファン」と「エコ」の二者択一を迫られる状況だ。個人的には、「ファン」を選んで徹底的なエコドライブ、渋滞に近づかない、等々の工夫で、なんとかティグアンみたいなクルマを楽しみ続けたいと思うのだ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。