第56回:大矢アキオ撮影、「トンデモ路上風景」秘蔵フォト公開! 残暑蔵出し
2008.08.30 マッキナ あらモーダ!第56回:大矢アキオ撮影、「トンデモ路上風景」秘蔵フォト公開!残暑蔵出し
カテゴリー分け不能
「これ、どういうことよォ?」
イタリアの我が家で、ボクは女房からたびたび問いただされる。
フィアット株を大量購入して損したとか、イタリアの若い娘と浮気をしたとかではない。ボクが撮ってきた写真に関してだ。
日頃女房が車種やイベント別に整理・分類してくれるのは良いのだが、「カテゴリー分けできない写真が多い」というのだ。取材の前後に、つい興味本位で撮ってきてしまったスナップである。
もともとそれほどエンスーでもないのに、もはやロシア製四駆「UAZ」「ラーダ・ニーヴァ」とか、中国のマイナーメーカーの車種を、ヒヨコの雄雌分けのごとく的確に整理してくれている女房である。文句を言われても頭が上がらない。仕方がないので、あるときからハードディスクの中に「トンデモ写真」というコーナーを作成し、そこにブチこんでもらうことにした。
今回は、そのたまり溜まった秘蔵フォトの中から、蔵出しをすることにしよう。
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青信号が「転べ!?」
まずは近所のアルファ・ロメオ販売店の看板(写真1)である。
この店は、少し前にフィアット本社の店舗CI(コーポレイト・アイデンティティ)新政策にしたがって改装したのだが、ビッショーネ・マークが左に傾いてしまっている。マテリアルの度重なる収縮膨張、風向きの影響等考えられるが、スタッフたちはまったく気にしていない。
いっそのことモーターを内蔵し、1日で1回転するようになっていれば、時計がわりになって注目度もアップするのではと思う。
「回転もの」といえば、トリノで発見した歩行者用信号(写真2)もあった。横断可が「転べ」に受け取れる。誰かがよじ登ってレンズを回転させたものと思われる。
次はオーストリアの、味のある標識(写真3)である。
「自動車およびオートバイ通行禁止」なのだが、クルマは明らかに流線型時代が到来する1930年より以前のものだ。ライダーのなびくマフラーも仮面ライダー風でそそられる。
自動車専用道路を示す標識に描かれた往年の「ボルボ164」風自動車を見るたび「そろそろ新しくしろよ」と常々思っていたボクであるが、このオーストリアの標識を知ってからは古いデザインもいいものだと心を改めた次第である。
一方(写真4)は、そのオーストリアの都市、インスブルックで発見したものである。鉾が描いてあるので、一瞬「マセラティ通行禁止」かと思ったが、よく見ると、荷車馬車通行禁止の標識に何者かが農機具をステンシルとスプレーで追加したものであることが判明した。
おーい、誰かいるか
次は、都市のミステリー&ホラー系と題した作品群である。
(写真5)は、シエナの工事現場で撮影したものだ。まじめな公共工事のまじめな関係者通路の入口である。だが明らかに一般家庭の、それも室内用ドアを流用している。用はないけどノックしたり「おーい、誰か中にいるか」と呼んでみたくなる。
次の(写真6)も同じくシエナでの光景だ。ディーラーの外にある駐車スペースなのだが、「フォルクスワーゲン・ゴルフ2」がここ数年放置されたままである。見るたびに劣化していっている。隣のディーラーとしてもビジュアル的に、いい迷惑であろう。
その昔オノ・ヨーコ氏も参画した前衛モノクロ映像芸術で、雑踏に落ちた花が踏みつけられてゆく様子を黙々と撮影しているのがあったのを思い出したボクは、路上のポップアートと思うようにしている。
恐ろしいのは、ミラノ郊外の駅前で撮影した(写真7)である。燃えたあとの「アルファ156スポーツワゴン」が公然と放置されていた。数年前のパリ郊外で連続した事件に限らず、最近は駐車中のクルマが燃やされる事件が各都市で起きている。ボクも燃えている最中のクルマを見たことがある。だから周辺の治安の悪さを考えてゾッとした。
と同時に、何事もなかったかのように両側に停められたクルマは、大都会ならではの駐車場探しの熾烈さをうかがわせる。
最後の(写真8)は、北部ロマーニャ地方の街道沿いのディーラー。昨年の今ごろ撮影したものである。
今やさまざまなブランドを取り寄せてくれる自動車屋さんだが、以前はフィアットの正規ディーラーだったのであろう。
FIAT店時代の平行四辺形ネオン枠およびAとTの文字、そして新たに製作したUとOの文字をパズルのごとく組み合わせて「AUTO」と綴りたかったのに違いない。Uの文字は落下してしまったか、それとも納品待ちか?
貴重な「憩い」が、そこにある
今回紹介した事象のなかで、もちろん信号や標識のいたずらは困ったものである。燃えたクルマや放置も憂うべき事態であることはいうまでもない。いっぽうで、工事現場の家庭風ドア、古いデザインの標識や曲ったままの看板、「AUTO」看板からは、貴重ともいえる「ゆるさ」や「憩い」を感じる。
同時に、工事現場のフェンスに内部の過酷さとは皮肉ともとれるくらい不釣合いなモダーンデザインを施すことに気合を入れたり、CI(コーポレイト・アイデンティティ)と称して新ロゴ序幕式の用意を徹夜で準備する日本が滑稽に思えてくるのだ。
……と言いつつも例の「AUTO」看板のUの文字が、今年は無事に見つかったか気になって仕方がないボクは、やはり日本人である。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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