フォルクスワーゲン・ティグアン スポーツ&スタイル(4WD/7AT)【試乗記】
都会派の野生 2012.01.16 試乗記 フォルクスワーゲン・ティグアン スポーツ&スタイル(4WD/7AT)……416万3000円
フォルクスワーゲンのブランドフェイスを手に入れた新しい「ティグアン」で長距離ドライブを決行。東京から約800kmを走行し、気付いたこととは?
荒くれ男は乗らない
「ホンダCR-V」と比べると、全長、全幅が少し小さく、わずかに背が高い。でも、「フォルクスワーゲン・ティグアン」は数字以上にコンパクトに感じられる。エクステリアのデザインが変更され、「トゥアレグ」と同じ水平基調のグリルとなって顔つきがより都会的な印象になったせいもあるのだろうか。このジャンルには「トヨタRAV4」「日産エクストレイル」などのライバルがいて、それぞれに出自であるオフロード対応の野性と実際に使用されるフィールドの都会的洗練をどのようにミックスするかに知恵を絞っている。
ティグアンはもともとオフロード寄りの「トラック&フィールド」のみでスタートしたが、今回のマイナーチェンジで用意されたのは都会派の「スポーツ&スタイル」だけだった。筋肉ムキムキの荒くれ男が乗る雰囲気ではない。CR-Vもそうだったが、コンパクトSUVはますます野性から遠ざかっていく傾向にあるようだ。
エンジンとトランスミッションはこれまでどおり2リッター直4DOHCターボに7段DSGの組み合わせだが、最高出力は9psアップして179ps/4500-6200rpmとなった。今回の試乗では、東京から愛知県岡崎市を往復するコースを走った。大部分が高速道路の走行となるはずだったが、帰路のアクシデントで図らずも山道や渋滞路の割合が増えてしまうことになった。
付き合いやすいドライバーズカー
この種のクルマで必ず魅力のひとつに挙げられるのが、ドライバーの視点の高さである。見晴らしの良さが運転のしやすさをもたらし、気分もいい。ティグアンもその美質を備えているが、着座位置は極端に高い感じはせず、乗用車とかけ離れてはいない。ダッシュボードなど目に見えるところにオフロードを感じさせる意匠が一切無いことも、その印象を助長しているのだろう。
運転感覚は、さらに乗用車的だ。車高1710mm、車重1640kgという堂々たる体躯(たいく)だが、運転しているとはるかにコンパクトなサイズに感じられる。SUVは大きくて重いもの、なんて思い込みは吹き飛ばされてしまう。直接乗り比べれば違いは大きいのだろうけれど、「ゴルフ」と似た付き合いやすさなのだ。過剰な部分がなく、ドライバーは何の気負いもなく運転に専念できる。
9psの出力アップがどれほどのものかはわからないが、加速力は十分以上だ。2リッターの力強さを、特に中間加速で実感する。エンジンの出来だけでなく、7段DSGの採用がオンロードでの走行の快適さに貢献しているはずだ。初期のティグアンにはオフロード性能を優先して6段ATが与えられていたが、シティー派SUVにはスムーズで効率のいいDSGが似つかわしい。
運転を替わってもらい、後席の居心地を試してみた。思ったよりドアの開口部が狭く、乗り込みに若干苦労する。座ってしまえば空間は広々として、膝まわりにも余裕がある。着座位置が高く、運転席を見下ろしながらフロントウィンドウ越しに前方が見渡せる。しかし、運転席で感心した素晴らしい乗り心地が、後席では見る影もない。多少の悪化は予想していたものの、想定以上だった。スキあらば居眠りしようという思惑は打ち砕かれた。ティグアンは、運転してなんぼのドライバーズカーなのだ。
箱根路でも楽しい
行きでは東名高速を走ったので、帰りは趣向を変えて中央道を使うことにした。疲れもあって、しばらく走ると激しい睡魔に襲われた。次のSAまで必死にこらえて何とかたどり着いた。事なきを得たのはよかったが、このクルマにはドライバー疲労検知システム「Fatigue Detection System」が搭載されていたはずではないか。警告音を聞き逃したということはないと思う。システムが反応するほどのハンドルのふらつきはなかったのかもしれない。
順調に進んでいたが、山梨県に入ったあたりで不吉な電光掲示が目に飛び込んできた。「渋滞30キロ」の表示に恐れをなし、大月から南下して須走から御殿場に抜けて東名高速で帰るルートに変更した。人は同じようなことを考えるもので、東富士五湖道路を降りるとすぐに渋滞につかまってしまった。ノロノロ運転で御殿場に到着すると、そこには無情にも「渋滞45キロ」の表示が輝いていた……。
こうなれば意地で、箱根を越えて小田原に抜けるしかない。さすがに夜の箱根路はすいていて、思う存分走りまわることができた。夜の闇に包まれての走行だったが、結構楽しめた。思いがけずも軽快な動きを見せるものだから、マニュアルモードを駆使して飛ばしたくなる。クルマとの一体感があって、暗い山道でも安心なのだ。野性に洗練が加わった結果、スポーティーという果実を得たのだ。
楽しかったのはここまでで、西湘バイパスに入った途端にまた大渋滞である。結局、中央道でそのまま帰ったのとほとんど変わらない時間がかかってしまった。渋滞とは、そんなものである。負け惜しみで言うのではないが、おかげで休日のお出掛けで遭遇するリアルなデータがとれたとも考えられる。高速道路だけの移動に比べれば、燃費はかなり悪化したはずだ。
それでも、走行距離838.5kmに対して給油量は76.3リッター。11.0km/リッターという燃費は、悪くない数字だ。10・15モードで11.6km/リッターが公式値だから、ほとんど変わらない。運転が楽しくて荷物もそこそこ載せられ、燃費も上々。加えて端正なルックスだ。もっと人気があっても驚かない。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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