アウディ 3.0 TDI/クリーンディーゼル【海外試乗記】
クワトロだけじゃないアウディ 2008.03.12 試乗記 アウディ 3.0 TDI/クリーンディーゼルアウディといえば“クワトロ”だが、ヨーロッパでは直噴ターボディーゼルの“TDI”もまたアウディの人気を支えている。その魅力を確かめるため、カナダで開催された「Audi TDI Winter Test Drive」に参加した。
アメリカ、カナダに相乗り
「アウディの最新ディーゼルをカナダで試してみませんか?」
アウディジャパンからのそんな誘いに、二つ返事で参加を決めたはいいが、なぜカナダでディーゼルの国際試乗会なのか、しばらく理解できなかった。その疑問が解けたのはトロントに入ってからのこと。今回参加するのは、アメリカ、カナダ、日本の3カ国だけ。つまり、ディーゼル乗用車で遅れを取っている国々なのだ。北米市場で販売台数を伸ばそうとするアウディとしては、燃料の高騰やCO2削減の動きにともない、高まりつつあるディーゼルへの関心を追い風に、自社が誇るTDIをアピールしたいというわけで、今回の試乗会を開催。そこに、ディーゼルの火が再び燃え始めた日本が相乗りしたのである。
もちろん、関心が高まっただけでは販売に踏み切れない。アメリカや日本にはヨーロッパに比べてより厳しい排ガス規制があるからだ。しかし、アウディは、最新のエンジン制御技術と排ガス浄化技術により、目前に迫る排ガス規制にパスする3リッターV6TDIのクリーンディーゼルを開発。アメリカには2008年冬にも、このエンジンを搭載するモデルの投入が決定している。
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ルマン優勝に導いたテクノロジー
2006年、「アウディR10 TDI」がディーゼルエンジンのレーシングカーとして初めてルマン24時間レースを制したのは記憶に新しい。この「TDI」、すなわち直噴ターボディーゼルは、いまやディーゼルのスタンダードだが、その流れの源が1989年に登場した「アウディ100」の2.5リッター直列5気筒TDIだったことはあまり知られていない。直噴ターボディーゼルのパイオニアであるアウディは、以来、世界中で450万台のTDIモデルを販売してきたが、人気の理由は燃費の良さに加えて、スポーツモデル並みの性能を備えていたことだった。
最新のTDI、たとえば、「A4」や「A5」に搭載される3リッターTDIは、「コモンレール」と呼ばれる高圧燃料噴射システムと可変ノズル式のVTGターボを採用し、最高出力240ps/4000-4400rpmを誇る。驚きなのがそのトルクで、わずか1500rpmから3000rpmまでの間、51.0kgmもの最大トルクを発揮するのだ。この数字は「S5」のV8を上回り、「S6」のV10に迫る値。一方、コモンレールシステムや精密な燃焼制御、そして、DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)などにより、排ガス中のPM(粒子状物質)とNOx(窒素酸化物)はともに、近い将来ヨーロッパで始まる「ユーロ5」の基準をクリアしている。
さっそくA4とA5を試乗する。私自身、ヨーロッパでこれまで何度も最新ディーゼルに乗る機会があり、昨年10月には「A5 3.0 TDI」でドイツを旅したばかりなので驚きはなかったが、古いディーゼルしか知らない人なら愕然とするに違いない。
アイドリングでガラゴロとうるさいのは過去の話。さすがにガソリンのV6並みとはいえないが、夜中に住宅街に戻るのが、はばかられないレベルである。走り出すと、低回転がスカスカ……なんてこともなく、1000rpmでもトルク感があり、1400rpmあたりからは俄然力強さを増してくる。だから、あまり回さなくても加速は十分あるし、6速(MT)、100km/hが1700rpmくらいなので、走行中のエンジン音は気にならないのもいい。回すと3000rpm台後半あたりからノイズが高まるものの、レブリミットの4800rpmまでよく伸びる。
排ガス規制が厳しい市場にクリーンディーゼル
最新の3リッターTDIは実にスポーティで扱いやすく、洗練されたエンジンなのだ。しかし、残念ながら、このままでは施行が目前に迫るアメリカの「Tier2 Bin5」や日本の「ポスト新長期」といった規制をクリアすることができない。というのも、ユーロ5に較べてアメリカや日本の新規制はNOxの基準値が厳しいのだ。
これを解決する手段として、排ガス中のNOxを無害なN2(窒素)に変える後処理システムが開発されている。そのひとつが“尿素SCR(選択触媒還元)システム”で、保湿や美肌に効果があるといわれる尿素を、純水に溶かした32.5%尿素水「AdBlue」を排気管に噴射し、下流のSCR触媒でNOxを除去するというものだ。
この尿素SCRシステムを採用し、さらに燃料噴射圧を従来より高い2000気圧まで高めたり、燃焼室センサーを設けてさらに精密な燃焼制御を行うなどして、日米の規制をクリアしたのが3リッターのクリーンディーゼルである。
試乗会にはこのエンジンを搭載したA5が用意された。その印象は……A5 3.0 TDIに劣るところがない。クリーンディーゼルのほうが加速時のノイズが多少大きく思えたが、こちらはまだ試作レベルのクルマなので、それが本来の姿かどうか判断するのは難しい。厚みを増したトルクに、6段ATのトルコンスリップも手伝い、1000rpm台前半ではさらに力強い印象だ。クリーン化に伴いコストの増加は避けられないが、性能面で失ったものはないと思う。
課題は価格か?
アメリカではまず、「Q7」のクリーンディーゼルを投入し、その後、A4にもラインナップを拡大する予定だ。ヨーロッパでも、さらに先の「ユーロ6」規制を先取りするかたちでクリーンディーゼル車を市場に送り出すということだ。
一方、日本では、2008年7月までに、ディーゼル導入について何らかの結論を出すことになっている。ポスト新長期規制をクリアできるクリーンディーゼルなら障害はないはずだし、クワトロとともにアウディのテクノロジーの象徴であるTDIを投入しない手はない。最新ディーゼルの実力を見せつけておいて、「日本への導入は見送ります」はないと思うし……。
悩みどころはどのモデルを導入するかだろう。主力のA4はぜひほしいところだが、ガソリンエンジンの3.2クワトロよりさらに高価になり、そうなるとなかなか手が出しにくい。もともと高価なQ7であれば、そのあたりは気にならなくなるし、燃費と性能を考えるとガソリンモデルより割安に思えるかもしれない。
ただ、個人的には、低燃費に加えて、ディーゼルの魅力はそのスポーティな性能にあるわけだから、そこを強くアピールできるA5がトップバッターとしては打って付けではないかと思う。Q7やA4はその後でも遅くない。それから「TTクーペ/TTロードスター」もぜひ!
(文=生方聡/写真=アウディ・ジャパン)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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