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第137回:キーワードは“クルミ” トーヨータイヤの最新スタッドレスを体験

2012.02.07 エディターから一言 大谷 達也
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第137回:キーワードは“クルミ”トーヨータイヤの最新スタッドレスを体験

トーヨータイヤのスタッドレス試走会が、北海道の東洋ゴムサロマテストコースで開かれた。ミニバン専用と普通車用、2種類のタイヤをテスト。それぞれの走りに違いはあった?


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トーヨーのスタッドレスといえばクルミ。実際には粉末が使われている。
トーヨーのスタッドレスといえばクルミ。実際には粉末が使われている。 拡大
「ウィンタートランパスMK4α」(左手前)と「ガリットG5」(右奥)。
「ウィンタートランパスMK4α」(左手前)と「ガリットG5」(右奥)。 拡大

クルミを選んだ理由

「トーヨータイヤのスタッドレスといえばクルミ」

これは、タイヤにちょっとでも興味のある人にとっては、もはや常識ともいえることだ。
でも、なんでクルミなのか?

本当はクルミじゃなくてもいいんだけれど、なんとなくキャッチーだからクルミを選んだんじゃないの? 正直、私はそんな風に思わないでもなかった。けれども、今回トーヨータイヤの試走会に参加して、技術者に話を聞いて「ほほー、そうだったんだ!」と深く納得することができた。せっかくなので、この思いをみなさんと共有したい。

そもそもスタッドレスタイヤが世の中に登場したのは、鉄製のピンを埋め込んだスパイクタイヤが粉じん公害を巻き起こし、これを防ぐために使用を禁止されたのがきっかけだった。雪のないアスファルト路をスパイクタイヤで走ると、アスファルトより硬い鉄製のピンがアスファルトを削り取り、ここで舞い上がったアスファルトの粉じんが健康被害を引き起こす。だからスパイクタイヤは禁止され、それに代わるスタッドレスタイヤが誕生したのである。

とはいえ、単純に鉄製のピンを抜いただけではタイヤが雪や氷をひっかくことができず、十分なグリップ力を得られない。そこでトーヨーの技術者がさまざまな素材を試した末にたどり着いた答えがクルミ(正確にはクルミの殻を粉々に砕いた粉)だったのである。

なぜ、クルミだったのか? その1番目の理由は、雪や氷よりも硬く、アスファルトよりは柔らかいことにある。おかげで氷をひっかく効果は得られるが、アスファルトを削り取ることがないので粉じん公害を引き起こさない。

第137回:トーヨータイヤの最新スタットレスを体験

クルミがいい2番目の理由は、天然素材であること。たとえクルミがアスファルトを削り取らなくても、タイヤに配合されたクルミはその摩耗に伴い、いつかは空中に巻き散らされる。けれども、もともと天然素材のクルミは、いつかは土に帰っていく。万一、体内に取り込んでしまったとしても、アスファルトや鉄よりは健康に悪影響がなさそうな気もする。

というわけで、クルミはスタッドレスタイヤにひっかき効果をもたらすのに最適な素材であると、トーヨータイヤの技術者は結論づけたのである。

クルミは特許に守られていた

でも、そんなにいい素材だったら、どうして他のメーカーはまねをしないのか? この疑問に、東洋ゴム工業の鎌田晋作さんはこう答えてくれた。「20年前にトーヨーが発売したときに特許を出願していましたからね。ただし、そろそろ特許が切れる頃でしょうが、やはり他社さんもプライドがあるせいか、クルミは出してきません」

なーるほど、クルミは特許に守られていたのか。でも、年間何万本、いや何十万本も生産されるスタッドレスタイヤに入れるクルミの粉は、どこからどうやって手に入れるのだろうか? まさか、東洋ゴム工業の社員食堂で“クルミごはん”や“クルミあえ”が毎日毎日出てくるわけではあるまい。

「クルミの粉末はメガネやゴルフヘッドなどの研磨剤としても使われているので、工業用素材として流通経路が確立されているのです」。 これまた、大いに納得である。

ただし、トーヨータイヤはただ漫然とスタッドレスタイヤにクルミの粉を混ぜ合わせているだけではない。もともとクルミの粒径は120ミクロンだったが、より強力なひっかき力を求めて大径な300ミクロンのものも投入されるようになった。ただし、大粒な粉を混ぜるとタイヤ自体の摩耗特性が低下するが、これはコンパウンドなどに改良を加えることで乗り越えた。

最新作の「ウィンタートランパスMK4α」ではクルミの量を従来の6倍に増やした。これもコンパウンドなどの改良なしには実現できなかったこと。そのほかにも、全方向にわたるグリップ特性を改善するために360°サイプを開発したり、低温域でもゴムが硬化しにくい“ナノゲル”と呼ばれる高分子素材を「ガリットG5」に配合したりして、スタッドレスタイヤとしての性能を高めている。そもそも「ミニバン専用スタッドレスタイヤ」なんてものを発売しているのもトーヨータイヤだけだ。

「ウチは会社の規模が比較的小さいので、小回りが利きます。それに、技術者が自分の意見を自由に言える社風も備わっています。そういったものが、個性的な製品が誕生する背景になっているのかもしれません」(タイヤ技術第一部 商品開発グループ 坂本早智雄さん)

これも「なーるほど」の話である。

異なるタイヤを履く2台の「セレナ」を乗り比べる。「ウィンタートランパスMK4α」のコーナリング時の安定感が印象に残った。
異なるタイヤを履く2台の「セレナ」を乗り比べる。「ウィンタートランパスMK4α」のコーナリング時の安定感が印象に残った。 拡大
ミニバン専用スタッドレス「ウィンタートランパスMK4α」のトレッドパターン。左がIN側で、右がOUT側。
ミニバン専用スタッドレス「ウィンタートランパスMK4α」のトレッドパターン。左がIN側で、右がOUT側。 拡大
「ガリットG5」のトレッドパターン。
「ガリットG5」のトレッドパターン。 拡大
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圧雪路で「ウィンタートランパスMK4α」を試す。タイヤが路面をしっかり捉える感触がステアリングから伝わってくる。
圧雪路で「ウィンタートランパスMK4α」を試す。タイヤが路面をしっかり捉える感触がステアリングから伝わってくる。 拡大
「フォルクスワーゲン・ゴルフ」には「ガリットG5」を装着。氷雪路でのハンドリングを試す。
「フォルクスワーゲン・ゴルフ」には「ガリットG5」を装着。氷雪路でのハンドリングを試す。 拡大

ふたつの違いははっきりわかる

前置きが長くなってしまったが、そろそろ試走した印象をお伝えしよう。

まず、「日産セレナ」に“ミニバン専用スタッドレスタイヤ”のウィンタートランパスMK4αと“一般車用(?)スタッドレスタイヤ”のガリットG5を装着し、その違いを確認してみた。

いやいや、これが実に面白いくらい違うのである。ウィンタートランパスMK4αは、ただまっすぐ走っているだけでもタイヤが圧雪路をしっかり捉えている様子がステアリングを通じて伝わってくる。スラロームを試みても、滑りながら何かの拍子で向きが変わったかのようなガリットG5と異なり、ウィンタートランパスMK4αは前輪が確実にグリップしながら進路を左右に変えていく様子がわかる。横グリップレベルも間違いなくウィンタートランパスMK4αのほうが上。安心してコーナリングできる速度は、ガリットG5の10〜15%増しに思えた。

では、ガリットG5にはメリットがないかというとそんなことはなく、技術者によれば縦方向のグリップはウィンタートランパスMK4αを確実に凌(しの)ぐという。また、車重の軽いクルマにウィンタートランパスMK4αを装着すると乗り心地に少し跳ねる傾向が出てくるそうだ。つまり、ウィンタートランパスMK4αは横グリップ重視で中重量車向き。ガリットG5は縦グリップ重視で軽量車にもマッチすると考えればよく、あとは用途にあわせて選べばいいようだ。

今回は、4輪にガリットG5を装着した「フォルクスワーゲン・ゴルフ」、それに「スバル・レガシィツーリングワゴン(4WD車)」にも試乗できた。ただし、レガシィのほうは右の前後にガリットG5、左の前後にはあえてクルミを抜いた特製のガリットG5を装着していた。先にレガシィの話をすると、左右でグリップ力に差がありすぎて、スロットルを踏み込んでいくとまっすぐ走らない。ブレーキを踏んでもどうしても右側に巻き込んでしまう。それくらい、クルミのあるなしで雪を捉える力が変わってくることが確認できた。


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右の前後に「ガリットG5」、左の前後には特製の“クルミなし”「ガリットG5」を履く「レガシィ」。左右のグリップ力の違いは明らかで、発進時には左、制動時には右にハンドルをとられる結果に。
右の前後に「ガリットG5」、左の前後には特製の“クルミなし”「ガリットG5」を履く「レガシィ」。左右のグリップ力の違いは明らかで、発進時には左、制動時には右にハンドルをとられる結果に。 拡大

これに比べると、左右ともガリットG5を履いたゴルフは実にバランスのいい走りをする。もっとも、氷の上で定常円旋回をすればアンダーステアといってフロントが外側に逃げていく傾向が現れる。こういうときは、スロットルを抜いてフロントのグリップを回復させたくなるが、ESP(横滑り防止装置。ESC、VSCなどとも呼ばれる)装着車ではむしろ駆動力を与えてステアリングを大きく切ったほうが旋回しやすくなるという働きがある。いきなりクルマが横滑りを始めたときに試すのはお勧めできないが、安全な広い場所で、ハンドルを切ってスロットルを踏み込んだときに自分のクルマがどういう動きをするか、あらかじめ体験しておくといい。

いずれにせよ、どんなに素晴らしいスタッドレスタイヤを履いていても、雪上もしくは氷上では制動能力がガクンと落ちる。その点を織り込んでおくのが、安全運転の最大のコツといえるだろう。

(文=大谷達也/写真=トーヨータイヤ)

大谷 達也

大谷 達也

自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。

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