アウディQ7 3.6 FSIクワトロ(4WD/6AT)【試乗記】
手が届くプレミアムSUV 2007.08.28 試乗記 アウディQ7 3.6 FSIクワトロ(4WD/6AT)……832.0万円
発売開始から半年を経て、V8エンジンのみのラインナップだったQ7に3.6リッターV6エンジン搭載モデルが追加された。絶妙なプライスタグとその実力を比較する。
700万円で買えるQ7
うまいところを突いてきたな、と思う。これまでV8 4.2リッター一本のモノグレードだった「アウディQ7」にV6 3.6リッターエンジン搭載のQ7 3.6FSIクワトロが加わったのだが、その価格が698万円とされたのだ。
これは同門の「フォルクスワーゲン・トゥアレグV6」(549万円)より高めながら、「BMW X5 3.0i」(667万円)、「メルセデス・ベンツML350」(722万円)、「ランドローバー・ディスカバリー3 HSE」(759万円)などに真っ向から挑む値づけである。Q7のクーペを思わせる流麗なプロポーションやしっかりと作り込まれた印象の強いインテリアに惹かれながら、945万円のプライスタグを見てため息をついていた向きには、待ちに待った朗報といえるだろう。
もっとも、4.2FSIで標準だった装備がことごとく抜け落ちているようでは、698万円の価値も半減してしまう。ところが、嬉しいことに3.6 FSIの装備はなかなか充実しているのだ。ざっと見わたしたところ、4.2に標準で3.6にないのはレザーインテリアと3列シートくらい。とはいえ、ふたつともオプションとしてリストアップされており、価格も合計で84万円とまずまずリーズナブルな範囲に収まっている。
ちなみに、今回借用した広報車はレザーインテリアを含むSEパッケージ(39万円)や20インチ・アルミホイール+タイヤ(27万円)のほか、4.2でもオプション扱いとなるアダプティブ・エアサスペンション(40万円)やアダプティブ・クルーズコントロール(28万円)などを装備していたが、これでも総額は832万円。つまり、4.2よりまだ100万円以上も安いのだから、3.6がどれだけお買い得かがわかる。
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新世代狭角V6エンジンを搭載
では、肝心のエンジンはどうだったのか?
Q7 3.6に搭載されるのはバンク角10.6度の新世代狭角V6エンジンで、VWパサートV6やトゥアレグV6に積まれているものと同系統だが、アウディ・ファミリーではこれが初採用となる。
最高出力280ps/6200rpm、最大トルク36.7kgm/2500〜5000rpmを発揮するこのエンジン、パサートV6ではバランスのいい回転フィールが印象的だったが、Q7は排気量が3.6リッターとされたせいか、回り方がわずかにラフで、排気音が勇ましく感じられることが稀にあった。
ただし、これはあくまでも比較級の話であって、絶対的な静粛性やバイブレーションの小ささでいえば、“フォーリングス”の品位を汚すことのない、充分にスムーズなエンジンだと評価できる。
パフォーマンスにも不満はなく、市街地のストップ・アンド・ゴーでもスロットルの踏み代には常に余裕が残されていたほか、高速道路で追い越し車線にレーンチェンジする際にも躊躇を覚えなかった。
こう書くと、大して活発でないように感じられるかもしれないが、0-100km/h加速8.3秒、最高速度225km/h(アダプティブエアサスペンション仕様車は230km/h)と資料に記されているとおり、並みのファミリーセダンを確実に凌ぐ速さの持ち主である。
乗り心地は、以前乗ったQ7 4.2よりも快適志向が強く、路面からの入力を穏やかに受け流すように感じられたが、試乗車は20インチタイヤを履いていたためか、ゴツゴツした印象が皆無とは言い切れず、これがフンワリとした軟らかさに違和感をもたらしていた。あくまでもスタイル優先で突き進むならまだしも、実質を重んじるCG読者に20インチタイヤは不要だろう。
瞬間燃費は目の毒?
価格がぐっと手ごろになって、充実した装備が揃っていて、エンジンにも不満を覚えない。それでいて、スタイリッシュな佇まいはそのままなのだから、3.6の追加によってQ7のユーザー層が拡大するのは間違いないように思える。特に、V8のパワーとスムーズネスまでは要らない、もしくは3列目シートを特に必要とはしない向きには、4.2より3.6を積極的に勧めたい。
燃費も、このクラスとしては妥当なものだった。高速道路をゆったりとクルージングしたとき、オンボードコンピューターの平均燃費は9km/リッター台を表示していたほか、満タン法でも8km/リッターを楽々と超えていた。市街地を含む総平均でも7km/リッター台を割らなかったのだから、2.2トンのプレミアムSUVとしては納得できるデータだろう。ただし、静止状態からの発進では瞬間的に2km/リッターを示すことが少なからずあったので、気の弱い私はオンボードコンピューターの表示を平均燃費に切り替えて試乗したことを最後に告白しておく。
(文=大谷達也/写真=アウディ・ジャパン/『CAR GRAPHIC』2007年8月号)
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大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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