ロールス・ロイス・ファントム・ドロップヘッド・クーペ(FR/6AT)【海外試乗記(後編)】
歴史と威厳(後編) 2007.08.22 試乗記 ロールス・ロイス・ファントム・ドロップヘッド・クーペ(FR/6AT)ロールス・ロイスのフル4シータ・クーペ「ファントム・ドロップヘッド・クーペ」に試乗。世界最大級のコンバーチブルはどんな走りを見せるのか。
世界一優雅で自由な車
「ロールス・ロイス・ファントム・ドロップヘッド・クーペ」は、2004年のジュネーヴでベールを脱いだロールス・ロイス創立100周年記念のコンセプトカー「100EX」の市販バージョンであり、ファントム・サルーンをベースにした世界最大級のコンバーチブルだ。
開発時には実際にファントムのルーフを切ったプロトタイプも作って検討したらしいが、エレガントなプロポーションを得るために結局ファントムより7cmほど低く、25cm短い全長5609×全幅1987×全高1581mm、ホイールベース3320mmというサイズに落ち着いた。依然として堂々たるボディのパネルはすべて新しく、構造部品も4割が専用品だという。
薄目のようなLEDのポジションランプがついたフロント部はファントムよりずっと傾斜がつけられたが、一種異様な押し出し感は変わらない。それ以外の特徴は前開きの「コーチドア」とヨットのようなチーク材のリアデッキだ。大きく開くコーチドアはスペースフレーム構造を活かしたもので、後席にも優雅に乗り降りできるだけでなく、三角形のAピラー部分を形作ることでミシリとも言わない強固なボディに貢献している。たった今磨き込んだようなチーク材のデッキは、本拠地グッドウッド近郊の造船技術を取り入れたもの、1台分のウッドパネルのマッチングや成形、仕上げには最長1ヵ月もかかるという。
ソフトトップはこのデッキの下に格納される。ちなみにショーカーで好評だったために採用したというブラッシュ仕上げのステンレススチールのボンネットとAピラーはオプションである。
電動トップのメカニズムと補強材のせいで当然重量はファントムより増えているが、ボディが短くなっているおかげで重量増加は70kg程度に留まっている。とはいえ、車重2620kgもあるこの車を460ps/5350rpmと73.4kgm/3500rpmを生み出す6.75リッターV12とZF製6段ATは、リミッターの働く240km/hまで引っ張るうえに、0-100km/hは5.9秒でこなすと発表されている。これは5ATの「ポルシェ・ケイマンS」を凌ぐほどの駿足である。
この値段は高くない
「ファントム・サルーン」もそうだが、実際このドロップヘッド・クーペもまったく鈍重さを感じさせない。
丘陵地帯に点在する街の中の狭い道ではさすがにそのサイズに気を遣うが、高速道路でも山道でも見た目からは信じられないほど軽快に、かつ滑らかに走る。
やや高めの着座位置のせいか、スピードを上げるとそれなりに風が巻き込んでくるが、もし同乗者から不満が出たら25秒で開閉するトップを閉めればいい。カシミアをブレンドしたインナーが張られた5層構造のソフトトップが、たちまち極めて静かなフル4シーター・クーペに変身させてくれる。不整路面でほんの時折、わずかなバイブレーションがフロアに伝わることを除けば、オープンカーゆえの弱点はまったく看取できなかった。
ロールス・ロイスのように他に代え難いユニークなクルマを作るメーカーはクラスやセグメントなどという言葉を気にしなくても良さそうだが、やはりビジネスの世界では常に立ち位置を確認しなければいけないらしい。同社のイアン・ロバートソン会長兼CEOによれば、過去10年間で車両価格10万ユーロ以上のスーパーラクシュリー・セグメントの市場規模は6倍に拡大し、今では3万台に増えたという。
その分析を踏まえて、現在グッドウッド工場は次のニューモデルのための施設を拡張中だ。ファントムよりは小さい“ベイビー・ロールス”は2009年には登場すると言われているが、ただしその場合でも生産台数は昨年の805台の2倍程度に留まるという。ロールス・ロイスはあくまで特別な、ユニークなクルマであり続ける。自動車の世界に新たな再編の嵐が吹き荒れている今、ぶれないブランドの強さを改めて目の当たりにしたイタリアの週末だった。
コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドが発表しているドロップヘッド・クーペの日本での価格は5218万5000円。この夏から生産が始まる予定だが、年間200台程度という生産キャパシティのおかげで、すでに来年分まで行き先が決まっているらしい。ファントムよりさらに800万円ほど高いこんな数字には縁がない私が言うのもなんだが、この値段は決して高くない。
(文=高平高輝/写真=Rolls-Royce Motor Cars/『CG』2007年8月号)

高平 高輝
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