サーブ9-5Aero2.3TS(5AT)【試乗記】
依然として個性派、9-5の完成型 2002.01.31 試乗記 サーブ9-5Aero2.3TS(5AT) ……530.0万円 サーブの2002年モデルは、大きな変化がもたらされた。特に「9-5」シリーズは、1200箇所におよぶ改良が施され、加えてエンジンのパワーアップ、5段ATの採用が行われた。また、サーブの全モデルに、スポーティグレードたる「エアロ」が設定されるなど、改良点は多い。新しくなったサーブ「9-5エアロ」に、エグゼクティブディレクター大川悠が試乗した。新世代への転換を前に
S60以降、フォードPAG(プレミアオートモーティブグループ)の助けも借りて、かなり積極的にニューモデル展開をしているボルボに対し、もう一つの北欧の雄たるサーブはちょっと地味である。というよりは、一歩一歩我が道をしっかりと辿っている。
だが、そのサーブもどうやら大きく変化しそうだ。その兆しは去年の東京ショーに展示されたコンセプトカー「9X」、そして今年のデトロイトで出品された「9-3X」である。ともに多機能でありながらも、あくまでもスポーツクーペの理想を狙ったモデルであり、デザイナーのアンソニー・ロウは、東京でもデトロイトでも「何とかものにしたい」と語っていた。サーブの関係者も、今後2〜3年にどんどん新型を出すが、そのなかにはサーブ久々のスポーツカーが含まれることを公言している。
今回日本市場に導入された9-5の新型は、意地悪なプレスの目を持ってしても前のモデルと区別できないぐらい、一見変わっていないようだが、そこには9-3でも見られたサーブ特有の「目では見えないが、身体で感じるはず」とも言うべき実質的改善の積み上げがあるという。つまり1997年のデビュー当時に比べると、1200カ所以上が改変されているが、サーブ固有のデザインやキャラクターは維持されているというのがその主張。9-5はこれが完成型といえる。
一方9-3の方は、ジュネーブショーで発表される新型オペル・ベクトラのプラットフォームを使って、早ければ秋にでもフルチェンジ、その時にコンセプトカー・ベースのスポーティ・ボディも出てくる。という計画が見えてくる。
社会が高い国のクルマはやや高い
1200カ所をいちいち紹介できない。外観は3分割が明瞭になったグリルと大型化されたキセノンのヘッドランプ、ちょっと造形が変わったテールぐらいが識別点。グレード表示が変わって、ベースが「リニア」、高級版が「アーク」、そして従来通りスポーツ版が「エアロ」となる。それが室内にも表現され、リニアとアークが明るいウッドのダッシュパネルを用いるのに対してエアロはアルミのヘアライン仕上げ。細部の衣装や材質も相応に異なる。
技術的にはエアロのエンジン、トランスミッションと、全モデルに標準のアンチスピンデバイス「ESP」が見所。まずエアロの4気筒2.3リッター・ユニットはターボ圧が高められ、20ps増しの250psとなった。最大トルクはATは33.7、日本でもオプションで入るMTは35.7kgmだが、20秒のオーバーブーストを許すために強化されたアイシンのアダブティブ式新型5段ATが採用されている。さらに全車にボッシュと共同開発したESPが採用される。
価格は4気筒2.3低圧ターボのリニアが435.0万円、同エステートが460.0万円、3.0V6のアークが515.0万円、同エステートが540.0万円、そして4気筒高圧ターボのエアロが530.0万円、同エステートが555.0万円。今回多少値下げされたが、それでもやや割高に感じるのは、ボルボと同様で、北欧の社会そのものが高いからだと理解すべきだろう。
明瞭な自画像
試乗できたのはエアロのセダン、左ハンドルだけだったが、半年前に北欧で乗ったときと基本的な印象は変わらない。競争の激しいプレミアムDセグメントで、いかにして自分というものをわきまえ、それがどうあるか、何をもって個性とし、何を訴えるか、それが分かっているクルマということだ。
ややこしい言い方をやめれば、依然として個性的、それだけでいい。理詰めで実質的にできているから、相変わらずアメリカ東海岸のインテリにも受けるだろう。
何よりもボディがしっかりしている。基本的には同系のプラットフォームを使っている9-3より格段に剛性が上がり、それがハンドリングや乗り心地を含めたすべてに貢献している。西湘バイパス特有の路面の継ぎ目では、確かにかなり質量の大きなバネ下が動いているのは音と感覚で分かるが、すべてボディが受け止めるから、それが不快な振動として伝わってくることはない。この路面でもっとも乗り心地のいいクルマの一つと断言できる。
ステアリング感覚は良くも悪くもパワフルな前輪駆動のそれで、9-3のエアロやビゲンほどではないが、確実にトルクステアは感じる。だからといってハンドリングそのものが悪いのではない。徹底的に安定しているし、非常にうまいターボの使い方(こういう面もはなぜか同じ国のボルボとも共通している)によって、飛ばせばそれなりに面白い。また新規採用のESPの効果は、すでにスウェーデン試乗会の時、滑走路で設けられた特設コースで確認している。ややフェードしやすいブレーキが難点だろう。
2.3の4気筒は、100km/hは2000回転だから静かでのんびり、そしてそこから踏み込むと相当にダイナミックである。ただしエンジンノートは上に行っても快音にはならない。真面目に回っている音で、それもまたサーブらしい。
「明瞭な自画像」というのは、半年前に乗ったときに『Car Graphic』の記事で自らつけたタイトルだが、今回もまた、それを確認してきた。
(文=webCG 大川 悠/写真(スタイリング)=難波ケンジ/2002年1月)
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大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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