キャデラックCTS 3.6(FR/5AT)【短評(後編)】
挑みたくなる新OS(後編) 2005.10.11 試乗記 キャデラックCTS 3.6(FR/5AT) ……618万円 キャデラック「CTS」の新型3.6リッターV6モデルに改めて乗り、ハードでなくソフトも新しいクルマであることを確認したという。触らぬ神に祟りなし
細かいことは省くが、きちんと分厚いマニュアル(それもPCのマニュアルと同じで、理解しにくいことといったらない)を読まないかぎり、走らせることはできても、ドライバーはひどく困る。キーを入れてエンジンを回した瞬間に、ドライバーズシートは勝手な位置(以前設定されていた位置)に動いてしまうし、ポジションのメモリーがどこにあるのかもわからない。カーナビ画面の操作はともかく、オーディオは難関だった。どうやって選曲したらいいか迷って、勝手なスイッチを押すと、なぜかFM群馬などという、聞いたことがない放送局のディスプレイが出たりする。ステアリングスポーク左上の4個のボタンが選局ダイヤルだと思って勝手に触ると、急にエアコンの温度が上がり、しかもファンから勢いよく熱気が出たりする。あわてて隣のボタンを押せば、トラクションコントロールの解除警告になったりする。
というわけで、借り出した夕方、ともかくシート位置を合わせ、カーナビだけはONにし、エアコンは借りた状態のままで我慢、オーディオには一切手を触れず、「触らぬ神に祟りなし」「藪をつついて蛇を出すのはやめよう」と、口で唱えながら帰宅した。何故かトラコンの警告灯は付きっぱなしだし、燃料も残り少ないのはわかっていたが、どうしてもトリップの数値が出せないので、おそるおそる自宅に収めた。
まるで昔シトロエンDSに乗ったときみたいだった。
忍耐と努力を要するクルマ
夜、ゆっくりとマニュアルを読んだ。そして理解した。「あ、これは動くパソコンだ。ということは初期設定がいるんだ」。マニュアルにはユーザー設定のフローチャートが載っていた。それからするとまず「DIC(Drive Information Center)」のスイッチから入って、次から次へといくつかの階層に入りながら設定することがわかる。最初はドライバー登録をし、それからオートライトの減光時間や、前述の自動メモリーシート、キーレスエントリーの設定(ドアロック時、アンサーバックするかどうか、それもライトでするかホーンでするか等々)、さらにインフォメーション画面設定、ドアロック関係設定、オーディオ設定等、延々と自分で初期設定してやらなくてはいけないのだ。ついでに言うなら、前述のスポーク上の4スイッチは、12種類の機能設定から割り当て機能を選べる。
だが、選べるということは、選ばなくてはいけないということでもある。オーナーたるもの、すべてを設定をしなければいけないのだ。デフォルト設定で適当にやってよ、と言いたいところだけど、ものによってはそうもいかない。
説明書と首っ引きで一度トライしてみると、それなりにロジックが通っていて、そのロジックを理解すれば大丈夫なことがわかる。でもそれには、ややこしいマニュアルと我慢して付き合い、なんとかそこに書いてあることを理解し、それを実践すべくクルマの中で何十分もかけて、ああだこうだと操作するという多大な忍耐力をユーザーに要求する。まさにパソコンと同じで、実際にアメリカでも日本でも、完全に自身で納得できるように設定し、フルに活用しているドライバーが何人いるか、非常に疑問に思った。
走ればいいクルマなんだけど
こんなことで紙数が尽きそうだ。急いで印象記を付け加えておく。
まず3.2リッターに代わって新設定された3.6リッターのV6はとてもいいユニットである。基本的にはフラットトルクだが、パワーがかなりドラマティックに出てくるのが気持いい。スムーズだし吹け上がりが軽く、最近のV6では最良のエンジンの一つではないかと感じた。ついつい4000以上から6500rpmを目指して回したくなる。それに組み合わされる5ATのレスポンスもいいが、おしむらくはシフトゲートがD、4、3、2と旧式な一列式。メーターにギアポジションが表示されないのも不便だ。
乗りごこちやハンドリングも従来より洗練された。特に低速でタイヤがバタ付くことがなくなったし、全般的に突っ張り気味だった足は、ずっと柔軟になった。ブレーキは容量が増えたためか、以前よりもはるかにフェードしにくい。ただしGMご自慢の磁気コントロール式可変パワーステアリングたるマグナステアは、依然として全体的にやや重すぎるし、不自然な感覚も伴うが。
このCTS、ブリーフテスト式に★で評価すると、非常に不利になると思う。エンジンとハンドリングは★が3つぐらいになるだろうが、リアシートなど1つだろう。これはあくまでもドライバーズカーとして考えられているから、リアはヘッドルームも足らず、ほとんど前が見えないのだ。それにインパネ関係になると★がマイナスになってしまうのは、縷々説明したからもう書かない。
つまりCTSはCTS。まったく他とは違ったクルマなのである。マックファンがウィンドウズを嫌うように、これに馴染めないユーザーも少なくないだろう。でも見方によれば、この完全に割り切った新しい車像の追求こそ、このクルマの価値であり意味でもある。すべてのハンディも承知の上で、この新しいOSに挑戦し、このクルマを完全にパーソナライズしてみたいという衝動が脳裏をかすめた。
(文=大川 悠/写真=荒川正幸/2005年10月)
・キャデラックCTS 3.6(FR/5AT)【短評(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000017210.html

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
-
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】 2026.10.17 三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。























