第3回:アメ車がドンドン小さくなる!
〜フルサイズSUVの終焉と、Bセグメントの拡大〜(桃田健史)
2006.08.10
アメ車に明日はあるのか?
第3回:アメ車がドンドン小さくなる!〜フルサイズSUVの終焉と、Bセグメントの拡大〜
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ガソリン価格高騰は世界的な問題。燃料大食いのフルサイズSUV、ピックアップが闊歩するアメリカでも、どうやら大きな影響が出ているらしい。フルサイズを捨て、人々が求めたクルマは……。
■一気に2クラスもダウンサイジング
2006年に入り、レギュラーガソリン小売価格ガロン(3.785リッター)あたり、3ドルの壁を破ることもしばしば。これは日本円でいえば、リッターあたり約91円の計算だ。
日本ならこれでも安く感じるかもしれないが、アメリカでは5、6年前までこの2分の1以下。さらに1990年代中盤では、現在の4分の1程度だったのだから、現状価格は尋常でない。現状を日本市場でイメージするなら、リッター200円、いや250円を突破したようなものだろうか。
こうしたガソリン価格高(=原油先物市場高)のトレンドは、今後数年間続くと専門筋は言う。
こうしたなか、トヨタ、ホンダを中心とした日系メーカーのディーラーでは、トレードイン(下取り車)の巨大在庫ができあがっている。「シボレー・サバーバン」「フォード・エクスペディション」「シボレー・タホ」「GMCユーコン」「フォード・エクスプローラー」「シボレー・トレイルブレイザー」「ダッジ・デュランゴ」など、米ビッグ3のフルサイズSUVたちが溢れかえっている状態だ。
では、これらSUVのオーナーは、次に何を買ったのか? よくあるパターンは、フルサイズSUVからミッドサイズSUVへの「1クラスダウンサイジング」だ。
(例:「シボレー・サバーバン」→「トヨタ・ハイランダー(クルーガー)」「ホンダ・パイロット」)
また最近は、SUVを捨ててセダンへ回帰する傾向も強くなっている。この場合のセダンとは、Dセグメントと呼ばれるミドサイズセダンである。
(例:「フォード・エクスプローラー」→「トヨタ・カムリ」「ホンダ・アコード」)
しかし、なかにはSUVから一気にCセグメントへ「2クラスダウンサイジング」するケースも珍しくはなくなった。
(例:「シボレー・サバーバン」→「トヨタ・カローラ」「ホンダ・シビック」)
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■Bセグメントに火がついた
アメリカ人たちが騒ぐ、「燃費、燃費、燃費」。まず、燃費。ふたこと目にも、燃費というのが最近のクルマの見方だ。
アメリカで販売されるクルマの燃費表記は、「23/28」のようにふたつの数字が併記されている。これは、「シティ/フリーウェイ」でのガロンあたりの走行距離(マイル)。最近のアメリカ人たちは、すっかりこの数字を頼りに新車選びをするようになった。
「大きなSUV? 燃費悪いからいらない」、と言う。
じゃあ、大きくて安全&安心だからといって大型SUVを買っていた奥様たちは? 実はこちらも「大きなSUV? 燃費が悪いから興味ないわ」という声。大型SUVブームに踊らされて、“子供の安全”を唱えていた彼女たちも、ものの見事に手の平を返した。
「セダンで十分ヨ」とまで言うありさまだ。
しょせん大型SUVはファッションだったのだ。最近、日系メーカーでも大型SUVの売り上げは大きくスローダウン。こうして90年代に火がついた大型SUVブーム(フルサイズSUV/一部のミドサイズSUV)は終焉を迎えた。
これと入れ替わりに、Bセグメント(日本でのコンパクトカー)市場に火がつき始めている。
昨2005年末から今年前半に相次いで米国初登場した「トヨタ・ヤリス(ヴィッツ)」「ホンダ・フィット」は販売先の予想を大幅に上回る好調な出足。ニッサンはそれを追って今夏、「ヴァーサ(ティーダ)」投入。マツダも「デミオ」投入を模索中だ。
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■ビッグ3もコンパクトカーを追加予定
さらに2008年、「スマート・フォーツー」の米国正式上陸が決定された。レース界の長老であり、カーディーラー界の大御所、ロジャー・ペンスキー氏率いるユナイテッド・オートが独占輸入販売するのだ。この流れを受け、日系各社では本気で、軽自動車の米国上陸を検討している。
「アメリカ人は小さなクルマは買わない」と、長年に渡りいわれてきた。衝突時の安全を気にするし、一般的に身体の大きなアメリカ人には物理的に小さいクルマは不向き、とされてきた。
よって、アメ車は現在、Cセグメント、Bセグメント、そしてこれから旬を迎えようとしているコンパクトSUVのラインナップがかなり貧弱なのだ。
その打開策として、フォードは3年以内に新型コンパクトカー導入を明言。ここは当然、同グループ傘下のマツダの技術力に頼ることになる。またGMは自社開発せず、ニッサンから多種多様な供給に頼ると見るのが妥当だろう。ダイムラー・クライスラーは、三菱自動車から購入したコンパクトカープラットフォームを様々なカタチで実車化し始めている。
「エスカレード」「ハマーH2/H3」など、キワモノSUVには、この先も客はつくだろう。だが、ボリュームゾーンの「通常アメリカンSUV」たちは今後、限りなく小さくなっていくに違いない。ダウンサイジングのトレンドは、もう誰も止められないのだ。
(文と写真=桃田健史(IPN)/2006年8月)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
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第11回:ガンバレ、アメ車たち!(後編)〜ビッグ3にエールを 2007.3.1 「アメ車に明日はあるのか?」というエッセイの締めくくりとして、米ビッグ3それぞれを分析しようと思う。今までの取材に加え、ここ1ヶ月ほどの取材で痛感したことも多い。
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第9回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(後編) 2006.12.29 ■古い設計でも十分と考えるフォードGMに続き、フォードの試乗エリアに来てみると、ウェイティングの人があとを絶たない。そう、皆、「シェルビーGT500」(5.4リッターV8、500ps)にどうしても乗りたいのだ。それほど“シェルビー効果”は、典型的なアメリカ人に有効なのだ。その乗り味を一言で表現すると「意外と、普通」。エンジンONでV8がドロドロすることもないし、低速走行でサスがガシガシ、ゴツゴツもしない。「なんだか拍子抜けしちゃう」ほど、普段のドライブに向いている。アクセル全開で、イートン製ルーツ式3枚歯スーパーチャージャーが「ウギュワァーン!」と叫ぶ。だが、遮音性が意外と高く、うるさいと思う音量・音質ではない。直線でフルスロットル。リアサスがじーんわりと沈みこみ、ズッシーンと加速する。コーナーに進入。トラクションコントロールをONにしたまま、この手のクルマとしては中程度の重さとなるパワステを切る。ステアリングを切ったぶんだけクルマ全体が曲がるような安心感があるのだが、ステアリングギア比が意外とスローで、結構な角度まで切りたす必要があった。ロール量は、乗り心地と比例して大きいが、「この先、どっかにブッ飛っンでいっちゃうのか!?」というような不安はない。ちなみにトラクションコントロールOFFで同じコーナーを攻めてみると、意外や意外、コントローラブルだった。このボディスタイルからすると、スナップオーバー(いきなりグワーンとリアが振り回される現象)を想像してしまうのだが……。日系自動車メーカー開発者たちはよく「こんな古い基本設計のリアサスでいいのか?」といっている。しかし、シェルビーGT500の目指す「大パワーを万人向きに楽しく&乗りやすく」は、十分満たされている。なお、系統は違うが、期待のミドサイズSUV「エッジ」でも同様に、マイルド系ズッシリ乗り味は表現されていた。
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第8回:アメ車の味とはなんなのか? 〜日欧のクルマと違う道へ(前編) 2006.12.28 毎年恒例、米国メディア団体のMPG(Motor Press Guild)主催のトラックデー。日米欧韓各自動車メーカーが最新型車両を持ち込み、サーキットと一般路で走行体験をさせてくれるビッグイベントだ。今回集まったのはおよそ130台。アメ車たちは他国モデルのなかに埋もれず、個性を出していたのだろうか?■アメ車の個性をハイパフォーマンスモデルで試す皆さんはこんなことを思ったことはないだろうか。「クルマの技術って、メーカーによってそんなに違いがあるの? どのメーカーだって、最新コンピュータ技術を導入しているし、生産技術は上がっているし、他社関連の情報だってウェブ上に溢れかえっている。だいたい、比較車両としてどのメーカーも競合車は購入してバラバラにして詳細解析しているのだから、同じ価格帯のクルマならどこのメーカーも似たようなクルマになるでしょ……」確かに一理ある。ところが、現実には各社モデルには技術的な差がある。その差を背景として、各車の“味”も変わってくる。特に、乗り味、走り味の差は大きい。その原因は、購買コスト&製造コストとの兼ね合い、開発責任者のこだわりやエゴ、実験担当部署の重鎮との社内的なしがらみ、開発担当役員の“鶴の一声”……など様々だ。ではそうした差は、アメ車と日欧韓車、いかに違うのか。今回の「トラックデー」で、約50台のステアリングホイールを握ったが、そのなかでも各社が力を入れ、アメ車の色が濃く出ているハイパフォーマンスモデルに絞って、乗り味、走り味を比較してみたい。場所はウイロースプリングス・ロングコース(1周約3km)。ここでは200km/hオーバーの高速コーナリングから、ハードブレーキングまでチェックできるほか、近場の一般道でも乗り心地などを試すことができる。
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第7回:アフターマーケットでの成功を狙って〜米ビッグ3のビジネス舞台裏〜(後編)(桃田健史) 2006.11.15 ■会場はレトロな雰囲気スターがいない。これが、今年のSEMAショー全体を見ての率直な感想だ。SEMAショーではここ数年、「ハマーH2」「クライスラー300C」や、ホンダ系プライベーター主導のジャパニーズ暴走族、などアメリカの社会背景を映し出してきたクルマたちが華やいでいた。だが今回は、次世代のスターの姿が全く見えてこなかった。毎年キャッチコピーや『Car/Truck of the Show』というテーマを祭り上げて、ショー全体の雰囲気作りを行っているSEMAショーの今年のテーマは『American Musclecar』。会場正面玄関には歴代の「フォード・マスタング」「ダッジ・チャージャー/チャレンジャー」「シボレー・カマロ/コルベット」など、V8ドロドロなアメリカン魂たちがレッドカーペットの上で整然と構えていた。ということで、会場内のあちこちにも60年代のレトロな雰囲気が蔓延していた。アメリカングラフィティ世代の初老のカーファンたちは「いやー、昔のアメリカはほんと、楽しかったわいなぁ……」とノンビリとした足取り。
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