スバル・インプレッサS204(4WD/6MT)【試乗記】
目を見張るパフォーマンスダンパーの威力 2006.02.04 試乗記 スバル・インプレッサS204(4WD/6MT) ……480万9000円 「スバル・インプレッサWRX STI」をベースに独自の装備を施したコンプリートカー「S204」。シリーズ第4弾として進化し、高いエンジン出力となった最新モデルに乗った。主な改良点
レーシングカーからスポーツカーが生まれるように、ラリーカーからスポーツセダンを創り出しても不思議ではない。その昔もグループBカーにナンバーをつけ、街乗りにしていた例もある。極く少数の硬派のためのクルマはそれなりに魅力的、このS204はまさにそんな車の発展型だ。
インプレッサWRCは競技車のベースゆえに、より戦闘的でスパルタン。そこにもう少し街乗り用の洗練度を加えたのがS204だ。600台の少数限定生産ゆえ、年度版の改良が可能で、昨年のS203に続いて今年はS204に進化。その主な変更点は、(1)パフォーマンスダンパーの採用、(2)車高の15mmダウンとスプリングレートの50%アップ、(3)リアスタビライザーの強化(20P から21P へ)、(4)リアサスペンションの取り付け部のピロボール化である。
この変更点を額面どおりに受け取ると、リアをしっかりさせて、ステア特性をアンダーからよりニュートラルな方向へ、乗り心地を多少犠牲にしても良路のコーナリング能力を高めた……と受け取れるが、パフォーマンスダンパーって何だ?。実はコレが今回の改良の目玉である。
パフォーマンスダンパーとは
ボディ剛性を高める手段として、ストラットタワーバーであるとか、サスペンション取り付け部周辺にロッドで左右間の突っ張り棒を入れて、ボディ強化する方法はよく知られている。しかし、ここだけ固めればいいというものでもない。剛性バランスが崩れれば弱い箇所にしわ寄せが行くからだ。
ご存知のように、剛性とは入力に対する変形量の多寡で判断される。つまり、固くても柔らかくても少しは変形するのだ。裏返せば、固いほどその反発も強いということになる。よってここにも(1mm以下の微小変形であっても)ダンパーの介在する余地がある。入力を反発させずに収めてしまえ、という考えのもとにヤマハが考え出したのがパフォーマンスダンパーだ。
このことを聞いた瞬間に、目からウロコ的な効果が予想できた。当日は一般道の試乗ゆえ、大きな入力は試せなかったものの、ステアリングの切り始めとか、微小域の切り返しなどで実に素直な感触を味わえた。
可動部の取り付け点など、微小領域は固めてしまえばそこまでの動きはリニアになる。ただ、方向性の逃げや抑えは降伏点を過ぎると極端に変化することも多く、特性が折れ曲がる区間をなだらかに繋げるだけでも、限界を上げる効果はあるのだ。さらに入力を減衰させてしまうとなれば、その効果は歴然としている。S203のオーナーもコレを追加するといいだろう。
洗練まで、もう一歩
S204そのものの感想としては、8000rpmまできれいに回るエンジンの320psと44.0kgmのパワー&トルクも楽しめるけれども、素直に回頭する操舵感の良さや、グイグイ回り込む旋回特性に魅力を感じた。殺気をなだめた外観は、まだ多少目立つけれども、アスリートのスーツ姿を思わせるし、チタンマフラーの発する咆哮は見せかけだけのものと違い、ちゃんと上まで回した時にこそ真の音色を奏でる。
このクルマをそれらしく走らせることが出来る分別を持った人にとっては、最高のオモチャだろう。しかし、480万9000円はちょっと高い気もする。買えないヒガミで重箱の隅をつつくならば、細かな指摘はいくつかできる。
1脚50万円以上すると言われるレカロシートは最初はタイトでも、カーボンファイバーのベースフレームの、強度は高かろうが変形を許すから、次第に馴染んでいくだろう。しかしチルト機構は備わるものの、テレスコピック調整機構のないステアリングは、肘の部分でスペースが稼げずシートに当たって操舵が妨げられる。
3つのペダルは、それぞれの踏力とストロークの関係、そしてイニシャルのハイトなどがバランス悪く、スムーズなヒール&トウがやりにくい。ペダルの支持剛性などももっとヘビーデューティにしたいところだ。
6MTのギア比については、もっとクロースしたレシオが欲しい。これは競技車ではないのだから、ゼロヨンよりもステップアップ比を重視すべきだ。そんな生産車のパーツを寄せ集めただけの部分も散見される。洗練されたスペシャルチューンとは、そうした微細なところにも神経をつかうべきものだと思う。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏/2006年2月)

笹目 二朗
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
NEW
メルセデス・マイバッハS680エディションノーザンライツ
2025.9.19画像・写真2025年9月19日に国内での受注が始まった「メルセデス・マイバッハS680エディションノーザンライツ」は、販売台数5台限定、価格は5700万円という高級サルーン。その特別仕立ての外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか?
2025.9.19デイリーコラム中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか? -
NEW
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.19試乗記プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。 -
ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.9.18画像・写真欧州在住のコラムニスト、大矢アキオが、ドイツの自動車ショー「IAAモビリティー」を写真でリポート。注目の展示車両や盛況な会場内はもちろんのこと、会場の外にも、欧州の今を感じさせる興味深い景色が広がっていた。 -
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ
2025.9.18エディターから一言BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。 -
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?
2025.9.18デイリーコラム本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。