アウディA3 3.2クワトロ(6MT)【ブリーフテスト】
アウディA3 3.2クワトロ(6MT) 2004.01.06 試乗記 ……504.5万円 総合評価……★★★★ フォルクスワーゲン由来のV6に、夢のマニュアル「DSG」を組み合わせたA3のハイエンドモデル。アウディのニューコンパクトモデルに、自動車ジャーナリストの生方聡が乗った。
|
秘めたるホットハッチ
生まれ変わった「アウディA3」のトップモデルとして位置づけられるのが、「A3 3.2クワトロ」である。3.2リッターの狭角V6エンジンを搭載するこのモデルは、外観こそ上品にまとめられているが、豪華さよりもスポーティさを秘めるホットハッチなのだ。
フォルクスワーゲンにも、同じ3.2リッターV6を積むホットハッチ「ゴルフR32」が存在する。とはいえ、最新のシャシーに加え、9psパワーアップしたエンジンを手に入れたA3 3.2クワトロの優位性は、否定のしようがない。ボディ剛性の高さや軽快な身のこなし、力強くフレキシブルなパワーユニットはかなり魅力的だ。さらに、組み合わせられる新世代オートマチック「DSG」(ダイレクト・シフト・ギアボックス)が、マニュアルギアボックスのダイレクト感とオートマチックのイージードライブを両立する。これなら、あえてマニュアルを選ばなくてもいいと思うほどだ。
そんなスポーティなクルマが、限定車ではなくカタログモデルとしてラインアップされるのはうれしいかぎり。2ドアとはいえ、ハッチバックならではの実用性を備えるから、世のお父さんが家族を説得するにも好都合といえるだろう。
|
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
“プレミアムコンパクト”を標榜する、アウディのスポーツハッチ「A3」。2代目は、2003年のジュネーブショーでデビューした。日本への導入は、2003年9月から。
ラインナップは、「FSI」こと直噴化された2リッター直4DOHC16バルブ(150ps)を積む「2.0FSI」と、その上級版「2.0FSIスポーツ」。さらに3.2リッターV6DOHC24バルブ(250ps)を搭載する「3.2クワトロ」が用意される。トランスミッションは、4気筒がティプトロニックの6段(!)AT、V6が「DSG」と呼ばれる2ペダル式6段MTとなる。
サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット/コイル、リアは先代のトーションビーム式から、4リンク/コイルの完全独立式に進化した。
(グレード概要)
A3シリーズのトップグレードが「3.2クワトロ」。目玉は、250psを発する3.2リッターV6と、シーケンシャル6段MT「DSG」(ダイレクト・シフト・ギアボックス)のパワートレインである。DSGは、1、3、5速、2、4、6速それぞれに2枚のクラッチ板を割り当て、常時次のギアを用意。シフト時に切り替えを行い、スムーズなギアチェンジを実現した。駆動方式は、アウディお得意のクワトロ(=4WD)だ。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
大型のアナログメーターを採用するA3のメーターパネルは、機能性の高さを第一に考えながら、シルバーのリングでさりげなくスポーティさを表現。エアベントやドアハンドルなどにもアルミを用いて、アウディらしい高い質感と色気を漂わせる。試乗車にはオプションの純正カーナビ「MMS」が装着されており、メーター内の液晶ディスプレイにルート案内が表示されるのが便利だ。自動防眩ルームミラーが簡単にオン/オフできたり、フルオートエアコンが左右独立して温度設定できるなど、細かい部分の配慮もうれしい。
(前席)……★★★★
A3 3.2クワトロには、サイドサポートの張り出したスポーツシートが装着される。スライドやリクライニングは手動だが、ランバーサポートのポジションや張り出しは、電動で細かく調整可能。標準では、アルカンタラ/レザーの組み合わせになるが、試乗車にはオプションのフルレザーシートが装着されていた。運転席まわりの収納スペースに不満はなく、また、トンネルコンソールに埋められた、スペースをとらないパーキングブレーキレバーは、アウディらしい気の利いたデザインといえる。
(後席)……★★★
3席とも、3点式シートベルトとヘッドレストを備えるA3の後席。試乗車にはオプションのスライディングルーフが装着されていたが、ヘッドクリアランス、レッグルームともに十分な広さが確保される。シートバックの角度も適当で、窓側のアームレストとあいまって、後席でも快適な座り心地だ。ただ、スポーティなこのモデルの場合、走り出すと路面の凹凸を拾うため、後席の乗り心地はいまひとつ。
(荷室)……★★★
ノーマルで奥行き75cm、リアシートを倒せば135cm以上のラゲッジスペース。出っ張りがすくないこともあって、このクラスのハッチバックとしては十分なスペースを誇る。最近、ダブルフォールド式のリアシートが減る傾向にあるが、このA3もそのひとつ。シートバックを倒すのに、スイッチ操作だけで簡単に荷室が広がるのはいいが、積んだ荷物が前席に飛び込んでこないか不安になるのは私だけだろうか?
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
ゴルフR32と同じタイプの3.2リッターV6エンジンは、さらに磨きがかかった。最大出力250ps/6300rpm(R32は241ps)、32.6kgm/2500〜3000rpmを誇り、体感上もゴルフとはまるで別物。下は1200rpm付近から上はレブリミットの6500rpmまで、実に力強く、かつ、スムーズで、レスポンスに富む気持のいいエンジンに仕上がっている。
組み合わせられる「DSG」(ダイレクト・シフト・ギアボックス)は、マニュアルギアボックスがベースのセミオートマ。トルクコンバーター式ATを凌ぐ、スムーズなシフト操作とダイレクト感は新鮮だ。シフトアップ時のタイムラグも抑えられており、スポーツドライビングには打ってつけのシステムといえる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
シリーズのなかでもスポーティなグレードだけに、足まわりの味付けもやや硬め。加えて、225/45ZR17サイズのミシュラン・パイロットプライマシーの組み合わせでは、低速時に路面の凹凸を乗員に伝える。ただ、ハーシュネスはある程度遮断してくれるから、それほど辛い思いはしないで済みそうだ。高速走行時の直進安定性は高く、フラット感もまずまず。リアのマルチリンクサスペンションのおかげで、コーナリング時の軽快感も、先代に較べて高まった。電動パワーステアリングが、低速でやや軽いのが気になるところ。
(写真=峰昌宏)
|
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2003年
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:6845km
タイヤ:(前) 225/45ZR17 91Y(後)同じ(いずれもミシュラン Pilot Primacy)
オプション装備:MMSマルチメディアステーション+6連奏CDオートチェンジャー(29.0万円)/BOSEサウンドシステム+インテリア・ライティング・パッケージ(10.0万円)/電動チルト式2ウェイガラスサンルーフ(13.0万円)/レザーパッケージ(本革シート+シートヒーター)(15.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(7):山岳路(1)
テスト距離:306.3km
使用燃料:43.6リッター
参考燃費:7.0km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。

































