スマート・フォーツークーペBRABUS(RR/2ペダル6MT)【試乗記】
明確なアイデンティティを 2006.01.06 試乗記 スマート・フォーツークーペBRABUS(RR/2ペダル6MT) ……228.0万円 2人乗り超コンパクトカーとして誕生した「スマート」。そのオリジン「フォーツー」を2台乗り継いだ現役オーナーによる試乗ならぬ“私情”記。特別限定車「フォーツークーペBRABUS」に乗って思ったこととは……。
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スマート、危うし……。
ヨーロッパの都心部を走るクルマの平均乗員数は1.2人。大都市を走るドライバーは走行時間の50%を駐車スペース探しにあてている。ダイムラー・ベンツ(当時)がリサーチした結果がスマート誕生につながる。
メルセデスは全長2.5mの超小型車を本腰を入れてつくった。車両そのものから工場から販売網からすべて新調、新しいモビリティのあり方を真摯に模索、ニッチ市場で勝負を挑んだその姿勢に感服し、個人的には「クーペ」「カブリオ」(いずれも2001年型)と乗り継いで、すばらしいスマート・ライフを送っている……のはいいのだが、事業としてのスマートは当初からご難つづきだ。
スマートの生みの親のひとり、スウォッチの「SMH社」率いるニコラス・ハイエクが早々に抜け、100%ダイムラー・クライスラーのコンパクトカー部門になってからも首脳人事はころころと変わり、そして販売台数も低迷、利益はいまだに出せていない。
1998年のデビュー以来、スマートの販売台数は世界で80万台を数えた。スマート・プロジェクトの顛末を記した一冊『Smart Thinking』(Tony Lewin著)には、初期投資を回収するには年販20万台がノルマとあるが、これが正しければ既に140万台以上は売れていないといけない。
日本では、2000年暮れの「クーペ」(現フォーツー)導入に始まり、スリム化し軽仕様とした「K」(2001年10月発売、輸入は終了し現在は在庫分のみ)、「ロードスター」「ロードスタークーペ」(2003年9月)、そして初の5人乗り「フォーフォー」(2004年9月)合わせ、累計でおよそ2万台(2005年12月末まで)が海をわたってきた。
ちなみに、スマートに触発されたであろうスズキがつくった2人乗り軽「ツイン」は、2003年1月に発売され2005年9月に生産終了。この間1万45台が売れたという。
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普通のクルマに近づいた
ところで肝心の「フォーツークーペBRABUS」。チューニングメーカーBRABUS社とスマートが設立した合弁会社「スマートBRABUS社」によるハイパフォーマンスモデルというのだが、ハイパフォーマンスモデルというよりも、“グッと自動車らしいスマート”といったほうがいいかもしれない。普通のクルマのホイールベース程度しかない車両ゆえ、乗り味のアクが強いフォーツーが、普通のクルマに近づいた感じだ。
ノーマルモデル比14ps&1.5kgm増の698cc直3ターボは、発進時にも力強く車体を前に押し出してくれるから、ノーマル車(ましてや自分の01年型55ps・598cc)のモタモタした感じがなく、“信号グランプリ”でも安心だ。
もっともクセのある6段セミATは、MTモード含めスムーズに変速。しかもステアリング裏のパドルでシフトでき、手をのばしてシフターを前後させる面倒なギアチェンジから解放される。01年型オーナーは、この点が一番うらやましかった。
ひどいピッチングも軽減され、シフトのたびに前後に揺れるパッセンジャーの首の動きに申し訳なさを感じることもなくなった。
外観は2本突き出たデュアルクロームエグゾーストエンドや、1インチアップした6ツインスポークアルミホイール&ワイドタイヤなど各種パーツで箔が付き、また車内では、しっかり・しっとりとホールドしてくれる本革スポーツシートや本革トリム、アルミペダルなどが出迎えてくれる。エポックメイキングなウルトラコンパクトカーの完成形を見る気がしたのだが……。
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「ファンでエコで新しい」
どうも釈然としないのは、ただでさえ割高感のあるフォーツークーペ(154万3500円)よりも、さらに73万6500円も高いプライスのせいだけではないだろう。
エモーショナルな魅力を充分に備えているフォーツーは、見かけ以上に骨太で、道具としてとてもよくできている。シティコミューターとしての軽快なフットワーク、停めるスペースにも困らない異例の小型サイズ、低燃費、高速でもちゃんと飛ばせる走行性能、長距離旅行だってこなせる。
スマートBRABUSの“ハイパフォーマンス”や“上級”という志向は、なんだかフツー過ぎて、旧来の概念にとらわれすぎていて、どうも新しくないし、そこが“スマートらしくない”と思えてならない。
どうせ振るのなら、スウォッチのハイエクがかつて夢見たような、電気やハイブリッドを搭載したエコのベクトルに進めばよかったんじゃないの?
と思っているときにフランクフルトショーで「クロスタウン」なるハイブリッドのコンセプトカーがあらわれた。スマート・ブランドの救世主として期待したいところだが、懐具合を鑑みれば市販化は……。
小さくて、しかも2人以上が乗れる安くていいクルマは、ほかにもたくさんある。「ファンでエコで新しい」、スマートのレゾンデートルと将来には、このような明確なアイデンティティが必要とされているのではないでしょうか。4人乗りとか高性能とかよりも、もっと新しいことでアッと言わせてほしいと、老婆心ながら思ってしまう。
(文=webCG有吉正大/写真=荒川正幸/2006年1月)

有吉 正大
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