ホンダ・ステップワゴンG Lパッケージ/24Z(4AT/CVT)【試乗速報】
「ハレ」はいらない「ケ」のクルマ 2005.06.10 試乗記 ホンダ・ステップワゴンG Lパッケージ/24Z(4AT/CVT) …………244万6500円/329万7000円 ホンダの「ステップワゴン」がフルモデルチェンジして3代目となった。時を同じくして日産の「セレナ」も発表され、5ナンバーサイズのミニバン戦線はにわかに熱気を帯びてきている。床と天井に特徴を持つこのモデルに『NAVI』編集委員鈴木真人が乗った。手作りの「部屋」の中でデザインを構想
初代「ステップワゴン」が世に出た1990年代は、アウトドアでの利用がミニバンの大きな目的として想定されていた。大勢の家族や仲間と出かけて楽しもう、というコンセプトが自明のものだったのだ。特別なシチュエーションのための、「ハレ」のクルマだったわけである。時は流れてミニバン市場はすっかり成熟し、フツーのクルマとして認識されるようになった。今度のステップワゴンが目指すのは、快適で質の高い「ケ」のクルマである。
試乗会場には、手作り感あふれる木製のクルマの模型が展示されていた。木の床にソファを並べ、テーブルや棚を設えて観葉植物まで置いてあり、まさにくつろぎ空間としての「部屋」にしかみえない。デザインを構想するに際して、まずこの「クルマ=部屋」を作ってその中の空間を体験し、皮膚感覚から内外装のイメージを発展させていったという。床をフローリングふうにし、大きな天窓から柔らかな光を取り入れるという発想も、この中から生まれたのである。
部屋の中では、人はリラックスして緩やかな時を過ごす。特別なことを何もしなくても、満たされた気分でいられる。だから、新しいステップワゴンは、「広さ、使いやすさ、運転のしやすさ」を追求し、「リラクゼーションスペース」であろうとする。フローリングの床の上にソファがあり、トップライトが降りそそぐ。そんな、幸福な日常のイメージを体現しようとする。わざわざどこかへ出かけるのでなくて、家族の送り迎えや買い物に行く時にも快適なくつろぎをもたらすクルマ。
床と天井が肝心
ここ最近のホンダの路線を踏襲して、ステップワゴンも「低さ」を手に入れた。全高を75ミリ落として床を60ミリ落とし、見た目にもミニバン的な腰高フォルムではないことがわかる。先代まではむしろ高さを強調して内部の広さを感じさせようとしていたところからすると、正反対だ。乗り降りするときに、その低さを実感する。にもかかわらず、室内高は従来と同じ数値を稼ぎだしているのは立派だ。ちなみに、全長も45ミリ短くなっていながら室内長もまったく同じである。
テレビCMで強調されていた「フローリング」は、想像以上に気分のいいものだった。視線を落とすと木の床があるという状況は、どうしたってリビングルームにいるような錯覚を引き起こさせる。しかも、見上げると合わせガラスによって和らげられた日差しが満ちているのだ。5万2500円の「フローリングフロア」、9万4500円の「トップライトルーフ」は、ぜひとも選びたいオプションだと思った。
フローリングとはいっても、本当の木が使われているわけではない。燃えやすさが懸念されているのかと思ったがそうではなくて、傷がついたり水がしみ込んだりすることが障害となったのだそうだ。だから、樹脂に木目をプリントしたものに硬質なコーティングを施したものが使われている。力を注いだのは床を完全なフラットにすることだったそうで、たしかに真ん中が盛り上がっていたりしたら、とてもリビングルームにいる気分にはなれない。
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内に反して外はチョイ悪
エンジンは、2リッターと2.4リッターが用意され、それぞれ4ATとCVTが組み合わされる。特に活発とはいえないが、決定的な不満も感じなかったので、せっかく5ナンバーサイズなのだから2リッターを選ぶのが賢明なのではないかと思った。ただ、乗車定員通りに8人乗ったときには、相当歯がゆい思いをすることにはなるだろう。
運転席では高揚感を持つことはないが、平べったいデジタルメーターが広がる上方にはパノラミクな視界があり、気分は悪くない。柔らかな乗り心地も美点のひとつだ。リビングルームがゴツゴツ揺れていたのでは興ざめだから、これは大事なところである。ただ、2リッターモデルに比べると2.4リッターは明らかに硬く、不快な突き上げを感じたのは気になった。タイヤのプロファイルに65と60という差があったので、それが原因なのかもしれない。
もうひとつ、「箱のイメージを消したかった」というエクステリアだが、サイドに斜めに入れられたキャラクターラインは少々唐突に見えた。フロントマスクは、ホンダの最近の傾向に従ってチョイ悪で怖そうな顔になっている。内部の幸福感とはちょっと齟齬をきたしているようにも思えた。しかし、注文を付けるとしても、その程度。「ケ」のクルマに賢しら顔であれこれ小理屈をこねることこそ、野暮というものである。
(文=NAVI鈴木真人/写真=高橋信宏/2005年6月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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