トヨタ・カローラランクスZエアロツアラー(6MT)【ブリーフテスト】
トヨタ・カローラランクスZエアロツアラー(6MT) 2004.09.20 試乗記 ……248万1150円 総合評価……★★★ ハッチバック好きを自称する、自動車ジャーナリストの生方聡。「トヨタ・カローラ」シリーズのホットバージョン「ランクスZエアロツアラー」に乗った印象は?
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アクが足りない
ヨーロッパでは非常にポピュラーで、日本でも輸入車のエントリーモデルとして人気が高いFF(前輪駆動)2ボックス。しかし、日本では、「ヴィッツ」や「フィット」「マーチ」というリッターカークラスは元気がいいが、1.5リッター以上になると、ステーションワゴンやコンパクトミニバンにすっかりシェアを奪われて、影の薄い存在になってしまった。
しかし、取りまわしが容易なコンパクトなボディ、いざとなればワゴン並みに荷物が積めるラゲッジスペース、見た目より広いキャビンなど、ハッチバックの長所はたくさんある。そういう私も大のハッチバックファンなので、トヨタからこの「カローラランクス」が発売されたときは、密かに喜んだものだ。
詳しい評価は後述するとして、ひとつ残念なのは、カローラランクスに個性が足りないこと。実用車だからあまり押し出しが強くないほうがいいのかもしれないが、個性派揃いのヨーロッパ勢に太刀打ちするのなら、もうすこしアクが強くてもよかったのではないか。実用性の高さに加えて、なにか光るものが欲しいのである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2001年1月に発売された「カローラ」のハッチバックモデル。ちなみに、トヨタカローラ店で売られるのが「カローラランクス」、ネッツトヨタ店で販売されるのが「アレックス」である。
エンジンは、可変バルブタイミング機構「VVT-i」搭載の1.5リッター(105ps)と1.8リッター(132ps)、さらにバルブのリフト量も変化させる「VVTL-i」を採用した1.8リッター(190ps)の3種類。VVT-i搭載モデルには、FFのほか、4WDモデルも用意される。
(グレード概要)
カローラランクスのホットバージョンが「Zエアロツアラー」。アレックスの「RS」グレードにあたる。「Xエアロツアラー」と同様、エクステリアにフロントスポイラー、サイドマッドガードなどを装着。インテリアに、メタル調パネルやメッキのインサイドドアハンドルを使った“ちょっと豪華版”だ。190psユニット搭載車は、足まわりが強化され、フロントブレーキが大径フロントディスクブレーキ、ローダウンサスペンション&パフォーマンスダンパーが備わる。
2004年4月27日のマイナーチェンジで内外装の意匠に変更を受け、“スポーティ”が強調された。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
すっきりとしたフォルムのインストゥルメントパネルは、ヨーロッパ車、なかでもフォルクスワーゲンあたりを意識したかのように見えるデザインだ。
インテリアのアクセントになっているのが、トヨタが「メタルメッシュ調」と呼ぶデコレーションパネルだ。光沢の美しさには目を見張るが、全体としてはやや地味である。
メーターはアナログ式で、自光式の「オプティトロン」の採用とあいまって、速度計や回転計は見やすい。ただ、楕円形でメーターの中央部分に凹凸があるデザインは、個人的にはやや違和感をおぼえた。メーターはシンプルなのが一番だと思う。
Zエアロツアラーはランクスのトップグレードだけあって、説明しきれないほど装備は充実している。気になるのは、サイドエアバッグやカーテンエアバッグがオプションという点。ベース価格を安く見せたいのはわかるが、オプションゆえにこれらの安全装備を選ばない人が出てくるというのは、決して好ましい状況ではないはずだ。こういった安全装備こそグレードによらず全車に標準装着してほしい。
なお、試乗車にはオプションのG-BOOK対応DVDナビ付きAVステーションやブラインドコーナーモニター&バックモニターが装着されていた。見通しの悪い狭い路地から大きな道路に合流するような場合、時々不安になることがある。そういう場合に、このブラインドコーナーモニターは実に有効だと思う。
(前席)……★★★
スポーティなグレード、Zエアロツアラーの前席にはスポーツシートが装着される。クッションは厚いが、座り心地はフワフワではなく、しっかりした感触。これなら長距離でも疲労はすくなそうだ。
ステアリングホイールやシフトレバーは本革巻き。ドライバーまわりに小物入れも豊富で、運転する環境として、これといった不満はない。しいていえば、スポーティグレードらしい色気のようなものがあれば、もっと楽しい気分になるのになぁ……。
(後席)……★★
サイズはコンパクトでも広い室内を実現するのがFF・2ボックスの特長で、このランクスも例外ではない。167cmの私が運転席のポジションを決めて後席にまわると、膝の前には拳2つぶん以上の余裕があり、頭上も広々としている。シートそのものはソフトな感触。やや平板な形状のせいか、サポートは不足気味だ。
短時間ではあるが、後席に乗って移動したところ、乗り心地は硬く、路面によっては突き上げられることがあった。スポーツモデルだけにやむを得ないが、これでは家族には敬遠されてしまうかもしれない。
(荷室)……★★★
「日本のハッチバックも変わったなぁ」と感じたのは、テールゲートを開けるハンドルがテールゲート外側に備わったこと。ドイツ車では常識だが、一昔前の日本製ハッチバックにはこのハンドルがなく、いちいち室内のテールゲートオープナーを操作しなければならず、面倒な思いをしたものだった。
リアシートの座面を跳ね上げ、それからシートバックを倒して荷室を広げるダブルフォールディングもうれしい機能だ。おかげでフラットなラゲッジスペースが得られるし、立てたシートバックが荷物のストッパー役にもなり安心である。しかし、リアシートを立てた通常の状態では、荷室の高さがやや不足気味で、狭い印象を受けた。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
最高出力190ps/7600rpm、最大トルク18.4kgm/6800rpmというスペックを見ると、いまどき珍しく、やけに高回転型のエンジンという印象だが、実際に運転してみると、高回転型特有の扱いにくさや低回転域でのトルクの細さは微塵もない。実用的で、それでいて、スポーティなエンジンに仕上がっている。その秘密は、運転状況やエンジン回転数によりバルブタイミングだけでなくバルブのリフト量も変える「VVTL-i」にある。
おかげで、街なかで普通に乗る場面では、低中回転域のトルクが豊かで扱いやすく、高いギアのまま多少シフトをサボっても走れてしまう柔軟さを持っている。加速したければ、4000rpmも回してやれば期待どおりの力強さを発揮する。
一方、6000rpmを超えてからレブリミットの8200rpmまでは、まるで別のエンジンのように勢いに乗り、スポーティなドライビングを可能にしている。もちろん、常に6000rpm以上に回転を保っていたら疲れてしまうが、高回転でパンチがあり、下の回転でも十分頼もしいのがこのエンジンの素晴らしい点。日常用と非日常用のふたつのエンジンを瞬時に切り替えるような楽しさがある。
組み合わされる6段マニュアルは、やや手応えのあるシフトタッチを示すが、その重厚感が好ましい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
スポーティグレードだけに、乗り心地はやや硬めだが、前席に乗っているかぎりは、段差を超えたときのショックは我慢できるレベルに収まっている。ただ、スピードを上げても硬い印象は変わらず、それでいてフラット感は不足気味だ。もうすこし落ち着くといいのに……。
残念ながらワインディングロードを試すチャンスはなかったが、すくなくとも街なかや高速では、ハンドリングに軽快さは感じられなかった。
(写真=清水健太/2004年9月)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2004年6月1日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2004年型
テスト車の走行距離:834km
タイヤ:(前)195/60VR16(後)同じ
オプション装備:G-BOOK対応DVDボイスナビゲーション付きワイドマルチAVステーション(26万2500円)/ブラインドコーナーモニター&音声ガイダンス機能付きバックガイドモニター(5万9850円)/195/60VR16(16×16JJアルミホイール)(7万9800円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(6):山岳路(1)
テスト距離:365.4km
使用燃料:37リッター
参考燃費:9.9km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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