フォード・フォーカス 2.0L Ti-VCT GDi Sport+(FF/6AT)【海外試乗記】
新時代の幕開け 2012.09.27 試乗記 フォード・フォーカス 2.0L Ti-VCT GDi Sport+(FF/6AT)先ほど日本への再導入が発表された「フォード・フォーカス」。その実力を、ひと足先にタイ南部のリゾート地・クラビで試す。
なぜタイで試乗会?
タイ南部のクラビで行われた新型「フォード・フォーカス」のメディア試乗会に参加してきた。なぜタイなのか? そう疑問に思うのもムリはない。なぜなら、フォーカスといえば、WRCをはじめとする世界のラリーやレースを席巻してきたヨーロッパ・フォードのエース中のエース。フォード・ヨーロッパそのものというイメージを背負っていたクルマだからだ。
実際に、初代と2代目はドイツとアメリカで製造され、世界中に輸出されていた。日本で販売されていたフォーカスはドイツ製だった。2代目フォーカスがパリモーターショーで発表された後に開催されたメディア試乗会には僕も参加したが、イタリア・トスカーナ地方のワインディングロードが舞台だった。
しかし、3代目のメディア試乗会をフォードがタイ南部のビーチリゾート・クラビで行ったのにはワケがあった。日本とアジアパシフィック各国向け3代目フォーカスは、フォードが昨年、タイの首都バンコク北部に建てた最新鋭の工場で製造されるのだ。それ以外にも、新しいフォーカスは、ロシア、インド、アルゼンチン、中国など、世界7カ国の工場で生産されることになった。
これらすべては米フォード・モーターのアラン・ムラーリー最高経営責任者(CEO)が提唱した「Global Focus, One Ford」構想に始まる。「Quality. Green. Safe. Smart.」という世界のどの地域でも変わらぬ価値を盛り込んだグローバルカーを開発し、消費地に近いところで生産するという構想だ。新型フォーカスの開発はヨーロッパで行われ、80%の世界共通パーツと20%の各地域ごとの法規などによって異なるパーツ(ライトユニットなど)を用いて製造される。
その走り、まったくの別物
6ライトのサイドビューが特徴的なエクステリアデザインは、先代型の面影を残しているが、ボディーサイズは少し大きくなった。日本には5ドアハッチバックのみが輸入されるが、他の国では4ドアセダンも販売される。
パワートレインは大きく進化した。2リッター4気筒ガソリン直噴エンジンは、同じフォードの「エクスプローラー エコブースト」が搭載しているエンジンからターボチャージャーを取り除いたもの。170psの最高出力と20.6kgmの最大トルクを発生して、2代目よりも2割パワフルになった。トランスミッションはツインクラッチ式の6段。一気に効率化を図ってきた。
セーフティー面でも大いなる刷新が図られ、30km/h以下での走行中に自動ブレーキがかかるようになった。システムはボルボが採用している「シティセーフティ」に準じるものだ。さらに、VSC(車両安定装置)と併せて、コーナリング時に内側前輪のブレーキを制御してアンダーステアを軽減するトルクベクタリング機構も標準で備わる。これはライバルに対する大きなアドバンテージだ。
クラビの郊外には片側2車線の国道や高速道路も完備され、日本以上にクルマがクルマとして走れる環境にあった。山はないが丘が連続していて、コーナーとアップダウンの続くカントリーロードを新型フォーカスは水を得た魚のように駆け抜けた。エンジンがパワフルになったこと以上に、トランスミッションのレスポンスがツインクラッチ式なので、その走りは従来のフォーカスと比べるとまったくの別物だ。マニュアル変速を行えば、より積極的にエンジンパワーを引き出しながら走ることができる。
乗り心地がさらに快適に
初代と2代目のフォーカスの走りの美点は、俊敏性と安定性という相反する要素が高い次元でバランスされているところにあった。コーナーでヒラリヒラリと向きを変えるのだが、リアタイヤもしっかりと仕事をしていた。その後のコーナーの頂点を過ぎてからの安定性に貢献しており、接地を高めて脱出を確かなものにしていた。
電子制御式に改められたパワーステアリングの正確なところも変わらない。トルクベクタリング機構の効果も大きい。「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」では中高速コーナーでのアンダーステアが消し去られていたが、新型フォーカスはそれに加えて低速域での効果も小さくない。
総じて、フォーカスがこれまで持っていたハンドリングを大きく前進させたのが新型なのだが、さらなる進化もあった。快適性が高まったのだ。フラットで当たりの柔らかな乗り心地となり、それは運転席ではもちろんのこと、後席でも顕著だった。フォーカスは、ドライビングダイナミクスと快適性の大きな進化をもって、Cセグメントの標準を一気に押し上げたと言えるだろう。おまけに、プラスチック然としていたインテリアの質感も格段に向上している。
新しいフォーカスには死角が見当たらない。強いて挙げれば、試乗した時点ではSYNCと名付けられた音声コマンドコントロールが日本語には対応していなかったことぐらいだが、2013年前半の日本発売までに開発が間に合うことを期待したい。
この原稿執筆時にライバルの新型フォルクスワーゲン・ゴルフがドイツで発表され、ハッチバックの両横綱が出そろったことになる。Cセグメントの新しい時代の幕開けだ。
(文=金子浩久/写真=フォード・ジャパン・リミテッド)

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