MINIクーパー ペースマン(FF/6AT)【試乗記】
おしゃれナンバーワン ! 2013.03.15 試乗記 MINIクーパー ペースマン(FF/6AT)……410万9000円
MINIブランド7番目のボディーバリエーションとなる「ペースマン」。SUVクーペという新しいトレンドを取り入れたMINIの最新モデルを試した。
いかにもクーペらしいフォルム
昨年書いた「MINIクーペ」の記事では、“MINIのウェブサイトに22種類もの選択肢がラインナップされている”と驚いていたのだが、今見てみたら31種類に増えていた。クーペの後に「ロードスター」が発売され、7番目のバリエーションとしてこのほど「ペースマン」がデビューした。世界一早い発売となった3月2日は、“MINIの日”にちなんでいる。ダジャレ文化にまで配慮して優遇してくれたのは、オリジナルの時代からMINIにフレンドリーな日本を重視している現れかもしれない。
ペースマンは、簡単に言えば「クロスオーバー」の2ドア版ということになるのだろうが、印象はずいぶん違う。ルーフが後方に向かって下降しており、ショルダーラインの上昇と相まって、いかにもクーペらしいフォルムを作り出している。握りこぶし1個分低くなっているというが、視覚的にそれ以上の鮮烈な効果がある。リアウィンドウが寝かせられ、お尻は丸みを帯びたセクシー系だ。
リアスタイルには、さらに大きな特徴がある。MINIとしては初採用となる横長のコンビネーションランプだ。サイドまで回り込んだ大きめサイズで、クロムでふちどられている。MINIのエンブレムの下に車名を大きく記したのも、初めての試みである。
7番目のモデルとなるとさすがにネタも尽きるんじゃないかといらぬ心配をしたくもなるが、見事に新機軸を取り入れてきた。これまでなかった装いに仕立てあげながら、ファミリーの一員であることはひと目でわかる。基本デザインの秀逸さゆえのことだ。
MINI最高額のシリーズ
クロスオーバーにあったベーシックグレードの「ONE」は、ペースマンには設定されていない。「スポーツ・アクティビティ・クーペ」と称していて、走りがウリだとする考えからだ。1.6リッター自然吸気エンジンの「クーパー」、1.6リッターターボエンジンの「クーパーS」があり、クーパーSには四駆版の「ALL4」も用意される。同じグレードで比べるとクロスオーバーより10万円ほど高く、MINIの中で最高額のシリーズとなった。
試乗したのは、NAエンジンのクーパーである。それぞれのグレードでトランスミッションは6段MTと6段ATが選べるが、試乗車はAT仕様だった。内装は、いつものMINIだ。センターには大きなスピードメーターがあり、ダッシュボードやドアトリムには丸をモチーフにしたデザインが各所に見られる。大きく変わったのは、パワーウィンドウのスイッチだ。これまではすべてのMINIでセンターコンソールに位置していたのが、ペースマンではドアアームレストの上部に取り付けられている。まあ、ごく常識的な場所に収まっただけなのだが。
ステアリングホイールの向こうから、ニョキッと何かが突き出していた。先端には、iPhoneが取り付けられている。ほかのクルマでカーナビがある場所をMINIではスピードメーターが占拠しているため、スマホのアプリを使って代わりにしようというわけだ。回転計の後ろから伸びるステーは専用のもので、目に入りやすい位置に画面がくるようになっている。ナビアプリは「NAVIelite」をMINI専用にカスタマイズしたもので、センターコンソールのジョイスティックを使って操作する。スマホ単体で扱うよりはるかに使いやすいし、電源がつながっているからバッテリーの減りを気にしなくてもいいのがありがたい。
ラウンジ・コンセプトで余裕を
1300kgを超える車重なので、122psというパワーでは驚くほどの加速は望めない。高速道路で料金所からスタートダッシュする際には、室内に大きめのエンジン音が侵入することになる。スピードに乗ってしまえば、それも気にならない。風切り音やロードノイズも、しっかり抑えられている。ハンドリングはごく穏やかで、シティーユースにふさわしい。
取りえはやはり高い視点からくる見通しのよさだろう。うっかり狭い道に迷い込んでしまったのだが、まごつくようなことはなかった。MINIと呼ぶにはいささか大きく育ってしまったが、扱いにくくならないように考慮されている。背が高いとはいってもクロスオーバーよりも20mm低く、全高は1530mmなのだ。タワーパーキングでも安心なサイズである。
「センターレール」は、クロスオーバーから引き継がれている。中央に設(しつら)えられたレールの上に、カップホルダーやメガネケースなどを自由にレイアウトできる仕組みだ。慣れないと脱着や移動がスムーズにいかないが、活用できれば便利に使えるだろう。後席にもレールがあり、必然的にシートは1名分ずつが左右に分かれて位置することになる。「ラウンジ・コンセプト」と名付けられ、くつろぎの空間を演出しているのだそうだ。
ルーフが下がっていくエクステリアから想像するほどには、リアシートでも窮屈さは感じなかった。ただ、サイドウィンドウが狭いので、あまり開放的な空間とはいえない。無理に3人分の座席を作らなかったのは正解だろう。
ファッション性で先頭を行く
ハッチバックモデルの全長3740mm×全幅1685mm×全高1430mmと比べると、それぞれ380mm、100mm、100mmのサイズアップとなる。まったく別のジャンルのクルマと言っていいだろう。オリジナルミニから受け継がれた“コンパクトなボディーと俊敏な走り”という側面は、さすがに薄れてしまった。
MINIのラインナップがこれだけ増殖すると、用途や目的に応じて誰でも好みの1台が見つかりそうだ。走りの優先順位が一番なら、ハッチバックかクーペを選べばいい。開放感を求めるならば、「コンバーチブル」かロードスターだ。ユーティリティー重視なら、「クラブマン」か「クラブバン」、あるいはクロスオーバーということになるだろう。ペースマンは、そういう意味では何が一番の魅力なのかということが見えにくいかもしれない。
ただ、実はMINIシリーズ全般を通じて、もうひとつ大きなチャームポイントがある。ファッションアイコンとしての存在感だ。どのモデルにも、共通した美的感覚が貫かれている。若々しくポップでスポーティー、シンプルさの中にディテールへのこだわりを見せる。走りと並んで、MINIの突出した個性を裏付ける要素なのだ。
そして、現在その部分で先頭を行くのがペースマンだろう。SUVクーペという新しいトレンドをうまく取り入れながら、MINIのデザイン性を発展させている。おしゃれアイテムとしては、申し分のない仕上がりだ。
1つのアイデアから始まり、限られたエンジンバリエーションの中で最大限に独自の世界を拡大してしまった。商売としては、まことに効率がいい。MINIというコンセプトのスケールの大きさを、あらためて思い知らされた次第である。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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