アバルト500/595コンペティツィオーネ/595Cツーリズモ【試乗記】
三者三様の楽しさ 2013.02.08 試乗記 アバルト500(FF/5MT)/595コンペティツィオーネ(FF/5AT)/595Cツーリズモ(FF/5AT)……269万円/344万円/364万円
小さなハイパフォーマンスカー「アバルト500」に、新たな兄弟が続々登場。各モデルの走りを、サーキットで試した。
“走りの500”も今やいろいろ
東京に大雪が降った翌々日、富士スピードウェイのショートサーキットで「アバルトフルラインナップ試乗会」が開催された。「吹雪にでもなったらどうしよう?」と心配もしたが、コース上に雪はなし。せいぜい小雪がちらつく程度で、無事に試乗することができた。
今回の試乗会は、まっさらな新型車の紹介というより、「アバルト500」シリーズのラインナップが見直されたことを知らせるためのもの。その布陣は、「アバルト500」に「アバルト595ツーリズモ/595Cツーリズモ」、「アバルト595コンペティツィオーネ」の計3グレード4台で、そのうち3グレード3台のステアリングを握った。
ひそかに期待していた「アバルト695エディツィオーネ マセラティ」が“お預け”なのは残念だったけれど、そんなこともすっかり忘れてしまった。試乗した3台がどれも楽しかったからだ。
まず「アバルト500」は、“新型”ではなく“新生”とでも呼ぶべきか。その装備を見直したモデルである。これまで標準だったレザーシートをファブリックシートに、フルオートエアコンをマニュアルエアコンに替えるなど、装備の簡略化を行い、295万円だった価格を269万円にまで下げた。
その理由は至ってシンプルだ。アバルトは、これを走らせて楽しむオーナーの比率が高く、その人たちの多くは、車両を手に入れるとすぐに部品を入れ替えるなど、自分好みのチューニングをしてしまう。ならば、最初からレザーのシートはいらないじゃないか。マニュアルエアコンにして価格が下がるなら、その方がよいだろう、というわけである。
理にかなった価格改定。のどから手が出るほどアバルト500が欲しかった人たちには、本当に朗報だと思う。ちなみに、トランスミッションは5段MTのみとなる。
ベーシックモデルを薦めたい
“素のアバルト500”に物足りなさを感じる向きには、新たに「595シリーズ」が用意される。このグレードは、アバルト500で省かれた装備を完備したうえで、エンジンパワーが135psから160psへと高められたもの。これまでオプション扱いだったパワーアップキット「エッセエッセ キット」の人気が非常に高いため、最初から織り込み済みにしたというわけである(キットそのものはこれまで通り継続販売されるので、アバルト500のオーナーも購入可能)。こちらのトランスミッションは、5段のシーケンシャルトランスミッションだ。
この595シリーズは、さらに「595ツーリズモ」と「595コンペティツィオーネ」に分かれる。
ツーリズモは、アバルトの言葉を借りれば“パフォーマンス&エレガンスを狙った仕様”で、前述のとおり、シートがノーマルと同型のレザー仕様になっているほか、オープンバージョンの「595Cツーリズモ」も設定されている。対するコンペティツィオーネは、もっと硬派な“走りのバージョン”。同じレザーでもシートはセミバケットタイプが採用されており、往年のモデル名を冠した「レコードモンツァ・デュアルモード・エキゾーストシステム」によって、その出力特性も変更されている。
実際に走らせてみると、その個性的なネーミングにふさわしく(?)、3モデルの違いはきっちりと現れている。
ただ、もしもあなたが、筆者のような“クルマにはちょっとうるさいオジサン”だったなら、まずは素のアバルト500を味わってほしい。
なによりすばらしいのは、そのロードホールディング性能だ。きっちりとブレーキを効かせても減速Gをじわっと受け止めてくれ、荷重を乗せて転舵(てんだ)したときの追従性は穏やかでリニア。前傾姿勢のまま、見るからにストロークが短いと思えるリアサスペンションは路面を捉え続け、オーバーステア一歩手前の見事なバランスでクルマの向きを変えてくれる。
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身のこなしはそれぞれ違う
コーナーでアクセルを踏み込んだときの内輪接地性もいい。前後のサスペンションストロークは深く、荷重をコントロールしながら運転する楽しみに満ちあふれている。
その身のこなしは、「70年代にコスト度外視で作っていたクルマ」を思わせる。この荷重移動に対する接地性変化のさじ加減を決めたアバルトのテストドライバーは、すばらしいと思う。
こうした姿勢変化の大きな、アバルト500のコーナリング特性を嫌うドライバーは、595コンペティツィオーネのスタビリティーの高さに安心するだろう。固められた足まわりによって荷重の移動速度が素早くなっているため、ステアリング操作に対する車体の反応も俊敏。ただし、ピーキーではない。わかりやすくクイックなのある。
チューニングのセオリーとしてはリアの荷重バランスをもっと減らすところなのかもしれないが、一般的なドライバーへの配慮もあってだろう、弱アンダーステアのテイストが保たれている。ピリ辛というよりは“ピリ辛風”なのだ。もっとも、アバルトの真意は直進安定性の確保にあると思う。このクルマのオーナーは、高速道路でもアクセルペダルを踏み倒すのにちゅうちょしないだろうし、路面からの急激な入力に対してフラットな姿勢を保つことのできるダンパーが必要だ。
一方、素のアバルトに対する25psのアドバンテージは、全開率の高いサーキットでもそれほど印象には残らなかった。これはむしろ、中間トルクが生きてくる一般路の方がわかると思う。
最後に試した595Cツーリズモは、唯一明確にアンダーステアが感じられた。オープンボディーだからといってシャシー剛性が足りないとは思わないが、先の2モデルと同じ感覚で運転していると、ステアリングに対する追従性がワンテンポ遅い。少し待てば曲がっていくのだが、せっかちなひとは「曲がらない」と感じるかもしれない。
しかし、ツーリズモは160psのパワーを使って“エレガント”に走ればいい。振り返ってみれば、いずれの性格もアバルトが付けたモデル名の通り。どれに乗っても、本当に「運転が楽しい」と感じられると思う。
(文=山田弘樹/写真=田村弥)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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