メルセデス・ベンツCLS550 4マチック ブルーエフィシェンシー シューティングブレーク【試乗記】
挑戦的とはメルセデスのこと 2013.01.10 試乗記 メルセデス・ベンツCLS550 4マチック ブルーエフィシェンシー シューティングブレーク(4WD/7AT)……1285万円
名門が名門たりえるのは、変化をおそれぬ勇気と柔軟性があるからこそ。メルセデス・ベンツは「CLSシューティングブレーク」で、再びワゴンの既成概念に立ち向かう。
横綱の多彩な攻め
常に正々堂々と押し相撲で攻める横綱が、意表を突く技を繰り出してきた時の驚きは大きいものだ。相撲通に言わせれば横綱らしくないのかもしれないが、勝負事である限り、攻め方はいつも変わらないと考えるほうが甘いと言われても仕方がない。
2004年にメルセデスが初代「CLS」を発表した時の驚きは、そんな種類だったように思う。世の中の勝手な思い込みを見透かしたかのような鮮やかな一撃。正論と書いてベンツと読む、と言いたいぐらいに常に正攻法で、時として傲慢(ごうまん)なほど自動車とはこういうものだ、とそれぞれの時代のスタンダードを定義してきたあのメルセデス・ベンツが、こんな攻撃オプションも持っているのか、と感心し、また不意を突かれたことをなぜか悔しく思ったものだ。そのメルセデスが今度は新型CLSのステーションワゴン版をして「シューティングブレーク」と銘打ってきた。
シューティングブレークとは、随分と時代がかった呼び名を持ち出したものだが、またしてもメルセデスにやられた感がある。これは古き良き時代への憧れを呼び覚ます、セレブな響きを持つ名称である。
メルセデスの発表資料にも「シューティングブレークとは、1960年代の英国貴族がクーペスタイルの乗用車に余暇を楽しむための道具を収納する広いラゲッジスペースを設定した車両」とその由来が説明されている。確かに貴族的という点についてはその通りだろうが、それ以外の部分についてはちょっと異議がある。
というのも、かつてのシューティングブレークとは、本当に狩猟のために役立つ車というよりは、実用性は二の次三の次で、おしゃれや伊達(だて)さ、遊び心を仲間内で競うような車と言ったほうが正しい。実際に、テールゲートを開けるとそこには銃を2丁納めるための作り付けのケースがはめ込まれただけというものもあった。
そもそもアストンやジャガー、あるいはフェラーリなどの高性能GTやスポーツクーペをベースにしたシューティングブレークでは、森の中やヒースの原野に足を踏み入れられるはずもない。馬の代わりに使うのなら「レンジローバー」でも持って来ないと役に立たないだろう。
要するに、現実にはほとんど使い物にならないからこそ面白く、風流であるという数寄自慢のための狩猟用スペシャルティーワゴンと言うべきものだった。その呼び名自体に、ユーモアというか皮肉が込められていたのだ。
現代のシューティングブレークは実用的
貴族や中東の王族など限られた好事家向けのいわばオートクチュールとは異なり、現代のシューティングブレークはれっきとしたカタログモデルだから、“無用の用”を楽しむ特注スペシャルモデルではもちろんあり得ない。メルセデスは百も承知で、そんな遊び心と粋を感じさせるネーミングを使ったと捉えるべきだろう。
メルセデス自身はこのモデルで「スポーツクーペツアラー」という新たなカテゴリーを作ったと主張しているが、呼び名はどうあれ、「CLSシューティングブレーク」の実像はスタイリッシュなボディーを持つステーションワゴンである。当然ながら、どんなにスタイル優先に見えても必要十分な実用性は確保されている。
CLSシューティングブレークのホイールベースは「Eクラス」と同じ2875mmだが、ボディーサイズはそれよりひとまわり大きく、全長×全幅はほとんど5×2mといったところ。これだけのサイズとなれば多少屋根が低かろうがテールゲートが寝ていようが、実用上の不都合があろうはずはない。
実際、後席のレッグルームも余裕十分で、ルーフライニングが巧妙に抉(えぐ)られているおかげでヘッドルームにも問題はなく、初期型CLSのように狭い所に閉じ込められているような閉所感もない。大きなボディーサイズをぜいたくに使いながら、ちょうどいい具合のタイト感とラグジュアリー感が演出されている室内だ。
ラゲッジルームも外観から心配するほど使いにくくはない。確かにバンパー際の後端の高さは限られているが、VDA式の荷室容量は通常時で590リッター、レバーで後席のバックレストを倒せば最大1550リッターまで拡大できるから、かなり大きな獲物も余裕で積めるはずだ。
安心できるラグジュアリーさがうれしい
日本仕様のラインナップは3.5リッター直噴V6を積む「CLS350」と4.7リッターV8直噴ツインターボで4マチックの「CLS550」、それに5.5リッター直噴V8ツインターボの「CLS63 AMG」という3車種。550は4WDのせいで最も重く、車重は2トンを超えるが、それでも408ps(300kW)と61.2kgm(600Nm)を生み出すV8ツインターボと最新の7Gトロニックプラスのパワートレインはその重さをまったく苦にしない。そのうえ、4マチックにもかかわらずノイズや振動をまるで感じさせない滑らかさはさすがと言うほかない。
550はスプリングレートやダンパー減衰力を電子制御するエアマティックサスペンションが標準装備されているが、スポーツモードを選んでも決してハードではなく、あくまでラグジュアリーとスポーティーのバランスを考えてあるところが好ましい。ボディーの上下動は比較的大きめだが、フラットさは失われず、かつ強力なダンパーが揺れ戻しをきっちり抑えるという挙動はかつてのメルセデス・サルーンをほうふつとさせる。高速でも快適でくつろげるスタビリティーとラグジュアリーさがメルセデスの真骨頂である、と常々思っている私には最近で最もメルセデスらしいモデルに感じられた。
ちなみにリアサスペンションにのみセルフレベリングが付くCLS350はさらにまったり、ゆったりしており、個人的にはこちらがベストだと思う。体にピチピチフィットしたタイトなスーツのようなスポーティーさは他のブランドに任せ、メルセデスはクラシックさを残した伊達なスーツ、いや背広レベルの軽快さにとどめておいてほしいものだ。
それでも保守的だと言う人はいないはず。そのデザインとネーミングだけでも極めて挑戦的である。本来は、例えばレクサスなどがリスクを承知で攻め手を工夫するべきなのだが、逆に先手先手を押さえているのはメルセデスのほうである。伝統を誇る名門ほど変化を恐れないものではあるが、ここはひとつ横綱に一矢報いる挑戦者の奮起を期待したい。
(文=高平高輝/写真=高橋信宏)

高平 高輝
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